兼ねての計画通り、今日はアメリアさんとバトルウェーブのアップデート版を遊ぶ約束をしていた。
「センパイ、きたぞ!」
「いらっしゃーい」
「今回は本体の他にスペアも持ってきてくれた?」
「このペンダントのことか?」
「そうそう、それがないとログインできないからね」
「アタシは本体でも大丈夫だぞ?」
「僕が困るって話。今日は遊び方も合わせて配信に載せるからね」
「そういうことなら仕方ない」
「後輩、準備できたよー」
「はーい。じゃあカメラ回しちゃいますねー」
「よろしくー」
僕は何体かスペアを使って配信セットを用意する。
アメリアさんはチョロチョロ動くを表情豊かに見守り、こう言った。
「センパイ、一体くれ!」
「だーめ。今はお手伝いしてるだけだから」
普段は研究に忙しいからあまりはいないと言ってやれば黙り込む。
なんで僕のスペアはどこに行っても人気なんだろうか?
いくら同時に操作できるとはいえ、あまりにも突拍子に欲しがられすぎない?
人気、というよりかはお人形さん扱いされてる気がしてならないんだが?
「あらーいらっしゃい。可愛いお客様ね」
「誰だ?」
「NYAOの原作者。長い間失笑してた母でね。今は一緒に住んでるんだ」
「聖の母です。お噂は予々。仲良くしてもらってるようね? ヒー君、丁寧に扱うのよ? VIPもいいところなんだからね?」
それを言ったら僕もVIPなのだが?
母さんは僕にはとことん身内感覚でくる。
まぁ母親だしな。
話を聞く限り血のつながりはなさそうだけど、極度の嘘つきなのが玉に瑕か。
アメリアさんが変な勘違いしなければいいが……
「センパイのマミー?」
「そうよ。私は英語が堪能じゃないけど、ここの暮らしは快適ね。普通に言葉が通じるもの」
同時翻訳の賜物である。
ログのようなものが、首から下に映るのだ。
そこには日本語が英語に置き換えられたり、逆もまた然り。
お互いそこだけ見てればいいので会話がしやすいというのもあった。
「アメリア・カスターだ。よろしくな、マミー」
「ええ、仲良くしましょうねアメリアちゃん」
母さんは本当に他人の懐に忍び込むのが上手いな。
漫画家だとそういう感性が養われるのだろうか?
「いい人だな。センパイを任せられちゃった」
「うん?」
「仲良くしてくれってのは嫁にどうかって意味じゃないのか?」
「うーん」
そういう願望があるのかな?
僕は何も聞かなかったことにして、配信に意識を寄せた。
「こんにちは! 先日の配信は爆速で閲覧数が延び過ぎて草ぁ、な先輩と!」
「センパイのマミーによろしく頼まれたアメリアだぞ」
「そのやりとりをしっとりとした視線で見つめていた後輩でお送りする錬金ちゃんねる! 今回はですね、トールさんのスタジオと連携してのコラボ配信となりますー」
<コメント>
:おい、最後
:いつもの後輩ちゃんだった
:母親から頼まれた?
:ここにきて母親の匂わせ
:これはユニコーン界隈が黙ってませんよ
:先輩にユニコーンなんているのか?
:いや、アメリアちゃんの方
:あー
:でも先輩どう見ても女の子だしな
:キマシタワー
:先輩! 早く女の子同士でも子供を作れる薬を!
「はー、あんまり話を脱線させたら残機消すからね」
<コメント>
:草
:先輩、手段選んでこなくなったな
:そんなに進行潰しは嫌か
:そりゃ嫌でしょ
:残当
「今日は最新アップデート版のバトルウェーブで遊んでいきます」
「探索者ごっこって話しか聞いてないぞ?」
「認識はそれであってます。今日はですね、専用のカプセルを使って精神制御をしながら別の場所でスペアを動かす感じでいいきます。要はスペアを使ったフルダイブVRですね」
「面白そうだぞ!」
遊び方はいつもの専用フルダイブマシンに、事前登録していたスペアボディ位を接続するだけ。
このお手軽さ具合が売りになると僕は思っている。
それぞれが役割をもってダイブできるので、これからは配信目的のサービスなんかも充実してくるだろう。
『はい、ここからは私こと後輩は先輩専用の配信ナビゲーターとして追随します』
「よろー」
僕は一般探索者の格好。
しかし後輩は僕たちの肩の上で羽ばたく妖精にその身を変えていた。
彼女の役割は配信機能の扱い。
要は戦闘員ではない役所だ。
<コメント>
:へー、こんな感じで始まるんや
:装備は簡素なものなんですね
「お、先輩きたな」
「アメリアさんは様になっててすごいよね」
「一応探索者だからな!」
<コメント>
:とりあえずゲームと導入は一緒なんだ
:安心だな
:最初からやってくれてありがたい
:アメリアちゃんはショートソードか
:短剣選ぶかと思った
:アメリアちゃんの膂力なら片手斧とかも余裕そう
:でもこれはゲームのアバターだから
:あ、実際のボディの延長線じゃないのか
:でもゲーム準拠ですぐインフレするんでしょ?
