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第122話 紙屑のように捨てられた

あーあ。と思った。

僕は紙屑のように捨てられた。

要らない紙屑を捨てるように、ためらいもなくポイッと。

結構いろいろなものから捨てられたなぁ。

長いこと付き合っていた彼女とか、

結構がんばって働いていた会社とか、

幼馴染の友人とか、

遺産の分け前が減ると言って家族からも捨てられた。

とにかく、思いつく限りのものから紙屑を捨てるように捨てられた。

要らないものはゴミ箱にポイ。

僕なんてその程度だったらしい。


僕は弱い存在だ。

それこそ、ペラペラの紙みたいな存在で、

力が強いこともない。

我を通そうとすることもない。

いてもいなくてもいいような感じの紙きれのような存在。

紙きれだったら紙屑にしてポイ。

まぁ、みんなにとってはそんなものだったんだろうなぁ。


たださ、紙は紙でも、何かが書きつけてある紙ってあるよね。

何も書いていない紙だったらメモとして使える。

何かが書きつけてあったら、

それが何かの役に立つかもしれないよね。

書いてあることがわからなかったら、

どんなにすごいことが書いてあっても、

紙屑になっちゃうってことだよ。

紙と、記されたことは、

価値がわかる誰かにしか役に立たないということかもしれないね。


紙屑のように捨てられた僕の中には、

世界中の精神や情報や生命の営みにアクセスできる鍵がある。

紙屑のように捨てられたけれど、

僕の中には、神への鍵があるんだ。

世界を意のままにして、すべてを知る鍵がある。

この場合の世界は、広げようと思えばどこまでも広げられる。

宇宙とされることの秘密まで解き明かすことができる。

紙屑とされた僕には、この世のすべての答えが書いてある。

みんなそれを読めないから紙屑として捨てた。


僕はもう少し、この世界をこのままに流していこうと思う。

鍵を使って介入するのは、なんとなく好きじゃないだけだ。

僕を捨てたみんながどうなろうと、

捨てられたからもうどうでもいいんだけど、

まぁ、ほどいい加減で適当に生きていればそれでいいよ。


僕はゴミ箱に捨てられた紙屑の神様。

鍵を使えば世界はいくらでも変えられる。

屑みたいな世界かもしれないけれど、

僕はそんな世界も愛している。

介入するにはもったいないほど混沌としている。

たくさんの思いが書き連ねられた紙のような、

頼りないそんな命がたくさん生きている世界だ。

それぞれの思いや経験を紙屑にしちゃいけないね。

世界を変えるようなものが記されているかもしれないね。

そんなものを紙屑として捨ててはいけないし、

混沌の世界をまっさらな平和で覆うのもよくないと思うんだ。


紙屑のように捨てられたけれど、

僕はこの世界を愛している。

世界を変える鍵がなかったとしても、

僕は変わらずこの世界を愛したと思う。


介入は好きではないけれど、

この鍵を使って、紙屑のように捨てられてつらい思いをした人を救おうか。

うん。なんだか神様みたいだね。

人知れずすごい力を持っている、

紙屑の神様。

何でもできるけれど、まずは笑顔を増やそうか。

結局、何でもできるけれど幸せを願っちゃうんだよなぁ。


さて、世界をちょっと幸せにしてくるよ。

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