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第12話 沢田くんと絶対的ヒロイン

 私が白鳥橋に着いた時、すでに夜空にはいくつもの花火が打ち上がっていた。


 連続で空を駆ける派手なスターマイン。時折ドーンとでっかく三尺玉。散り際に色を変えて、パラパラと落ちる。カラフルな光と音が、人々をその場に釘付けにしている。


 沢田くん、先に来ているはずなんだけど……。

 私は人の流れの中で立ち止まり、辺りをキョロキョロと見回した。

 でも、沢田くんが見つからない。

 橋の端から端まで走ってみたけど、沢田くんらしいイケメンはどこにもいない。


 どうしよう。沢田くんも私がいないと思って、探しに行っちゃったのかもしれない。そう思うとまた動き出したくなったけど、待ち合わせの鉄則は動かないことだ。動いたら会えなくなる。

 私は橋の中央で、ただじっと花火を見つめて沢田くんを待つことにした。


 来てくれるよね。信じてるよ、沢田くん。


「あっ、そうだ」


 私はさっき沢田くんのお父さんからもらった「恋の砂」の瓶を巾着から取り出した。

 これを頭から振りかけると、沢田くんの声が聞こえるようになるかもしれない。


 今日は七夕だし。

 沢田くんの短冊が、きっと奇跡を起こしてくれる。

 私はコルクの蓋を取って、ハート型が混じった砂を少量手のひらに乗せた。



 よし、行きますよ! 効いてくださいよーっ!!



 恋の砂を握った手を頭の上に振り上げたその時だった。



「でっさあ、その時、カズヒコが来てえ、俺とエイスケどっちが好きだって言うからあ、アタシ言ったのね。やっぱりヒロシが好き〜って!」


 キャハハハ、と笑う声の主が、私のひじにドンッとぶつかった。


 あっ。


 私の手から砂がこぼれ落ちる。そして、瓶に入った残りの恋の砂まで、橋の上に転がり落ちて──そのまま川にポッチャン! 




「ああああああああああ〜〜っ!!」




 私が大声を出すと、ぶつかってきた派手な浴衣姿のギャルが振り向いた。


 日焼けで真っ黒な顔をして、髪は逆に金髪で、つけま何枚使ってる? っていうくらい盛ってるけど、頬がぱんぱんに膨れて鼻が潰れている残念な面相のギャルだ。体型もちょっとぽっちゃりしている。


「ちょっとお、何よお。ぶつかって来たのはそっちでしょお? なに睨んでんのよお」

「えっ? 私?」


 いやいや、ぶつかってきたのはそっちですよね!!


「何よお、その反抗的な目え。超こわーい。助けてえ、ヒロシい」


 ブサ……いや、残念な面相のギャルは、隣にいた男の腕に抱きついた。振り向いた男もまた微妙に目が離れていて出っ歯で二枚目とはとても言いがたい。


「どうしたんだよ、よし子」

「なんかあ、この子がアタシのこと睨むのお」

「ははっ、俺たちのことが羨ましいんじゃない? どうせ男にフラれてぼっちなんだろ。いかにも地味なモブキャラって感じだし」

「キャハハハハ! ヒロシ、ひっどぉ〜い! モブキャラだってえ! 超可哀想なんだけど〜!」



 握りしめた拳が震える。


 ……どうせ私はモブキャラだ。

 心の声が聞けるっていう特殊能力もなくして、ツッコミ担当だったのに周りの人間のボケにもうまく対応できずに、最近はシリアスなことばっかり考えちゃうただの普通の人に成り下がった。


 おかげでなんだかこの章になってからPV数も伸び悩んでいる気がするし、沢田くんファンの人からは「お前のモノローグなんてどうでもいいから早く沢田くんの心の声を復活させろよコラア!!」って思われているに違いないとか考えちゃって、毎日本棚数が減ってないか心配していたりする……。


 私にヒロインなんて立場が似合わないのは、私が一番よく分かってる。


 でも、悔しい……!

 悔しいよ、沢田くん──。



 ぐっと唇を噛んでうつむいたその時、突然誰かに背中から抱きしめられた。

 ふわっとした甘い香りに、何だか覚えがある……。



「佐藤さんは、モブキャラなんかじゃない」



 驚いて息が止まる。

 耳元で聞こえる、低くて綺麗なイケメンボイスにも覚えがある。



「佐藤さんは俺の天使で、絶対的ヒロインだから……!」



 ドーンと打ち上がった花火が、私の頭上でハートの形になる。

 まるでさっきの瓶の中にあった恋の砂だ。

 私に向かって降り注いでくる。

 光の粒がキラキラしながら私の瞳に飛び込んでくる。



 思わず見とれた、次の瞬間──。




【は、は、は、は、恥ずかしいことを言ってしまったーーーっ!!!:(;゙゚'ω゚'): あわわわ、どうしよう!! しかも、バックハグって言うんですかあ⁉︎ こんなのもうチカンと同じだよね!! 天使の佐藤さんに無許可で抱きつくなんて、恐ろしい犯罪行為だよね!! 懲役300年くらいは余裕で求刑されちゃうよ! ああああ、ごめんなさい、佐藤さん!!。゚(゚´ω`゚)゚。 でも俺、今なら死んでもいいよ……!】



 沢田くんだ。

 沢田くんの心の声だ……。

 ずっとずっと聞きたかった、あの声がする。



「沢田くん……」


 私はギュッと沢田くんの腕を抱きしめた。



【ほわあああああああああ〜〜!!(((((*´Д`*))))) さ、佐藤さんっ!! 遅くなってごめん!! 会いたかったよーーーっ!!!オロローン。゚(゚´ω`゚)゚。】




 沢田くんの、心の声が聞こえる──!














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