:見せてもらおうか、バトルウェーブの実力とやらを
装備枠は6つ。
武器右、武器左、頭、体、腕、足。
ここに初心者用装備をセット。
アメリアさんはショートソードで、僕は自動弓。
流石に銃はFランクの装備ショップには置いてなかった。
「最初からアイテムバッグ持ってるのはゲームならではかな?」
「楽すぎて、実際の探索者からクレームでそう」
「まぁリアルとは違うってことで」
<コメント>
:Fランクのダンジョンって実写取り込み型なの?
:現実のダンジョンやぞ
:ゲームのシステム使ってダンジョンアタックやるのがこのゲームの趣旨だし
:SFしてるなぁ
:ほんとそれ
:空想が実現した感じだ
:その上で、死んでもスタートからやり直せるのが素敵
:スペアの復元すらしないの?
:ゲームだからな
:それをするかしないかの選択肢が最初に出てくる
:リアル嗜好の人はするけど、普通は
:しないかぁ
:コスパ悪そうだもんな
「ほい、おしまい」
「雑魚は雑魚だな」
<コメント>
:あれ、先輩強くない?
:アメリアちゃんは敵が弱すぎて欠伸してる
:しゃーない、中身は世界最高峰のSランク様だし
『これで討伐数がカードに記載される感じですね。でもこれはゲームなのでドロップ品もあります』
「肉塊(ホワイトラビット)×1だって」
『こちらは解体スキルを持ってると分解できますね』
「普通に倒すだけだと荷物圧迫しそうだな」
『ギルドに持ち込めばゴールドに換金してくれますよ』
「へー」
『ちなみにFランクダンジョンだと一律10ゴールドです』
「それって高いの?」
『武器の貸出費用が500ゴールドなので』
「最低500個持ってけばグレードアップできるのか」
『はい。ですが武器含めてバッグの容量は上限500個までです』
「…………」
<コメント>
:お、最初の関門か?
:楽はさせねぇよって開発からのメッセージである
:そんな上手い話なかった
:解体必須やんけ
:そういやスキルってどうやって覚えるんだ?
『スキルはダンジョンのボスを討伐すると低確率で宝箱がドロップします。これの金色が出たら確定でスキルの書が出ますね。なお、Fランクでこれが出る確率は5%です』
<コメント>
:楽はさせねーよ、パート2
:開幕お祈りゲーは萎える
:逆にいえばFはスキルを使うまでもないって意味では?
:それはあり得る
「リアルでもモンスターは倒したら剥ぎ取りするか捨て置くかの二択だな」
「へー」
「今はなんでも欲しいから、先輩とアタシで分けて持ってこう」
「オッケー」
<コメント>
:BWではクリティカルで倒さない限りドロップすら確定じゃなかったし
:ある意味確定ドロップなら回収ぬるいのか?
:これ、解体とったら取ったで必須素材の抽選がまってるとかじゃ?
:あり得そう
:むしろこの肉塊に価値が出るパターンか
:素材厳選が始まるで
:うわああああ!(別ゲーの悪夢)
「ここがボス部屋か」
『ビッグラビットですね。白いのと黒いので番のようです。仲睦まじいですね』
「そういえばこのダンジョン、モンスター分布図がやたらウサギに偏ってるよね」
「ダンジョンによってはそういうことよくあるぞ」
「へー」
<コメント>
:アメリアちゃん、危なげなく倒すなぁ
:技術ある人だと、でかいのは的だしな
「ラストいただき! ラッキー、金箱落ちたよ」
「ナイスセンパイ」
<コメント>
:おい、確率仕事しろ!
