裏切られ、奪われたもの。
たくさんのものを奪われた。
愛も信頼も、物理的なものも。
私には、傷だけが残った。
裏切者は華々しく成功した。
裏切りを知っているのは私だけ。
誰も裏切り者の本当の姿を知らない。
それならばそれでいい。
私は傷をなでる。
この傷を抱え、私がまだ生きていることを、
裏切者は知らない。
裏切者をどうこうしようとは思わない。
私は、また、信頼を積み重ねる努力をする。
自然な笑顔を浮かべるのは難しかったけど、
少しずつ、信頼が戻っていくのを感じた。
協力してくれる人には感謝して。
表向き、傷は癒えていく。
心の中では傷がなかなかふさがらない。
裏切られた事実は消えない。
でも、裏切者を抹殺したとして、
傷が消えるとも思わない。
私は、いまいち愛というものを信じられなくなっていたが、
献身的に私に尽くす女性に出会った。
裏切者に奪われた愛というものを、
もう一度信じてみようかと、そう思った。
半端に長い月日が過ぎて。
裏切者はその業界において確固たる地位を築いた。
笑いが止まらないだろうなと私は思った。
その業界におけるパーティ。
そこで事件は起きた。
パーティで、裏切者の過去現在の裏切りが、
プロジェクタースクリーンに映し出されたのだ。
そんなことをしたのは私ではないのだが、
裏切者は社会的に抹殺された。
「あなた」
献身的に尽くす妻が声をかけてきた。
「あなたのためにしたのよ」
妻は微笑む。
「あなたは裏切らないわよね?」
裏切りの痛みを知っている。
それは多分、私だけでない。
傷はひとりではふさげない。
そして、私は裏切れない。