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第23話 沢田くんとBL展開


「沢田っ……俺、お前にどうしても言いたいことがあるんだけど──」


 沢田くんをお姫様抱っこしたまま小野田くんが切り出す。

 下ろせばいいのに。

 沢田くんはそんな小野田くんを不愉快そうに睨み返しているけど、


【何? 殺されるの俺? 死ぬの? ちょっ、待っ、嫌ああーーーっ!!! 逃げらんないんだけどーーー!!((((;゚Д゚)))))))】


 多分恐怖で顔がこわばっているだけ。

 心の中はもう失禁寸前のチワワみたいな状態だ。


【照れるぜ。でももう後には退けねえ! 言ってやる!! 俺の思いを全部ぶちまけてやる!!】


 そう決意している小野田くんはまるで丸っこい宇宙船で地球にやってきた肩パットのでかい宇宙人みたいだ。

 地球くらい、気合だけで破壊しそうな雰囲気がある。

 息を吸い込み、眉間にシワを刻ませ、恐ろしい凶悪顔で小野田くんは言う。


「沢田あああ!! 俺と友達に──!!!」

「ごめん」


 沢田くんは間髪を入れずに断った。いや、ただ怖くて謝りたくなっただけだろうと思う。


【命だけは助けて!!。゚(゚´ω`゚)゚。】


 ……うん。まあそうなるよね。沢田くんの気持ちはめちゃくちゃ分かる。


【ガーンΣ(゚д゚lll)なんでっ……?】


 ショックを受ける小野田くん。まあ、その気持ちも分からないわけではない。



「てめえ、コラ沢田!! 何で断るんだよオラア!!【どうして、どうして? 俺の悪いところがあるなら直すから教えてーっ!!。゚(゚´Д`゚)゚。】」


 小野田くんはやや乱暴に沢田くんをベッドに乗せると、勢い余って彼を押し倒してしまった。


「!」

 ドキッとしたようにベッドの上で見つめ合う二人。


 えっ、これBLタグついてたっけ? 過激表現ありだっけ?

 私もうっかりそんな勘違いを起こしそうな体勢だ。

 でもご安心ください。これはコメディーです。


「……!」

 不機嫌な顔をした沢田くんが、すぐに小野田くんを突き飛ばしてベッドから落とす。

 クールな眼差しでめちゃくちゃカッコいいんだが。



【ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、知らない人!! うっかり手が当たっちゃいました!!:(;゙゚'ω゚'): だって急に怖い顔が迫ってきて怖かったんですぅ〜〜!! 死ぬかと思ったんですぅ〜〜!! お願いだからもう許してください、訳のわからないインネンつけて来るのはやめてくださーい!! 街のどこかであなたの肩にぶつかったりしたことがあったのかもしれないですけど覚えてないんです、ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!!_((( _*ω*)))⁾⁾_ペショ】



 沢田くんは心の中で全力の五体投地。手は偶然当たっただけで、クールな表情は恐怖で顔が固まっちゃっているのだと私だけが理解。



「沢田……【俺、沢田に睨まれてる。嫌われてる⁉︎ うっ……うっ……(;ω;)やっぱり俺みたいなハグレもんとは友達になりたくないってことか……】」



 小野田くんは傷ついた様子で、フランケンシュタインのように立ち上がった。



「……俺は帰る【あばよ、沢田……。早く元気になれよ……。゚(゚´ω`゚)゚。】」



「小野田くん!」

 私は呼び止めたけど、小野田くんは飛び出すように部屋を出て行ってしまった。

 せっかく沢田くんと友達になろうとしていたのに、なんだか可哀想だ。


【助かったー】

 一方、沢田くんは心からホッとしたようにため息をついている。

 小野田くんの心、沢田くん知らず。

 黙っていようと思ったけど、このままだと小野田くんがあまりにも不憫だ。私は沢田くんに向き直る。


「沢田くん。小野田くんはね、沢田くんと友達になりたかったんだと思うよ。ちょっと口調は乱暴だけど、沢田くんのこと心から心配していたみたいだったよ?」

「えっ……」


 私の言葉に、沢田くんはピクッと眉を動かす。


【あの人が俺のことを心配……? まさか。っていうか、あの人誰⁉︎】

 沢田くんはやっぱりピンと来ていないようだ。

 どうしよう。このままじゃ二人は永遠に友達になれない。


 その時、偶然私の視界に本棚が入った。起死回生の一手がその背表紙たちの中にあった。

 小学校の卒業アルバムだ。

 もしかしたら、小野田くんと沢田くんが一緒に写っているかもしれない。


「あっ……これ、卒業アルバム? ちょっと見てもいい?」

「!!【卒アル⁉︎ は、恥ずかしいーーーっ!! あれはまさに俺の黒歴史が写っていると言っても過言ではない恥辱の写真集だからな……。でも佐藤さんに嫌われたくないしなーっ! これは究極の選択!! 腹が減っている時のカレーorラーメンどっちにする? ぐらいのせめぎ合い。そんな時俺はいつもうどんを選んでしまうのは何故なんだろう。どうでもいいけど】……うん」



 沢田くんは悩んだ末に閲覧を許してくれた。

 私はお礼を言って、アルバムを取り出した。


 小学生の沢田くん。どんな感じなんだろう?

 ワクワクしながらページを開く。


 すると、さっそく6年生たちの集合写真が1組から4組まで4ページにわたって掲載されていた。


 沢田くんはどこだろう?

 1組から順に見ていくけど、なかなか見つからない。



【1組なんて輝かしい数字のついたクラスに俺がいるはずない……。俺は六年間ずっと底辺の4組から這い上がることはできなかった。いや、別に成績順にクラス分けされている訳じゃないから4組だって優秀なやつはいたよ? ただ、俺はずっと憧れの1組や参謀的な立ち位置の2組や個性的で明るい3組のような眩しいクラスに入ることはできなかった。そんなやつはきっと俺だけだっただろう……!】



 4組ね。了解。


 2組3組は飛ばして、4組のページに即移動。

 するとさっそく沢田くんが見つかった。


 全体写真の中で一際目立つ、右上に配置された枠の中に。



【写真撮影の日に限っていつもお腹が痛くなる……! 悲しい黒歴史を佐藤さんに見られてしまった……!。゚(゚´Д`゚)゚。】



 うんうんいるよね、そういう人。








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