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第48話 家庭科室(6)

「こねすぎないでください! ベタッとなります!」 


「りょーかい!」


「それ、麺が切れてしまいます!」


「おっけー!」


「あっ…… こげちゃう……!」


「うわわわわ……!」


 ぜいぜいぜいぜい(息切れ)


 俺の初めての焼きそば作りは、こうして、なんとか終わった……


「ごめんなさい、注意しすぎちゃって……」


「いや、むしろ俺のほうこそ、ごめん!」


 サクラが申し訳なさそうに謝ってくれたけど、ほんとの話、申し訳ないのは俺のほう。

 ソバと具、ソースを混ぜ合わせながら炒めるのが、めちゃくちゃ難しいんだよね…… (しみじみ)


「サクラが指導してくれなかったら、食えるものが、つくれなかったかも」


「そんなことは」


「いや、ほんと! むしろ、しかりまくってくれて、有り難かった……!」


「えっ、そんな……」


 サクラの顔がめずらしく、ほんのり赤くなる。


「俺、明日の晩御飯、家で焼きソバ作ってみる」


「はい! ありがとうございます」


「いや、練習しなきゃ、ガチでやばいから……」


 サクラのおかげで、今回はなんとか食べられるのができたけどね!

 このままじゃ、危機感しかない。俺が。


 さて、次はエリザだ。

 エリザは、さっきもちょっと麺を炒めたりしてた…… 初めてのはずなのに、けっこういい感じにカッコよかったんだよな。

 悔しいが、焼きソバ王・敗者復活戦 (俺vs.エリザ) は、試食するまでもなく、エリザだろう。

 実際……


「ほーっほっほっほっほっ! こうしてあげるわっ!」


 脚を踏んばり胸を張り、雄々しく仁王立ちになって、麺調理用のでかいフォークターナーを両手に構え、麺と野菜と豚とソースに勝負を挑んでいる、そのさまは……


「ほらほらほらほらほらっ! いい加減、降参なさいっ!」


 熟練サクラのレベルとまではいかなくても、かなりいい線いっている。

 しかたがない。

 ここは、いさぎよく、負けを認めてあげようではないか……!


「エリザー! カッコいいぞ! 頑張れー!」


 俺はエリザに声援を送った…… と。

 ぷにぷにな手が、俺の腕をやわらかくつかむ…… ミシェルだ。


「お姉ちゃんのほうが、カッコいいよ!」


 ミシェルは俺の腕にとりつき、ぷうっとほっぺをふくらませた。

 もー! かわいーなー!


「ボク、エリザさんの応援なんか、しないもんっ!」


「えっ、してあげないの?」


「だって…… だって……っ」


 ミシェルの緑色の目に、じわりと涙が盛り上がる。


「エリザさん、お姉ちゃんに、いじわるいった……!」


 もー!! かーわーいーなー!!

 なんだ、ミシェル!

 なんて、いじらしいんだ!

 もう 『お姉ちゃん』 呼びでもしかたないか、って思っちゃうよ!


 ―― けど、ミシェルがこのままエリザのことを嫌っちゃうと、後味が悪い。

 ゲーム的に、NPCのミシェルには 『エリザは悪役令嬢』 って説明ができないから、難しいけど……

 せっかくみんなで学園祭やるのにさあ!

 仲が悪いまま、っていうのも、ちょっとね!

 よし。なんとかしてみよう。


「ミシェル……」


 俺は、ミシェルのとび色の髪の毛をポンポン、と軽くなでてみた。うーん、さらさらつやつや!


「ミシェルが、お兄ちゃんに肩入れしてくれんのは嬉しいけどさ。俺たちはチームだろ? だから、エリザも応援してあげよ?」


「やだもん。いじわるな子、きらいだもん」


「けどな、ミシェル…… いじわるな子だからっていじわるしちゃうと、ミシェルもいじわるになっちゃうぞ?」


「…………っ!」


 ミシェルの緑色の目が大きく見開かれる。

 よしよし、効いてるみたいだな…… あと、ひと押しだ。

 俺は、年下のかわいい弟を、きちっと正しい道に導く……! きっとそれがお姉ちゃん、いや、お兄ちゃんの役割!


「ミシェルはさっきも、お兄ちゃんのために、たたかってくれたよね?」


「うんっ!」


「お兄ちゃんは、それ、すごく嬉しかった…… あとは、ミシェルが、エリザにも優しくしてあげてくれたら、もっと嬉しいな」


「そうなの……?」


「うん。お兄ちゃんは、いじわるな子も、ミシェルみたいな優しくて強い子も、みんなで仲良く遊ぶのが好きなんだ」


「……! わかったよ、お姉ちゃん……!」


 両手でゴシゴシと目をぬぐうと、ミシェルは大きく、うなずいてくれた…… 


「ボク、エリザさん応援するよっ! お姉ちゃん!」


「うん、それでこそ、ミシェルだ!」


 よかったあ!

 せっかくのゲームだもん。

 やっぱり、みんなで楽しく遊ぶのがいいよね!


「偉いぞ、ミシェル!」


 俺は、ミシェルをよっとかかえあげ、高い高いする。

 ミシェルがきゃっきゃっと声をあげて笑う。

 もー!!! かーわーいーなー!!!


 そんな俺とミシェルを、エルリック王子とイヅナがほほえましく見つめている。

 ジョナスは…… 相変わらず、毒でも盛りそうな感じだけどね!



「応援してもらうまでもなく、できたわよ?」


 エリザが湯気のたつ焼きソバの皿を、俺とミシェルの前に置いてくれた。

 エリザも相変わらず、ツンツンしてるう! (けど、ちょっと耳が赤い)


「ボク! お姉ちゃんとすわる!」


「おっ、もちろんオッケーだ、ミシェル!」


「わーい!」


 ぷにっ

 ミシェルのおしりが、俺の膝のうえに乗ってきた。

 サクラが、目を輝かせてこっちを見てるな…… いいシーンなんだろうな、これ。

(あとで、スチルがないか調べてみよう)


 ま、それはともかく。


「「「「「「「「「いただきまーす!!!!!!!」」」」」」」」」


 青のりとソースのこうばしい匂いが漂うなか。

 俺たちは声をそろえて、手を合わせたのだった。


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