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第56話 それぞれの視点4  歌の神ミューズ様


 ありえない。

 最初の賛美歌を聴いたときは、まあまあ、だと思っていた。


 でも次の瞬間にはやられていた。

 は? なにこのメロディー、リズムにテンポ。

 何より驚かされたのは高い歌唱力に、技術、声。全てにおいて完成度が高い。鑑定ではそんなものは見えなかった。


 そう思ってハッとする。もし、鑑定されることを予め想定して、あえてフェイクを入れていたとしたら?

 そんなことがあるだろうか。情報を秘匿することで歌を聴かせて衝撃を与える。だがたかが人間が、女神モドキがそんな高等なことができるはず──。

 そう思い、再鑑定をかけた。


「は」


 カノン・キラボシ。

 贈物ギフト

《|偶像《アイドル》∞》、《|聖女《アイドルⅡ》AAA》、《|魅力《カリスマ》AAA》、《歌唱力AAA》、《美声AAA+》、《女優AA》、《演技力AAA》。

 個別贈物ユニーク・ギフト

《|歌姫の魅力《カリスマ》AA》、《|異世界叡智《ワイズウーマン》》、《|全言語自動翻訳《チートモード》》、《鑑定AAA》、《アカシックレコード閲覧権限者》、《|異世界の女神《デア》》……。


 化物だった。

 極限まで磨き上げた歌唱力。魂を震わす歌声。

 歌に半生をかけた情熱と狂気に近い思い。強烈かつ圧倒的なカリスマ。

 それだけでも驚愕に値するのに、よりにもよって《アカシックレコード閲覧権限者》だというのなら、自分の鑑定が機能しなかった理由にも納得がいく。


 音楽の神である自分よりも上位の存在。

 本来の権能、それこそアカシックレコードを使えば、ここまで様々な小細工をしなくても良かったのではないか。そう思ったけれど、歌を聴いて、なんとなくカノン・キラボシのことが分かってきた。


『まだ聖女アイドルとして、私の歌は完成してないわ。それは当日にならないと条件が揃わないから』


 負け惜しみだと思っていた。

 でもそれは違ったのだ。この計算された舞台、演出、服装、そして観客。全てが揃って聖女アイドルとして歌は完成した。全てに意味があったのだ。

 そして一人ではなく数多の人が関わり、紡いで、作り上げた。オーケストラとは違う。けれど調和のとれたメロディー。同じメロディーだけれど、テンポを変えるやり方は耳に残りやすい。


 歌詞も、歌もメロディーも全て、私たち神への挑戦権にふさわしい。

 何より聞いていて胸が弾む。楽しい。


 楽しいと思うなんていつぶりだろう。

 素敵でしょう、これが私だ、と強く伝わるメッセージ。


(ああ、ずるい。こんな、愛と希望を詰め込んだ胸を突き動かす歌……っ)


 思わず舞台に上がって一緒に歌いたくなるほど嫉妬しそうになる。

 ムカつく。

 本当に腹立たしい。

 嫉妬に狂いそうになる。それと同時に羨ましいと思ってしまう。

 自由で、この世界の常識を全てぶち壊す大胆さ。何もかも規格外だ。


 音楽の神ブリードはあまりの衝撃にフリーズしているし、楽器の神ガンダルヴァは感激して泣いている。予想以上で、一曲で終わりかと思ったらバラードを披露して、最後にテンポの良い盛り上がる歌を一曲と新曲三曲も歌いきったのだ。

 全部で十分も満たなかったけれど、奇跡のような時間だった。


(あの子の肺活量どうなっているのよ!?)


 そんな感想が真っ先に出る私も大概だけど。

 歌い終わった瞬間、一瞬だけ静まりかえり、次の瞬間爆発的な拍手喝采の嵐だった。本当にやってくれたわ。


 そう嫉妬まみれで憤慨しつつも、満足感に酔いしれていた。この嫉妬が悪用されるなんて、この時は思いもしなかった。



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