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第56話 先輩、世界を巻き込む

「はいはい皆さん、りゅう族が活性化してる現在いかがお過ごしでしょうか! 実は今度トールのところと何回目かのコラボを組みました。今回はその発表をですね、していきたいと思ってる先輩とー?」

「最近お気に入りのウェブ漫画ができた後輩がお送りする、錬金ちゃんねる始まりますよー」


<コメント>

:いえーーー!

:やんややんや

:また今度は一体何をするつもりなんだ

:トールのところ?バトルウェーブか

:まぁ既定路線ならそれ

:なんだか告知で大型アップデートくるみたいな話あったな

:へー


「さまざまな反応ありがとうございます。これには皆さんの安全性を高めるということの目的とは他に、実際に使ってみて遊んでみようというモノです。舞台はダンジョン。そして実際に操作するのはあなたのスペアボディ! はい、ということで探索ゲームの本場、バトルウェーブから正式オファーがかかり、皆様のもとにもう配布されている『もう一つの肉体』を使った遊びを提供しちゃいます! いよ!」

「ぱふぱふー」


 僕の拍手に合わせて、後輩が合成音を流す。

 実はこのオファー、トール経由じゃなくもっと上の合衆国からのものだったりする。

 また僕の発明か! と頭を抱えたプレジデントが、自分のケツは自分で拭けとばかりに大型プロジェクトにしたってことで発表したのだ。

 世間からの僕の視線厳しすぎない?


<コメント>

:あー、あれか

:実際使い道どこ? ってなってたわ

:ゲームをしながら覚えてく感じなのね

:びっくりするほど肌年齢若いのよね、スペアボディ

:閃いた

:おい、何を閃いたんや

:ナンパはやめろよ?


「スキンケアでお困りの方の救済策として、それで実際に表に出てみるのも手かもしれませんね。その上で色調の変更、肉付きの変更、身長伸び調整、髪の長さの設定などができちゃいます。あまり元の肉体から変えすぎることはできませんが、この復活する肉体を使って日常を楽しく過ごしましょう、というのがコンセプトですね」


<コメント>

:大丈夫? それスペアを本体だって言い切るやつ出てこない?

:実際そうなりそう

:再生するっていうのがいまいち飲み込めないけど

:死ななきゃ安い、ゾンビアタックし放題ってことか?


「残念ながら一度死亡したスペアは完全再生されるまで2日を要します。そういう理由でゾンビアタックは推奨できませんね」


<コメント>

:そんな上手い話なかった

:でもワンミスで死亡する確率は減るのか

:これって本体が死んだ場合、スペアで延命可能なの?

:あ、それ知りたい


「延命は可能ですが、精神を保持する場所が本体以外ないので。両方ロストした場合はスペアが復活した時、植物人間になる可能性がありますので推奨しません。もちろん、スペアで特に何事もなく今まで通りの生活はできますのでご安心ください。ただ、政府が打ち出した復元システムは永久的に打ち止めになりますのでお気をつけください。こちらとしてもこのデメリットを早期解決するためのアイテムも製作中ですが、相当な覚悟をする必要があるお値段になるとだけ」


<コメント>

:流石に配布はしてくれないか

:当たり前

:それこそお金持ちだけの道楽


「別に使うのが嫌なら権利剥奪するだけなのでいつでも言ってくださいね?」

「こちらは手元操作でいつでもあなたから残機を剥奪する準備ができています」

「どうせ残機あるからって無理な突撃かましてくる輩も今後増えると思いますが」

「こちらが何の対処もなくこんなものを手渡すと思わないことです」


<コメント>

:おい、これ

:実質命握られてるやーつ

:より一層先輩にクレーム入れられなくなった件

:倫理的にどうかと思います


「え、いつまでも老化しない若々しい肌。その上再生する肉体を改造し放題の権利をもらっておいて、まだ僕に入れるクレームが?」

「先輩、煽りすぎです」


<コメント>

:それはそう

:むしろこれからスペアを使ったダンジョンアタックが出てきそうだな

:いや、そのためのスペアでしょ、これ


「ですねー。しかしいきなりダンジョンに突撃かますのはお勧めしません。これはゲームでもなんでもなく現実! 特にダンジョン種族は攻撃的なだけじゃなく、人類を女体化させた挙句にその種族に変貌させる呪いをかけてきます。前回捕まえたりゅう族少女も、実は日本人男性だったことが判明しました」


<コメント>

:おい

:爆弾情報やめろ

:これ政府に許可取ってるの?

:そのためのスペアかぁ

:一度変化したボディは復元可能なんですか?

:それ次第だな、ダンジョンに潜るの


「と、いうわけで前述しましたバトルウェーブのアップデート版のお話です」

「ずいぶん遠回りしましたね」

「想定内だよ。みんな僕の話を法螺か何かだと捉えてるからね」


<コメント>

:ねぇ、答えて

:スペアが変化したら元に戻れんの?

:先輩!

