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第60話 先輩、ムラムラを解消する

 なぜか乗り気なアメリアさんに連れられて、僕は一路ホワイトハウスに訪れていた。

 素っ頓狂な格好をしている僕を顔パスで通してくれるのなんてここぐらいなもんだよね。

 と、思いつつ面会をする。

 一応ふざけた格好でも、この世界の命運を賭けたお話なので関係者以外は立ち入り禁止とさせていただいた。

 アメリアさん? 僕の隣でニコニコしてるよ。


「なるほどな。何故わざわざこちらにそのような確認をとりに来たのかと思ったら」

「技術は常に提示してありました。あとは本人のやる気次第で」

「そこにスペアボディの生体認証を合致させてマッチングさせると?」

「それと、同じ地域で戦力が偏ってしまうのを避けるためですね。今は世界中の同時翻訳もゲームを通せば可能です。忙しい戦闘時にこそ、クリアな思考は保つべきだと僕は考えている」

「それを国の代表に緊急出動させる権利を持たせることで実装しようというわけか」

「ええ。今まで通り探索者として雇用するのもありです。けれどそこは一般人ですので、政治的圧力をかけるのはよろしくない」

「取り扱いの難しさか」

「なので飛びつくような報酬を与えます」

「たとえば?」

「スペアボディの修復速度上昇剤とか」

「ほう、前線に出ているものなら喉から手が出るほどに欲しいものだな。しかしどれくらい早くなる?」

「実はこれ、もともと調整して今の二日に落ち着けてるんで、本来なら即座に復活できるんです」

「二日とした理由は、無理な特攻を避けるためか?」

「それもありますけど、ダンジョンの敵性種は遺体を持ち帰って苗床にする。それは相手が男でも関係なく」

「なんだと」

「なので即座に復活するという知識を相手に与えたくなかった」

「頑丈とは程遠いが、壊しても治るのなら向こうも躍起になるか」

「はい」


 アメリアさんが僕のほっぺをツンツンしてくる。

 ちょっと今大事なお話してるから待ってね。

 にゃん族仕様の彼女の頭を撫でると、尻尾をピンと這ってへたらせた。

 かわいいね。


「色々突っ込むまいとしていたが」

「なんです?」

「うちの孫を随分と弄ってくれたな」

「本人が望んで手に入れたスペアボディですよ?」

「じーちゃん、センパイは未来のダーリンだから、アタシ専用に4つスペアをくれたんだぞ!」

「OH、そんな特別視してもらってるのか?」

「まぁ本人は頑なに本体でも平気だっていうので、いろんな種族の素体を提供したらすっかりその気になってしまって」

「よりによってにゃん族か」


 アメリカ側としては頭の痛い話だよな。

 ダンジョンから登ってきた彼女たちが一番最初に被害を出したのはテキサス州だって聞くし。

 アメリアさんが間に合ってなければ被害の規模は想像に難くない。

 だがこれだけは先に言っておかなければならないか。


「あ、これはまだどこにも出してない情報なのですが」

「なんだ?」


 まだ何かあるのか?

 プレジデントが表情を顰めて僕に問う。


「にゃん族の長と接触。和平交渉が樹立しました」

「頭の痛い話が降って湧いた私の気持ちにもなれ。つまり日本はにゃん族を手中に収めたと?」

「日本が、じゃなくて僕個人がですね」

「よりタチが悪くなった」


 ひどいや。


「とまぁ、実際は彼女たちにスペアボディを渡したまではいいんですが」

「おい、まさか。今回の話の出所ってそこか?」


 さすがプレジデント。話が早くて助かるね。


「ええ、彼女たちは生まれた時から戦闘民族。平和な世界での暮らしも悪くはない。けれど戦いの血が鎮まらなくてむしゃくしゃして器物破損が絶えない。じゃあそこをなんとかしようとバトルウェーブの開発元であるトールに話を持ってったところ」

「今回の話が持ち上がったか。瞬時にそこまでの懸念案を抱くとは流石だな」

「ええ、彼は今や多くの民間人の命を支えるプラットフォームを築いている」

「言い出しっぺの実行犯が何を言ってるのかね?」


 お前も一枚噛んでるだろう? そう言われてシラを切る。

 僕はスペアボディの開発に携わってるだけで、実際に今回の話にはノータッチ。

 なんなら許諾しか出してない。

 むしろせっついたのは国側じゃない?

 そんなに便利なものがあるんなら即座に用意しろ、金なら出すと。


「さて、僕はそういう研究をしていただけで今回の話には一切関わってない。いや、許諾をしたのでそういう関わりはあるが、実際に今回用意したのはイギリスとオーストラリアの開発者でしょ? 僕じゃない」

