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第61話 先輩、添い寝を強要される

「みんなー、バトルウェーブバーサスはもうプレイしたかな? 僕は初日に出禁になった。そんな先輩とー?」

「ゴールドランクでブイブイ言わせてる後輩の錬金チャンネル。始まりますよー!」


<コメント>

:バーサスモードの話題

:つまり今回の言い出しっぺは先輩か

:あの、残機返してもらえませんか?

:人殺し! これで死んだらどうするつもりですか!

:なんや、これ

:いつもの

:いつも分厚いフィルターがついてるから気づかなかったけどー?

:なんで今日は外してるんやろね


「おっと、今回もフィルターでカットされると思って油断しましたね。実は今、色々とクレームをいただいてまして。それで餌を撒いておいたんですが早速引っかかりましたね。あ、回線を引っこ抜いてもプロバイダまで監視してますから無駄ですよー?」


<コメント>

:一体何をしたんや

:いや、これは自業自得じゃね?

:まさか先輩にクレームを?

:そんなまさか

:自宅に直で荷物を送りつける先輩にクレームなんてな

:いつ爆発物送りつけられるかわからないのにそんなことするはず


 みんなノリがいいな。

 後輩もニコニコしてら。


「実は居たんですねー。で、今になって返してくれっていうのは政府が打ち出した政策が、どう考えてもスペアボディありきのもので。当事者は該当年齢に合致して発言の撤回をしたわけです」


<コメント>

:あー

:やっちまったな

:実際なんて言われて没収したの?


「『生まれた体を蔑ろにするなんてけしからん! 私たちは人のまま死にたい』そうおっしゃってたので、では人のままの死を享受してもらおうと。そして再配布はしておりません。というか、うちは配布に関わっていませんので、うちに言われてもって感じです。権限は先輩が握ってるのでいつでも剥奪はできるんですけどねー」


<コメント>

:草

:管理が違うのか

:それじゃ先輩のところ行っても無駄じゃん

:それで今になって返して欲しいは通じないでしょ

:これって政府の対応が早かったの?

:全部知ってて先輩が仕組んだの?


「僕は何も知らないよ? 開発は僕だけど、政府に見つかって大量生産をしたのは僕じゃないし」


<コメント>

:どゆこと?

:開発者が先輩なのは認めるのか

:開発者特権で11人スペアボディ動かしてるらしいしな

:倫理観どこいった?

:今更やろ


「まず精神を四つに分裂します。そこにスペアボディを用意しましてー、その分裂した精神を定着後、同時に動かします。それで研究をできたらようやく200を突破できるかな?」


<コメント>

:ごめん、なんて?

:まじか、スペアボディって熟練度200代の産物なのか


「あ、400に至るのに、10人に分裂した状態で、その10人が1%の成功率を引き当てたらいけると思う。ちなみに配信ごとに違う僕が担当してるって言ったらみんな納得できる?」


<コメント>

:は?

:いや、それは

:そんなことがありうるのか?

:待って、先輩の熟練度って370じゃ?


「あ、みんなは知らないんだっけ? 今の僕は410だよ。と、いうわけで今回の本題行ってみよー」

「はい、今回はですねー。NNP主催で今話題のバトルウェーブバーサスでのイベントを開催したいと思います!」

「後輩、テロップよろしくー」


<コメント>

:ちょっと、質問の途中でしょ!

:めんどくさくなったからって流すな

:まだ何も解決してない件

:つまり、スペアボディは先輩に言っても帰ってこないのか

:剥奪はするけど、返却はできないと

:それがアンサーなのね

:わかりづらすぎる

:当事者は今頃顔真っ赤やろな

:あーあ、あんなに注意したのにお気持ちで凸しちゃったか


 そうそう。話聞かないのが悪いよね。

 あと、自分だけは大丈夫って人。

 他の人たちの開示請求を差し押さえる資産がないって理由で逃れたからって僕相手にも通用するとは思わない方がいいね。

 今回の件は特に資産は関係なく、配布された無料チケットの回収だし。

 要らないって言っといて、今更要るは通用しないんだよ。

 回収できるんなら配布もできるんじゃないかって?

