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第二章 沢田くんとぼっちボール

第1話 沢田くんとイメージチェンジ


 土曜の朝、私はついに決心して髪を切りに行った。

 今までは中途半端な長さのセミロングで前髪も長めだったけど、勇気を出して前下がりの丸みのあるショートボブにしてみた。

 まるで文化部から運動部になった気分。かなりイメージチェンジしたと思う。


 これでモブから卒業できるといいんだけど。

 ささやかな私の第一歩だ。


 月曜、緊張しながら教室に入る。


「おはよー」

「おはよ……んっ?【あれ? 誰? えっ、うそまさか景子ちゃん?】」


 麻由香ちゃんが私に気づいて目を白黒させた。


「やだーどうしたの? その髪型! 超かわい〜〜!【悔しいけど可愛くなったな! 今まで超地味だったのにー】」

「あはは。ありがと」

「どういう心境の変化?」

「まあ、いろいろ」

 いつもはクールな杏里ちゃんも【可愛いじゃん】と笑ってくれる。


 良かった。女の子たちからはなかなかの好印象だ。


「あれ? 誰かと思ったら佐藤さん?」


 次に爽やかそうな笑顔で近づいてきたのは森島くんだ。

「びっくりした! その髪型似合ってるよ【磨けば光るタイプだったか】」


 ムカつく人だと思っていたけど、褒められるとやっぱり嬉しい。


 あとは沢田くんの評価が気になるところだ。

 教室に入ってくる人を、ソワソワしながら何度も見てしまう。


 その時、艶のある黒髪が何も言わずに入ってきた。

 沢田くんだ!

 一気に緊張で喉が渇く。

 果たして沢田くんは私を見てどんな反応を示すのか!!



「お、おはよう〜沢田くん」



 私は笑顔で手を挙げた。

 ところが……沢田くんは私を一瞥いちべつすると、すぐに無表情で視線を外して自分の席に着いてしまった。


 あ、あれ??

 まさかの無反応⁉︎

 うう、ショック!! 今日のこの瞬間が楽しみで土日ずーっとワクワクしてたのに!!


 もしかしてショートボブは好きじゃなかったとか? 

 だとしたら泣きそうなんですが。


 諦めきれずにもう一度、今度は自分の席について声をかけてみる。


「沢田くん、おはよ」

 すると沢田くんがチラッとこっちを向いた。


「……………………。【…………………おは………】」


「…………。【……………………ん?】」


「……………。【んんんんんんん???】」


 沢田くんの目がみるみる大きくなる。



【今の声、佐藤さんだよな……って、誰ーーーっ!!!!?Σ(゚д゚lll)】



 あ。今気づいたみたい。



【なぜ知らない人が俺の隣に⁉︎ 佐藤さんはどうしちゃったんだ!! さっきの声は幻聴か⁉︎ 俺の天使はいずこへ⁉︎ ま、まさか……俺の知らないうちに転校──⁉︎。゚(゚´ω`゚)゚。】



 いや、気づいてない。



「あのー、沢田くん?」


 私は転校していないよ、と誤解を解こうとした瞬間だった。


【佐藤さんが俺に何も言わずにいなくなっちゃうなんて、そんな……! いや、別に俺に言いたいことなんて何もないとは思うんだけど、佐藤さんはいい人だからもしかしたら「さようなら」とか言ってくれるかもしれないと思ったのに……。あ、待って。「さようなら」って言葉に泣きそうになってる。なにこの破壊力。金曜○ードショーのジ◯リ作品並にグッとくる。特に『火垂るの○』はヤバい。節子〜〜!!。゚(゚´Д`゚)゚。あかん、思い出し泣きしそう。逆のことを考えるんだ!! 最近めっちゃ笑ったこと。そう、お風呂でデカめの虫が浮いてると思ってつまんだら自分のホクロだったよね。皮膚ちぎれるかと思ったわ。アレは笑ったな〜。……いや、佐藤さん!!! なんでいなくなっちゃったのさーーー!!!】



 沢田くん、相当パニックになってる。

 私に全然気づいてくれないし。



【俺、これから何を楽しみに学校来たらいいの? 佐藤さんのいない学校なんて、ハトのいないハト時計みたいなもんじゃん。ハトのギミック失ったらあいつただの柱についてる時計だよ? 全然楽しくない! 俺の学校生活オワタ\(^o^)/ いきなり最終回〜!_(┐「ε:)_チーン。ああああ、佐藤さんロスが激しすぎて何も考えられないよ〜〜!!】



 いや、めっちゃ考えてるじゃん。



【どうしよう、おじさん……! 佐藤さんがいなくなっちゃったよー!】



 おっと今度は脳内劇場ですか。



【落ち着け、沢田空よ。おじさんだって佐藤さんがいなくなっちゃって大パニックさ。お前には分からないだろうが、動揺してパンツを表裏反対にはいちゃってるからね。トイレに行って用を足そうとしたら個室入らないといけないんだから。それくらい佐藤さんを失った衝撃は大きいんだぞ】

【よくわかんないよ、おじさん】



 うん、私も分かんない。



【バカな男たちね。たかが女ひとり消えたところで、何を動揺してるんだか(バリバリ)】



 おっと、今度はおばさんだ。



【それより聞いて。おばさん何故か2キロ太っちゃった】



 せんべいやめないからだよ、おばさん。

 それにしても沢田くん、私にいつ気がつくんだろう?




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