おねがい。
ずっと、ずっと、
離さないで、離れないで。
ずっと私を捕まえていてほしいの。
私なんか、どうなっても構わないの。
あなたに捕まえていてほしいの。
このままずっと。
あなたは私を監禁している。
そう思っているなら、それがいいと思う。
あなたはあなたの意思で私をここに閉じ込めている。
そう思うならそれがいいの。
見ることを許されたテレビで、
私が行方不明なことを見て、
やがて行方不明のニュースも流れなくなって、
私とあなたは二人ぼっちになる。
あなたは私をさらったことで、
引き返せないところにいる。
自首して犯罪者にもなれない。
私を捨てることもできない。
私を閉じ込め続けなければならない。
あなたは日の当たる道を歩けない。
薄暗い影をまとうようになった。
あなたは引き返せない。
あなたは私を殺せない。
それだけはわかっているの。
私を殺すとこの部屋の均衡が崩れるの。
あなたはあなたである限り、
この部屋の危うい何かを壊すことができないの。
私とあなた。
私を捕まえた、あなたが背負った十字架。
私は人形のように微笑む。
おねがい、離さないで、離れないで。
あなたへのおねがい。
あなたは私の手をそっと取って、
離さない、離れない。
ずっと一緒だよと語る。
小さな部屋は私たちの世界。
児戯のように繰り返されるおねがい。
ずっとずっと捕まえていて。
明日なんて来なくてもいい。
暗闇のような未来。
希望も絶望もないここで、
私はおねがいする。
離さないで、離れないで。
ずっと、ずっと。
命はてても。
腐り果てても。
骨になっても。
魂だけになっても。
ここでずっと、永遠に。
混ざりあえないその魂を、
きっと救える神などいない。
さよなら現世。
この部屋がすべて。
願ったものはすべてここにある。