 やらないよ。

 だってそれやったらプレゼントとして要求してくるのが目に見えるもん。


<コメント>

:明日は我が身やで

:今は軽口ひとつで断罪される時代だから

:先輩相手にお気持ち凸は生き急ぎすぎでしょ

:そういえばテロップの雰囲気いつもと違うな

:コミック調というか、読み込みやすい


「今回から、テロップ関係は外注ですねー。なんと天才錬金術師NYAOの猫丸ミミ先生に依頼して、描いてもらってます」


<コメント>

:デフォルメされた先輩が可愛いですねー

:後輩ちゃん、壁に吹き出しが出てしゃべってる映像でいいのか


「解釈一致ですね! さすがミミ先生です」

「後輩はずっとそのスタンスで行くんだ?」

「そうですが、何か?」

「僕としては君の可愛さを全面に出していってもバチは当たらないと思うのだけど、どうだろう?」

「かわっ……だめです」

「残念」


<コメント>

:耐えた!

:後輩ちゃんにクリティカルダメージ!

:クォレは効いてますね

:何気なく放たれる言葉に殺傷力を込めるな

:てぇてぇ

:本番中に惚気やめてくれますー?

:いいぞ、もっとやれ


 何さ。散々本番中に僕を可愛い可愛いと言っておいて。

 自分が言われ慣れてない言葉を言われる覚悟を少しは持てたかな?


「さて、軽いジャブはここまでとして。今回開催する大会は総勢50名からエントリーしてもらうバーサス形式だ。もちろん色々規定は設けさせてもらうよ」

「流石に全員参加は期日の縛りがあるので難しいですねー」

「それ。僕たちも暇じゃないし」

「そして映えある優勝者への報酬は!? 先輩のスペアボディとの添い寝チケットだーーー!!」


 後輩、興奮しすぎ。

 スペアボディと一緒の空間で30分寝るだけでのチャンスにそんなに人が群がるわけ。


<コメント>

:ガタッ

:ガタッ

:ガタッ

:ガタッ

:ガタッ

:ガタッ


 いっぱい反応したー!?

 え、どうして?


「ふふふ。先輩はもっと自分の可愛さを自覚するべきです。普段はノンデリみたいな先輩も、寝てる姿は可愛いんです。先輩の寝顔ブロマイドは今やNNPを代表する総売り上げナンバーワン! それを生寝顔を見れるチャンス! 見逃す手などありません!」


 変態ばっかりだよ、この国。

 精神が男で女のボディに入った僕の寝顔を今更ありがたがるなんてさ。

 後輩も後輩なら、リスナーもリスナーだったか。


「ちなみにこの大会、以降は『添い寝杯』と呼びますが当然挑戦するのは一般参加者のみではありません、詳しい内訳は次のテロップからどうぞ!」


<コメント>

:当たり前のようにシードにアメリアちゃんがいる件

:待って、にゃん族戦士イルマーニって何?


「実はですねー、アメリカで捕獲したにゃん族の戦士に人間スペックのスペアボディを渡して中に入ってもらうことで共存の道を図ったのですが、生まれ持った戦士の血が抑えられず、こうして発散することでようやく落ち着きを取り戻した経緯があります」

「ちなみににゃん族は同性愛者。好意を寄せたメスと添い寝できるチャンスは逃さない、特に今回の報酬は喉から手が出るほどの誉として死に物狂いで取りにくるでしょうね」


<コメント>

:待って、よく見たらシード枠がにゃん族戦士で埋まってるんだけど

:あとアメリアちゃんな

:アメリアちゃんも欲しがるほどの報酬か

:出来レースじゃねーか!