「嘘は言ってないな。そんなものを開発しておいて個人使用していたやつは常識がないのだと早く気づくべきだった」

「ははは、やだなぁ。僕だって表に出していいか悪いかくらいは判別できるよ」

「懸命な判断だ。だが、それをおいそれと他の科学者に渡したのは致命的なミスだぞ?」

「僕にとっては過去の産物だからね。むしろ同期の成長を促すための勉強をしてほしくて」

「ははは、嫌味か?」

「わっはっは。プレジデントも冗談がお上手で」


 軽くジャブを撃ち合って牽制。

 プレジデントだって表に出せない案件をたくさん抱えてるくせにさ。

 なーんで僕のことだけ悪くいうのか。

 これがわからない。


「それではあれか、今回のランキング形式にはにゃん族も混ざるのか?」

「いえ、うさ族も混ざります」


 笑いすぎて喉が渇いたのか、コーヒーを口につけていたのをすぐ横に吹き出した。


「聞いていないぞ! 和平交渉したのはにゃん族だけという話ではなかったのかね?」

「にゃん族と和平を結んだら、うさ族も釣れた感じですね」

「後出しジャンケンがすぎる。もう隠してる手はないよな?」


 大丈夫? さっきからカップの中身バシャバシャこぼしてるけど。


「今の段階ではないね」

「おい、今後増えるという意味合いじゃないよな、それは」

「そうですね。増えたらアメリアさんを使ってお話を持っていきます。もちろんランキングに入れると言ってもゲストとしてですよ? 本来のボディで戦わせたら上位に食い込むのは疑う余地はないので」


 それは人類の敗北を示しているのではないか? みたいな顔で凄まれるが。

 人類は今進化の真っ只中だと教えてあげれば少しは溜飲を下げることができた。

 対戦格闘ゲームでもあるでしょ? 

 NEW CHALLENGER! みたいなの。

 公式が用意した裏ボスみたいなのだよ。


「世界の人口に比べたらにゃん族はあまりにも少ない。せいぜい180匹くらいだ」

「それはうちの孫が180人いるということだろう?」


 そうともいう。

 世界中で国に所属しているSランクは集めても50人に満たない。

 そこに180人投入されたらどうなるか?

 阿鼻叫喚どころの騒ぎじゃないな。


「まぁ大丈夫ですよ。野生の感は精神に宿りますが、与えるのは人間のスペックを超えないので」


 イルマーニさんにもこれは伝えてあることだ。

 目的はあくまでもストレス発散で本気でやるな。

 そして人間とのランキング戦に出れるのは上位10名までだとしてある。

 何故そんなルールにしたのかといえば、全員が出れたら人間が弱いというのを再認識されて舐めた態度をとってくるかもしれないからだ。現状ちょっと舐められかけてるしな。

 今後地上で僕の商品を開示する都合上、これはちょっと避けたい。


「それと、にゃん族とうさ族の戦士はそれぞれ上位10名しか選出させませんから」

「その理由は?」

「言ったでしょう? 彼らは戦闘民族だと。強きものにしか外の戦士と戦う栄誉は得られない。そういう思考をしてるので、全員にそれを与えるのはおかしいんです」

「戦士の矜持を利用するか」

「そうでもしないと民間人のやる気は出ないでしょ?」

「民間人のバトルに混ぜるつもりか?」

「一応イベントとして、決まった日の決まった時間にログイン権が譲渡されます。それまではトレーニングモードで発散させますし、どうでしょう?」

「それで既存の探索者の訓練にも使えと?」

「どうとってもらっても構いませんが。死なず、経験を積める機会を無駄にすることはないと、僕は言いたいですね」

「そのように出られたらこちらも引っ込みがつかないな。いいだろう、その時間帯の予約は可能か?」

「なら予約制をトールに申請してください。それが受諾されたらこっちも調整します」

「わかった。人類の成長のため、私も心を鬼にするとしよう」


 プレジデントは立ち上がり、もう帰っていいぞと促したので僕たちも帰ることにした。

 それから一週間もすることなくバトルウェーブバーサスは開発された。

 従来の探索モードから一変。

 ゲームで慣れ親しんだランキング式のバトルモードは白熱した。


「姫、この度はこのような機会を設けてくださりありがとうございます。このイルマーニ、姫のために尽力を尽くしたく存じます」

「うん、頑張ってー」


 もう僕が何を言っても姫という呼称をやめないので、僕も折れた。

 応援もそっけないものである。

 けど、それがより彼女をやる気にさせた。


「あ、予約取れた。センパイ、アタシも行ってくるぞ」

「あんまり相手を泣かせちゃダメだぞ?」

「センパイ、アタシの応援はしてくれないのか?」

「勝ったら一緒にお風呂入るか?」


 アメリアさんたら顔を真っ赤にして無言で立ち去ってしまった。

 入るのはスペアボディで性別なんてないのにね。

 もしかしてそう思ってるのは僕だけってことはないよな?


「ねぇねぇ聞きましたお母さん?」

「ええ、聞いたわヒカリちゃん。あれって、そういうことよね?」

「ええ、それ以外考えられません。先輩もついに!」

「感無量だわ」


 そんな会話を聞いていた後輩と母は。

 こちらにまで聞こえるようなヒソヒソ話を展開。

 それはもうヒソヒソ話ではないだろう。

 声のボリュームもっと抑えてもろて。


 ちなみに、今の発言はにゃん族で言うところのプロポーズにあたるとのことだ。

 裸同士の付き合い。

 生まれたままの姿を曝け出すというのはつまりはそういうことらしい。

 行為らしい行為を一切しないで感情で産卵する種族ゆえか。

 お互いの合意での入浴は最上級のプロポーズだと言われていた。

 その手前が添い寝らしい。


 なんならお風呂はしょっちゅうアメリアさんのスペアボディに乱入されているので今更という感じだったが、もしかして僕はやらかしてしまったんだろうか?

 来ているスペアボディも女なので、そこまで気にしたことはなかったが。

 うーん。

 今日はイルマーニさんを応援するか。

 今になって恥ずかしくなってきてしまったというのは内緒だ。

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