:別に法螺とか思ってないから

:拗ねないで


「そこは安心してください、死んで消滅してから元の肉体に戻ります。ですがこの時に本体が魔物化していた場合、スペアもそれを基準に復元します」


<コメント>

:やばいやん

:そのための本体か

:普通に死ぬ分には人間のままだけど

:魔物化して死んでもスペアは本体準拠か

:これ本体も大事だわ


 だからそう言ってるんだけど、残機が増えることにしか頭がいってない人はそこも考えつかないか。


「なんで本体を蔑ろにしようとするのか、僕はにこれがわからない」

「自分の顔に絶望してる人はそれだけ多いってことです」

「えー、それ僕関係なくない?」

「です。なので自業自得も甚だしいですね」


 後輩も煽りよる。

 これを受けてコメント欄は加速する。

 デレ期到来か?

 もっと普段から素直になりなよ。


「話を戻すよ?」

「お願いします」

「まずこのゲームを実装するにあたって。結局ダンジョンを動画配信でしか知らない人の方が大体だと思うの」


<コメント>

:それは

:ないとは言い切れない

:実際に日本の探索者は政府を見限って国外に飛んじゃったしな


「それ、なんで飛んだと思う?」


<コメント>

:わからん

:国の締め付けが強すぎたとか?

:実際年金の締め付けがなぁ


「そこだよね。探索者になるっていうのは一般人にとってはとても高いハードルが待ち受ける。実際命の問題だけじゃなく、仕事によって日銭を稼ぐのも厳しい。それを残機が増えた程度で飛び込めるかって話なんだけど」


 残機だけじゃない。武器の新調やアイテムを持ち帰るためのバッグ、人員。

 稼ぎは人数分けするのが基本だし、遊び半分でアタックしていい場所ではないんだよね、本来。


<コメント>

:無理だわ

:ゲーム感覚ならいけると思ってた

:実際プロの仕事とかよく知らないしな

:プロがもう日本にほとんどいないからな


「そこでこのゲーム。実際のダンジョンへ赴くまでは探索者と一緒だが、死亡時のケア、武器の新調とかアイテムのドロップなどがゲーム的なんだ」


<コメント>

:そこ、詳しく

:探索者制度のいらないある程度簡易的にしたゲーム?

:それくらいだったら遊べそうだな

:実際に遊ぶのはスペアの方でしょ?


「うん。まずはそこでスペアを動かす感覚と、肉体復元時の感覚を覚えてほしい。ダンジョンは遊びだけで覚えて、もしモンスターがダンジョンの外に出てきても対処できるようにしてほしいかな」


<コメント>

:あ、そういうパターンもあるのか

:実際地上も安全じゃないからな

:本体はどこ置いとけばいいんだ?

:ダンジョンアタックする間に本体やられたらあかんやつや


「いずれそういうシェルターなんかも政府が用意してくれるでしょう」


<コメント>

:他人事かよぉ!

:そこまで責任取れってのも無理な話だ

:残機システム配ってくれただけでも御の字やで

:実際こんなもの持っててもお守りがわりにしかならんからな

:あとはどうするか

:そのゲームで積んだ経験は本体にも活かせるの?

:あ、それ気になる


「経験を培った精神は、肉体をかえても思った通りに動くことは結論が出てるよ。僕も違う体を同時に操って研究してるけど、思った通りに動くしね」


<コメント>

:は?

:おい

:さすが先駆者はやることが違う

:並列思考なんて話じゃねーぞ?

:実際分裂?


「似たようなもんかな? 精神を分裂して生活できれば一人前かな? 今は11人まで増やしてるけど、流石にこれで手一杯だね」


<コメント>

:スペア多すぎぃ!

:同時操作は無理でしょ

:一体もらっていいですか?


「近いうちにこのゲームを使った配信もするからそっち待ってね。それと」

「実はもうすでにダンジョンに潜った人の配信も始めてます」


<コメント>

:うん?

:探索者が潜ってるのかな?


「ああ、違くて。実は保護してたりゅう族の少女は僕の知り合いでね。地上奪還のためのミッションを遂行してもらってるんだ。ドラゴン化する呪いを受けた彼の手に汗にぎるダンジョンアタック! 僕もレシピなどを提供するつもりでいますが、あとは彼次第なのでね」

「皆さんにはその活動の応援などをしてくれたらって思います」


<コメント>

:ほーん

:待て、りゅう族の少女をダンジョンに?

:それって勝手に逃したってこと?

:おい、これ政府黙ってないだろ

:今日だけで何回やらかせば済むんだ!

:いつも通り、と思ってた矢先にこれだよ

:その上で今回は迂闊にクレーム入れられないしな

:そもそもクレームを入れるなよ

:残機は欲しい、でもクレーム入れたい!

:難儀だなぁ


 配信を閉じたあと、大塚くんの配信を全世界に向けて発信した。

 最初こそ伸びは悪かったが、とある界隈がNYAOの作者の不定期連載漫画の元ネタだと知り拡散!

 瞬く間に登録者数を数千万に増やす勢いだった。

 特に後輩の同類が湿度の高い目でファンアートを送りつけるのを受け取った後輩が懐に仕舞い込んでいたのを僕は見逃さなかった。


 よかったな、大塚くん。

 世界中が君を応援してくれるぞ。

 早く成功して帰ってこい。

 君は地上奪還の英雄だ!

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