:早速ドロップ出してるんじゃねーよ!
:リアルラックくんさぁ
「お、解体の書だって。2個あるよ」
「じゃ、先輩とアタシで一個づつだな」
「そういえばスキルって無限に覚えられるの?」
『セットできるのはアタックスキル、サポートスキル、パッシブスキルに各一つづつですね。けどその時に応じて付け替えることもできますよ』
「なるほど。解体は?」
『パッシブスキルです。セットした状態で肉塊を攻撃するとランダムで部位をドロップします』
「なるほろ」
『ちなみにギルドではスキルの書の買い取りもしてまして、解体は特に色をつけて買い取ってくれるみたいです』
「ちなみにおいくら?」
『1万ゴールドです』
「「…………」」
その発言に、僕もアメリアさんも黙りこくった。
「センパイ、アタシの分売っていいか? センパイほど解体上手に行かなそうだし」
「うーんここで手放すのも勿体無いというか」
「センパイの幸運ならきっと次も出せるから、な?」
「しょうがないにゃー」
こうして僕は解体係となった。
アメリアさんは売ったゴールドで武器と防具の新調をした。
<コメント>
:センパイ、リアルもそうだけど運良すぎない?
:バトルのアメリアちゃん、確率の先輩というバランスのいいチーム
:これ、実際なんも参考にならないまであるぞ
:一応、遊び方の参考だから
:Fランクから相当異次元な動きしてるからな、この二人
結局その日はランクを上げるためのクエストをやりまくり。
朝初めて夕方になるまでにはAランクに至れていた。
あまりにもぬるい難易度に、リスナーのコメントも途切れる始末である。
「さっすがアメリアさんだね、道中のボスが余裕だった」
「いや、アタシの腕もそうだけど、確実に欲しい素材を高確率で引き寄せる先輩の幸運があったからだと思うぞ?」
「そうかなー?」
「あと、強化を今まで一回も失敗してない!」
「それはいつもだからね。コツがあるんだ」
<コメント>
:そのコツ、常人でも真似できるやつです?
:無理そう
:当たり前のように1%引く人だしなぁ
:爆速でランクAに至れる時点で異常なんよ
「と、今日はここまでかな?」
「えーもう終わりかぁ?」
なんだかんだと朝から夕方までの耐久配信になってしまった。
途中トイレ休憩や食事休憩を挟んだが、リスナーを巻き込んでのバトルウェーブ配信は白熱した。
途中でなんの参考にもならないとあったが、尺よから参考にするつもりがなかったからね。
なんでこのメンツで参考になれる動画が出来上がるのか。
これがわからない。
アメリアさんを家に送り僕たちは兼ねてからの計画を話す。
「それで母さん、スペアの調子はどう?」
「そうねまだ本調子とはいえないけど、ずいぶん馴染んだわ」
今母さんは封印したにゃん族のボディに袖を通していた。
精神を分裂させて。
普段の漫画家の顔とは違い、こっちは戦士の顔つきだ。
その上で、両手はドラゴンの鱗で覆われていた。
「それがお母様の本体ですか」
「ええ、この姿はあまり他の人たちに見せたくなかったのよね」
「お気持ちはわかります。けど」
「ええ。でも言わなければいけないわね。私は、ミザリー・ニャンケットは。ニャン族から選ばれた番だった」
「…………」
「でも選ばれても番にはならなかった?」
「言ったでしょう、逃げ出したって。母さんはにゃん族だけど、帰る家もないのよ。父さんも半分その呪いにかかっていた。見ていられなかったわ」
「うさ族達はそれに気が付かなかった?」
「あの種族はメス化して長いから、思い合えば妊娠するのが当たり前だった。けどにゃん族からしてみれば異常。なぜそれを受け入れられるかサルバを責めた。けど向こうは話を聞く耳もなくて」
「だから攫った?」
「地上に逃げれば呪いは一旦止まる。けどね、呪いの吐け口だった私が消えたことにより、りゅう族の長は怒りの矛先をにゃん族に、妹ノイルマーニに向けたの。あの子が私を取り戻そうとするのはそういうことなの。母さんに一族の礎になれって決めつけてるのよ。私は戦士としてはそこまででもなかったから。そう決めたの」
「そう、じゃあ礎になっちゃえば?」
「え?」
僕の言葉が理解できなかったのか、母さんが目を丸くする。