そろそろ眠ろうとして、ベッドに潜り込むと本日は人の姿で眠るようだ。
「ねえ、ダレン」
「なんですか?」
すでにベッドに横になっているダレンは普段のキリリとした感じではなく、寛いでふにゃっとしている。それはそれで貴重な顔だ。
思えばダレンはいつも余裕があって、臨機応変に対応していることが多かったけれど、このところは本当に人間味が増している気がする。それもあっての今回の暴走だったけれど、無事に乗り越えられてよかった。
「
「そう考える根拠は?」
石榴色の瞳がキラリと光った。途端に色香が増すのは何なのだろう。
「確か伝承には、第一の白い騎士から出現すると記載があったのを思い出したの。そしておそらく八回の死に戻りで起こったことを考えると、第一騎士の
こうして死に戻りの記憶を思い返すと、見事に
それだけの時間や財力、人材も欠けていたし時間も、知識もなにもかもが足りなかった。
「どう?」
「概ね正しいと思います。……それでどうしますか? 今から皆を起こして緊急招集を掛けまし」
「ううん、明日の朝にしましょう。緊急性は高いけれど、頭の働かない夜にする話じゃないわ」
そう考えをまとめてベッドに横になる。ダレンに寄り添うと、そっと私を抱き寄せた。引っ付いて寝るのがダレンも私も好きらしい。
「わかりました。では明日に」
「うん。おやすみ」
すでに八回の死に戻りを繰り返した私は、九回目の時間軸に戻った段階で疫病や魔物の大量発生、王位継承権争いに対して準備をしてきた。想定した時期よりも早く厄災が起こったとしても対処できるように、カノン様とダレンと計画を練り上げてきたのだ。
(九回目のこの時間軸が始まってから積み上がってきた結果があるからこそ、今この瞬間眠るだけの余裕がある。……本当にここまでこぎ着けることができたんだわ)
ダレンの心音を聞きながら気づけば眠りにつく。温もりと心音が心地よくて、夢など見ずにぐっすり眠ることができた。
***
翌朝。
目が覚めたらダレンの姿がなかった。モーニングティーまでには戻ってきたが、二通の手紙を持って来ていた。
一通目はローレンツ兄様で、『今後の話し合いをしたいので王都で会いたい』と言うものだった。明らかに自分が格上だから出向いてこいという圧を感じたが、相手の本拠地にほいほいと行くほど暢気ではない。特に
(手紙の返事は少し遅らせよう)
そう思い、次にランドルフ兄様の手紙を読んだ。何でも『大規模な魔物討伐の依頼が入ったので話し合いを延期してほしい』という旨の内容だった。こちらも
(そう……かも……?)
「それより、みなに緊急招集を掛けておきました」
「あ、うん。ありがとう」
相変わらず仕事が早い。議題は
(それにしても急ピッチでカエルム領地内の衛生対処、主に下水道や公共事業もやっていて本当によかった!)
今回招集した面々は、侍女長マーサとその夫アルドワン子爵、教会側からセイレン枢機卿、護衛騎士長シリルとランファ、堕天使の武器屋ウルエルド様、婚約者であるエドウィン様の養父リスティラ侯爵公、アストラ商店街の元締めでもありティティ商会会長のブライアン・エムイズ様、商業ギルドを管理しているノートル男爵、音楽の参神衆、
「以前から女神カノン殿が懸念していたとおり、悪魔と堕天使の食事のために疫病をばら撒く未来を予知されていました。そして残念ながらその予知は、まもなく王国に暗い影を覆うでしょう」
唐突にダレンがそう言い出したので、私は一瞬頭が真っ白になった。
(……ん? 確かにカノン様も、八回目の死に戻りを見ていたからこその提案だったけれど? 予知?)
「自分も花音様から
(シリルまで!? カノン様はそんな根回しまでされていたの!?)
「教会でも、女神カノン様、聖女レイチェル様とお会いした時から今回のことを想定して、様々な資金援助及び共同事業を提案してくださいました。民間療法、衛生管理の改善に石鹸などの商品化、温泉施設などの運営などなど。また孤児院の運営方針なども参考になっております」
(そうそう、カノン様は凄いのですわ)
そう深々と頷く私に、皆の視線に気づく。その眼差しは私がカノン様を見るような、とてもキラキラして嬉しそうなものだった。
(ふふっ、傍から見たらきっと私もあんな風に──ん?)
その瞬間、自分がその眼差しを向けられる対象になっていたのだと、遅まきながら気づいた。気づいた瞬間、耳まで真っ赤になったのは内緒だ。