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第292話 筆箱のお気に入り

筆箱の中にはお気に入りを入れたい。


小学生、中学生、高校生、大学生、

学生の期間はそれなりに長かった。

長かったけれど、一貫していることがあった。

それは、筆箱にはお気に入りを入れておくこと。

これがあるとないとでは大きく違う。

ノートは最後まで使い終えたら、

あとで読み返すか、書き足しをするかになるけれど、

筆箱の中身はずっと使うものだ。

だからこそ、お気に入りを入れておきたい。

それはやる気に直結する。

勉強の成績は中の上程度だったけれど、

そこまで行けたのは、お気に入りがあったからだと思う。

無かったら、成績はもっと落ちていただろう。


小学生の頃は、

使わない消しゴムを入れていた。

ちょっとおしゃれな形をしていて、

香りもちょっとついている。

いつも使う消しゴムはシンプルで消しやすい四角いものだけど、

筆箱の中に使わないおしゃれ消しゴムがあると、

気分がよくなる。

また、小学生の頃はシャープペンシルが使用禁止だった。

中学生になったらシャープペンシルを入れるんだと思いながら、

ちょっとおしゃれ鉛筆を使っていた。

ただ、鉛筆は削られて短くなってしまう。

おしゃれ消しゴムは使わなければずっと筆箱にあるけれど、

おしゃれ鉛筆は使っていると短くなってきて、

やがて使えなくなってしまう。

おしゃれ鉛筆で勉強をしているとなんとなくやる気になるけれど、

短くなってしまうのがちょっと困りものだった。


中学高校となると、

シャープペンシルを二つ持つようになった。

書き心地の良さを追求したものと、

なんとなく見た目が気に入ったもの。

小学生時代のおしゃれ鉛筆の延長上にあって、

勉強の時は書き心地の良いものを使い、

友達とのやり取りなど、気分転換の時はお気に入りを使った。

また、複数色のボールペンも使っていたり、

いろいろな色の水性ペンなども筆箱に入れた。

水性ペンはバリエーションが豊富で、

お気に入りの色をたくさん買い込んで、

筆箱の中を色とりどりにした。

水性ペンと複数色のボールペン、シャープペンシルで、

ノートは色とりどりに仕上げられた。

勉強していると、ノートがお気に入りの色になっていくのが楽しかった。

筆箱の中もお気に入りがいっぱいだったけれど、

ノートもお気に入りで仕上がった。

学生を終えたときにまとめて処分してしまったけれど、

ノートを仕上げているのは楽しかった。


学生を終えて社会人になった。

事務の仕事に就いて、今も筆箱を持っている。

仕事につかえそうなものを筆箱に入れて、

業務連絡であったり、

メモを取る際などに、

お気に入りの筆記具を持ち出している。

私の場合は筆箱の中身がお気に入りだと嬉しいけれど、

人によっては、ネイルがきれいだとテンションが上がるのかもしれない。

いつも見ているものがお気に入りというのは、

それだけでやる気につながるんだろうなと思う。

学生の頃から脈々と受け継がれてきた、

筆箱の中のお気に入りは、

社会人になって、もっといろいろなものを入れている。

学校の決まりなどもないし、

シャープペンシルを使ってはいけないというものもない。

とにかく好きなものを好きなだけ詰められる。

社会人には責任が伴うけれど、

責任をともなってなお、

自由があるのがとっても嬉しい。

筆箱の中をどんなお気に入りで満たしても、

仕事をちゃんとできればそれでいいのが嬉しい。

大人になってよかったなと思う。


大人になってしばらくしているけれど、

子どもの頃に小さなことにもキラキラと喜べていた、

あの頃も悪くなかったなと思う。

結局人生そんなに悪くないんだろうな。

それはきっといつもお気に入りがそばにあったから。

筆箱を開ければそこには必ず何かのお気に入りがあったから。

お気に入りのある人生は、悪くない人生なんだと思う。

好きがいつでもそこにあるって、幸せだと思う。


私のお気に入りはいつでも筆箱の中にある。

好きが詰まった筆箱は、

ずっと私の宝物だ。

多分これからも。

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