「さて、張り切って焼きソバ作るぞ! ……って、あれ?」
俺は目の前の調理用コンロに、固まった。
「……電気じゃない……」
コンロのはずの部分にあるのは、高さ5cm、直径15cmくらい(?) の金属の
中には、手のひらに乗るくらいの、ちっちゃいやつがいる。
ファンタジーRPGで定番の、ドラゴンみたいな姿。背中に生えた赤い毛。
そいつは、うとうと眠ってるようだった…… が、俺がじっと眺めていると、薄目が開いた。
きゅぅっ……
しっぽと頭が、同時にあがる。
伸びしてるのかな、これ?
というか。
「うっ、うごいてる!? なにこれー!?」
「
サクラが細い金属の箸みたいなもので赤いモフモフの背中をこする…… と。
そいつは目を細めて、喉をぐるぐる動かした。気持ちいいのかな?
「もしかして…… コンロって、これ?」
「ふっ…… 当たり前じゃない!」
腰に手をあててばいーんと胸を張り、ついでにアゴをツンっとそらして、なぜかエリザがドヤる。
「料理したことないわね、ヴェリノ!?」
「いや、あるよ! だけどさ、こんなコンロは、ちょっと」
「ああら? ほかに、どんなコンロがあるというのかしらあ?」
「いや、だからさ、電気とか電気とか電気とか……」
「ふっ…… これだから、現代っ子は!」
「いやエリザも現代っ子だよね!?」
だって現実世界の地下生活では、どの国だって火気厳禁なんだよ?
俺、火とか炎とかファイアとかインフェルノなんて、動画かアニメかゲームでしか、見たことないよ?
これも、いちおうゲームだけど!
「ここでは、料理は本物の火を使うんですよ」
サクラが
「火力が強いので、焼きソバ、美味しく仕上がると思います」
「へえ……!」
つまり、この
いいね!
俺、火を使うの初めてだし、なんだかワクワクしてきた……!
「じゃあ、さっそく! 『
俺は手を組み合わせて、
――
「ねえねえ、
――
「
―― やっぱり、火、つかないな……
みんなの生温かい視線を感じる……
「ぶぁっはははは…… ま、ドンマイ、ヴェリノ!」
イヅナが大笑いしながら、俺の背中をばんばん叩く。
「…… 不勉強ですね」
中指で眼鏡をクイッと押し上げつつ、氷のひとことを吐くのは、もちろんジョナスだ。
「お姉ちゃんっ、大丈夫だよ!」
ミシェルは、きゅっと俺の腰に抱きついて励ましてくれる…… うん、元気でた!
金髪碧眼王子が、秀麗な顔面にノーブルスマイルを浮かべながら模範的な提案をしてくれる。
「お手本を見せてもらったら、どうだい?」
「ほんっと、そのとおりだよな、エルリック!」
俺は、コンロの前からさがって、サクラとエリザに頭をさげた。
「じゃ、お願いしゃっす、パイセンがた!」
「ふっ…… あたくしが、特別に、してさしあげてよ!」
エリザが前に進んで、ポシェットから杖を取り出した。
杖を横にかまえ、おごそかに唱える。
『
火の精なるサラマンダー。
汝が力を我に貸したまえ。
……
サラマンダーの入っている檻の上に、円形に連なった文字が浮かび上がり、青白く輝く。
と、その下のサラマンダーの眠そうな目が、急にぱちっと開いた。
目と一緒に、口もぱくっと開く。
ごぉぉぉぉぉっ
真っ赤な口から勢いよく、青い炎が吐き出される……!
炎は、檻の柵を伝い、上にも広がっていく。上側が赤色、下側は青色。
ゆらめいていて、温かくて……
きれいだなー!
―― 檻もサラマンダーも、炎に包まれて、まるで燃えてるみたいだ……!
「カッコいい……! これがプチファイアか……」
「ふっ…… こんなもの、基本でしてよ!」
「燃えるものさえあれば使える呪文ですよ」
サクラが説明してくれる。
「サラマンダーは、いた方がよく燃えるんです…… かわりに、着火の成功率は下がりますけど」
「へえ?」
「ほら、やっぱり、生き物ですから」
「あっ、そうか!」
だったら、まだ、魔法レベル1の俺には無理なんじゃ……?
でも……! やっぱり……! ぜったいに……!
「俺も、やってみたいー! やるー!」
「赤ちゃんかしら、ヴェリノ?」
「やる気があるのが、すごいんじゃないかな、エリザ」
エルリック王子が穏やかにとりなしてくれる。
「ふんっ…… もちろん、習得してもらうつもりでしてよ!」
エリザ、こんなときでも悪役令嬢ぬかりなし、だな……!
『
エリザが、ガラス製のフタのようなものをサラマンダーの上にかぶせると。
シュッ……
あっというまに、火がしぼんだ。
サラマンダーはまた、穏やかに目を閉じたり開けたりしながら、喉をひくひくさせている…… その背中を、サクラが優しく箸でなでた。
「おつかれさま」
「気持ち良さそうにしてるな、サラちゃん!」
「この子たちは背中を掻かれるのが好きなんです」
俺もサクラから箸を借りて、
「よしよしよーし。気持ちいいか?」
はぁー…… 生き物と触れ合うのって和むなぁ……
エリザが嫌みったらしくツンケンした声を出した。
「やる気はあるのかしら、ヴェリノ!?」
「おっ、ごめん! つい!」
俺が箸をサクラに返すと、エリザが杖を振って 「いいこと、ヴェリノ?」 と言い出した。
なにか教えてくれるのかな?
「まず、そのいち! 魔法は、き 「あ、わかった! 気合いと根性だな!」
「いいえ! 違うわ! 減点ね!」
「ええええ……」
ガッカリ。
―― で、エリザが言うには、魔法は。
「記憶と確率とMPよ! それから、正確に呪文を唱えることね!」 ということらしい。
呪文さえできてれば、あとは確率任せか……
「ぅおんっ」
【魔法lv.1ならプチファイアの成功率は50%ですよ。がんばっくださいww】
「2~3回挑戦すれば、大体できますよ。ヴェリノさんなら、大丈夫と思います」
足元でチロルが、横でサクラが、それぞれに俺を励ましてくれる。
「ま、よっぽど運と記憶力が悪くなければ、ね!」
「お姉ちゃん、ファイトっ!」
ふふん、とエリザが鼻で笑い、ミシェルは俺の腕にひょい、とぶらがってきた。
俺の背中をイヅナがばーん、と叩く。
「そうだ、気合いだぞ、ヴェリノ!」
「ヴェリノなら、できるよ」
「できなければ、終わってますがね」
エルリックも、ジョナスまでが……
みんな、俺を、応援してくれているんだ……! (感動)
―― 俺、がんばるよ……!
仲間のためなら、どんなことだって、がんばれる……! (アニメ主人公ふう)
「よっし! じゃあ、やってみる!」
俺は腕を前に突き出し、エリザが教えてくれた呪文を唱えはじめた。