:ここに一般参加者を募る? ちょっと何言ってるかわからないですね


「報酬に関しては、僕は一切関わってないんだが。企画発案者は後輩と猫丸先生でね」


<コメント>

:なるほど

:後輩ちゃんの同胞ね

:待って、にゃん族って同性愛者なの?

:見た目は好みでも男に興味持ってくれないのか

:残念


「なので参加賞にはTS薬、もとい若返りポーションを用意」


<コメント>

:付き合いたいならTSしろは草

:TSするのはスペアでもいいんですか?

:おいおいおいおい、参加賞がそれ?

:案の定下に小さい文字で転売はできませんて書いてあるやーつ

:でも参加するだけで入手はイザという時には助かるだろ

:まさかお前、モテないからって自分が女になって満たされるつもりか?

:【注意】スペアボディに生殖器官は含まれない。あくまで肉体の代用品という立ち位置

:ぐわーーーーーー!

:過去最大にダメージ受けてて笑う


「スペアボディにも効果はもちろん適用されます」

「でも死んで復活する時は元の性別に強制的に戻されるので注意が必要ですね。特ににゃん族の方は男に強いアレルギーを持ってますから」

「僕は男なんだが?」

「先輩ってば魂まで女の子のくせしちゃって、今更何を言ってるんですか?」

「解せぬ」


<コメント>

:後輩ちゃんの生き生きとした声ときたら

:きっと今おっそろしく愉快な顔つきなんやろな

:後輩ちゃん、このために壁の中に体を?

:ありうる

:後輩ちゃんだもんな


 リスナーの後輩に対する解釈が恐ろしく高い件。

 僕もそう思う。

 その笑顔含めて世にお出ししないのをもったいないと思うのはきっと僕くらいなんだろうな。


「そんなわけで本日の配信はここまで!」

「あとは大会フォームでお会いしましょう」


<コメント>

:まじで大会告知だけだったな

:実際、今美容関係はそこまで求められてないから

:スペアボディは死んだら肌年齢まで一気に戻るからな

:もっと本体の肌を気にしてもろて

:もう誰も本体に戻りたいってやつはいないでしょ

:それはそう


「あ、そうそう。これは僕から指摘していいのかわからないけど。スペアの使用耐久は多く見積もっても5年だから。一生運用するのは無理だから気をつけてね」

「死ねば死ぬほど耐久はどうしたって減りますしね」

「そうそう。今回は非常時だから配布を受諾したけど、本来はこれ素人が扱うにはあまりにも不完成品でさ。長期間使い続けた安全性とかはあんまり考慮してないんだ。僕は使い潰すつもりで精神も肉体も分裂させ続けてるけど、熟練度が100にも満たない君たちにそれを求めるのは酷でしょ?」

「だから先輩はやめとけって言ったんですよねー。でも政府は非常時だからって」

「便利な言葉だよね、非常時」


<コメント>

:は?

:おい、今更そんな爆弾告白するな

:こっちはもう一生それを運用するつもりでいるんだよ!

:そんなもんを実装するなよー

:実装したのは先輩じゃないんだよなぁ

:おいこれ、どうすんだよ

:肉体が復活するって永遠じゃないの?

:うわああああああああ!


「と、いうわけで我々NNPではスペア専用ケア用品を多く取り揃えてます」

「これは大会とは一切関係のない告知となりますが、死亡後の耐久劣化の回復などの商品や、スペアを使った錬金術、バトルウェーブ内で入手したアイテムを組み合わせたレシピ本などなど、お手頃なお値段でご用意してます」

「それでは本大会で会おう! シーユー!」


 配信を切り、全てをやり切ったと仰向けでごろんと寝転がっていると、後輩がNNPの回線がパンクしそうですよと先ほどの配信の手応えを感じていた。

 やはり商品を売りつけるには危機感を煽るのが一番だと、ゲスい顔で笑ってる。


 後輩、そういうところだぞ? 

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