俺の名はチャッピー。
前世ではその名を聞けば誰もが震え上がる連続殺人鬼だった男だ。
ある日俺はドジを踏み、
そんな時逃げ込んだのが、たまたま見つけたオカルトグッズの専門店の中だった。瀕死の俺はそこに陳列されていた子犬のぬいぐるみに魂を移されてしまい、それ以来こうしてぬいぐるみの中で生き続けている。
だがいつか俺の身代わりになる誰かを殺し、そいつの体を手に入れて自由になるのだ!
ケケケケケケ!!
というわけで、賢い俺はさっそく小学校のバザーに潜り込み、商品のフリをして獲物が引っかかるのを待った。そしてついに俺を購入したマヌケの家に侵入することに成功したのだった!
そのマヌケは沢田空という名のガキだった。
「わんわんっ【殺してやる〜!!】」
「……」
なんで動いているんだろうって俺のことを不思議そうに見ているガキの指に、俺は思い切りガブッと噛みついてやった。
「わっ(可愛い……)」
空はますます不思議そうに俺を見て、それから嬉しそうに笑った。
ケケケケケケ!! 俺に噛まれて笑うとは、恐怖で頭がおかしくなったようだな!!
これから毎日お前を恐怖のどん底に突き落としてくれる!! お前が弱ったところで、とどめを刺してくれるわ〜〜!!!
完璧な計画だーー!!
……そして辛抱強く待つこと8年。
何度か空の母親に捨てられるも根性で舞い戻り、ようやく空を仕留める絶好のチャンスが訪れた!
それは高校二年になったあいつが風邪をひいて寝込んだ日のことだった。
珍しくあいつの家に友達がやってきた。それも、二人も同時にだ!
こんなことは今まで一度もなかった。
空も動揺していたらしく、隙だらけだった!
チャーンス!!!
「わんわんっ【沢田空! 死ねええ!!】」
飛びかかってまずは手にガブリ! 続いて、膝をついたあいつの足首にもガブリ!!
空は俺の渾身の連続攻撃による痛みで気を失った!!
待っていたぜ、この時を!!
いよいよとどめだーっ!! ケケケケケケ!!
だが、嬉しさのあまりダンスを踊っていたその時、邪魔が入った!
「それにしてもよくできてるなあ、この犬のおもちゃ。本当に生きてるみてえで気持ちわりーな」
空の友達(⁉︎)の大男が、いきなり俺の首根っこをつかまえてポイっと家の外へ投げ捨ててくれたのだ!!!
なんてことをしやがるんだ、あの大男めーーーっ!!!
「わん……わん……【はあ……はあ……】
落ちた先で車に轢かれて負傷した足を引きずりながら、俺はまた根性で沢田家を目指して歩いていた。
あの大男め。なんの恨みがあってこんな真似を。
今度会ったら絶対に殺してやる!
沢田空を殺した後で、絶対にあいつも殺してやるーーっ!!
恨みのエネルギーで燃えたぎっていたその時、なんと正面からさっき俺をひどい目に遭わせてくれたあの大男がしょんぼりした顔つきで歩いてくることに気がついた!!
「わん……!【さっきの恨み〜〜!! 思いしれ、大男!!】
俺は最後の力を振り絞り、駆け出して大男に飛びかかった!
「ん……? こいつは、さっきの……!」
大男も俺に気がつき、しゃがみこんで俺をガシッと捕まえた。
「わんっ! わんっ!【放せ、放せ〜〜っ!!】」
「沢田の犬、か……。確か名前はチャッキーだったな」
「わんわん!!【チャッピーだこのやろう! それは本家の名前だろうが!! 伏字にしろ、伏字に!! パクリがバレるだろーが!!】」
俺の叫びを無視して、大男は呟く。
「クソッ、沢田のやつ! なんで俺を友達にしてくれなかったんだ!! こうなったら……」
何故か荒れた様子の大男が、恐ろしい形相で俺を睨んだ。
ま、まずい。
元殺人鬼の直感が働く。
こいつの目。何人もの人間を地獄へ叩き落としてきた目だ。
コイツはやべえ。
逃げなきゃ、俺が殺される……!
俺は大男の手に噛み付いて逃げようとした。だが、男は俺を自分のカバンに押し込んでどこかへ攫って行ったのだった……。
やめろーーっ!! 俺をどうする気だーーっ!!!
そして数分後。
「そら、チャッキー。今日からここがお前の家だぞー♡」
どうやら大男は自分の家に俺を連れ込んだようだった。
ていうか俺の名前はチャッピーだっ!! 間違えんな!!
大男は俺の気持ちも知らず、俺をぎゅうっと抱きしめる。
「沢田の代わりに俺の友達になってくれよな、チャッキー。あぶれもん同士、仲良くやろうぜ!」
いやいやいやいや。お前の顔は怖いからやだよ。
どうせ殺して成り代わるなら沢田の顔がいいんだよ!
頼むから頬ずりだけはやめてくれ!!
いやあああああああああ〜〜〜〜!!!!
怖いよーーーーっ!!! 助けて、おかあさーーーん!!!
こうして俺と大男との死闘の日々が、今幕を開けたのだった──。
【番外編 完】