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第13話 沢田くんと夏の恋花火

「ええええええええ〜〜〜⁉︎ ヤダあ、あの人ヒロシの4000倍はイケメンじゃない⁉︎【なんであんなモブ女をこのイケメンが抱きしめてるのお⁉︎ 理解できないんだけど〜〜!!】」

「ふ、ふざけるな! よし子こそ、よく見りゃあの子の6000倍はブサイクじゃねえか!【俺なんでこんな女と付き合ってんだろ? なんか目が覚めたわー】」



 外野がうるさい。沢田くんとのせっかくの再会が台無し。

 すると沢田くんが私から手を放し、二人の前に進み出た。

 黒地にグレーの細い縦縞が入ったカッコいい浴衣を彼が着ていることに今頃気づく。



「あなたたちですか? 佐藤さんをさらった変質者は」

「あっ……違うよ、その変質者は沢田くんの──」


 お父さんだよ、と言いかけた私を背に、沢田くんがビシッと強く言い放つ。




「佐藤さんは俺の大事な人ですが、何か?」




 きゃあああああああ〜〜〜!!!

 大事な人って、大事な人って!!

 勘違いして全然関係ない人に啖呵たんか切ってるけど、沢田くんカッコいいよ〜〜!!




【ギャフン!!!Σ(´༎ຶོρ༎ຶོ`)】

【ひでぶ!!!!Σ_:(´ཀ`」 ∠):】



 通りすがりの残念カップルが、そろって沢田くんのイケメンオーラにぶった斬られた。

 ギャフンって言ってる人初めて見たし、ひでぶって言ってる人も初めて見たなあ。


「ふ、ふん! もう行こ、ヒロシ!」

「あ、ああ! 行くぞ、よし子!」



 二人は吐き捨てるセリフもヨボヨボになってトンズラしていった。

 あー、スカッとした。



 ……というわけで、改めて。




「沢田くん……っ!」

 私が呼ぶと、沢田くんは無表情で振り向いた。


【佐藤さあああああああああんっっ!!!*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*】



 ああ、これよこれ。このギャップ!!! 

 懐かしすぎて、涙が出ちゃう。



「佐藤さん、ごめん!」

 沢田くんは私に向かって突然頭を下げた。彼は絞り出したような声で言う。


「来るのが、遅くなっちゃって……【顔が怖い小野田って人にハメられて、たまごみたいな頭の人の家に連れて行かれて危うく長居させられそうになったけど、二人がすーぱーぷよぷよ2で遊び始めたからこっそり『おんみつ』で抜け出して来たんだっていうことをどうやって説明したらいいんだ。゚(゚´Д`゚)゚。】」


 なんだか沢田くんは沢田くんでいろいろあったらしいということだけは分かった。



「もういいよ。沢田くんが来てくれただけで嬉しい」

 私は微笑んだけど、沢田くんは顔をあげてくれない。



「それだけじゃない。今までのことも……【親と佐藤さんの板挟みになって、やっと気づいたんだ。森島くんたちと行くか、俺と行くかで板挟みになった佐藤さんの辛い気持ち……。それなのに俺ってやつは、森島くんと俺どっちが大事なの? なんて子供みたいなことを言って、佐藤さんを困らせて……。ああああの時の俺のバカバカバカバカ! あんぽんたん! おたんこなす!!!(((((;`Д´)≡⊃)`Д)、;'.・】」



 沢田くんの肩が震えている。

 私は沢田くんに一歩近づいた。



【こんな俺、さすがに嫌いになったよな、佐藤さん……】



「沢田くん」


 震える肩にそっと触れると、沢田くんが前傾姿勢のまま驚いたように顔を上げた。

 目の前いっぱいに沢田くんの顔。

 打ち上がる花火さえ見えないくらい近づいて、



 彼の唇にキスをした。



 聞こえるのは、真上で弾ける花火よりも大きな、私の鼓動だった。

 それから、沢田くんの……。




【ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ〜〜〜⁉︎:(;゙゚'ω゚'):】




 最大級のパニクり声。



 じんじんと甘く切ない熱の余韻を残してそっと唇を離すと、回路が壊れて放心状態の沢田くんがいた。




【あっ……あっ……い、いま、佐藤さん……。゚(゚´ω`゚)゚。俺に……キ、キ、キ……】



 沢田くんの顔が夜目にも分かるほどみるみる赤くなっていく。

 もうだめ、可愛すぎてたまらんっ!

 私は沢田くんの浴衣の胸に抱きついた。



「好き……!」



 ドーンとでっかく三尺玉。パラパラと落ちる光が、流れ星みたいに尾をつけて、夜空に大輪の花を咲かせる。


 私はそれを、沢田くんの腕越しに見えた川面の光の中で感じた。

 こんなに綺麗な花火は、初めて。



「大好きだよ、沢田くん……」

「佐藤……さん……【俺もーーー!!!。゚(゚´Д`゚)゚。♡♡♡♡♡♡】」



 花火を見ている人々が、抱き合う私たちを祝福するように歓声を上げた。





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