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第62話 先輩、苦肉の策を打ち立てる

「はーい、それではみなさま準備の方はよろしいでしょうかー?」

「始まりました、NNP主催第一回バトルウェーブバーサス公式大会『添い寝杯』解説は後輩ちゃんこと私とー」

「先輩の僕がお送りします!」


<コメント>

:いつものノリである

:予選はもう終わってるんだっけ?

:エントリー漏れした

:大会規定今読んできた

:参加賞目当てで登録したやつは多いけど

:実際どれくらいここのリスナーが残ってることやら

:参加選手がガチ目のプロしかいない件

:添い寝チケットいらない人はスペア格納庫と交換できると聞いて

:あれは実際罠だよな

:シード枠のにゃん族って実際どれくらい強いの?

:ポストアメリア嬢

:ファッ!?

:でも実際は人間スペックにグレードダウンしてるって話

:ほな平気か

:【注意】アメリア嬢も人類枠

:あっ

:これはダメかもわからんね


「相変わらず物欲の塊しかいないリスナー達ですねー」

「前回散々煽ったのが効いたんでしょ」

「確かに死ぬと耐久は磨耗しますが、実際使用期間中に死亡できる回数はどれくらいなんですか?」

「死ぬ前提で考えて制作してないからね。僕も知らない」

「それもそうですね。スペアボディのお話は以上になります」


<コメント>

:おい!

:それはそうなんだけど

:待って、復元機能は後付けってこと?

:死ぬ前提で考えられてる設計だし、そうでしょ

:そう考えると政府の打ち立てた政策が人を死地に追い込んでるってことにならない?

:先輩はもっと軽率にスペア格納庫を配るべき


「え、やだよ。しかるべき手段で購入してください。実際NNPの公式ホームページに購入額記載したじゃない。なんで僕が君らの個人的なお気持ちに配慮しなきゃいけないのか。これがわからない」


 ちなみに今回公式ホームページでお知らせした購入額はこうだ。



______商品名_______ランク____購入NP


精神保管庫 (精神スロット+5)_S_____1億

精神保管庫 (精神スロット+3)_S_____4000万

スペア保管庫(スペアボディ+2)_S_____3000万

スペア保管庫(スペアボディ+1)_S_____1000万

スペア速復活剤__________C_____300

スペア耐久緩和剤_________C_____100

精神分裂薬____________F_____100



 NPはうちのNNP(にゃんにゃんプラント)の公式通貨。

 探索者向けの通貨であり、ダンジョン内から持ち帰ったさまざまなものに付与される。

 みんなは現金で買いたがってるけど、なんでそんな対処を僕がしなきゃいけないのか、これがわからない。

 僕は僕の研究に協力してくれない相手にはビタ一文負けるつもりはないので、そこは勘違いしてほしくないかな。


 とはいえ、僕も鬼じゃないのでバトルウェーブ公式に掛け合ってゲーム内ランクでも購入できるようにした。

 NPに関しては適正な審査ののち、ゲーム内ゴールドの1000ゴールドを1NPとして換算。

 そこで荒稼ぎされても困るので、ランクを儲けさせてもらった。

 ズルは良くないからね。

 もちろんNNP関連アイテムは転売できないので、使うなら自分用だ。


 そこで今回、優勝したはいいけど僕と別に添い寝する必要はないなって人向けに僕から打ち出した提案が『スペア保管庫(+1)との引換券』になるってモノ。

 後輩の策略では、今回優勝を狙いにきている勢力のほとんどが僕と添い寝したがってる勢。

 けどそれじゃ一般参加者はやる気が出ず、ほとんどが参加賞狙いで終わってしまう。

 それじゃ主催者として非常によろしくない。

 なので、他の参加者にも意欲を燃やしてもらいたいと思っての実装だ。


 本音を言えば、思惑は別のところにある。


 なんで僕が今になってこんなに必死になっているのかと思えば、その添い寝。

 どうも録画されたデータが優勝者に手渡されるみたいなんだよ。

 優勝者特権だとあとから聞かされて、アメリアさんやイルマーニさんがニコニコしていたのを覚えている。

 僕はそれを横で聞いて背筋をぞくぞくさせたよね。

 普段彼女たちが僕をどのように見ているか知ってるからこその悪寒というの?

 特に『にゃん族』の生態系を知ってからは彼女たちを疑ってかかってる。

 今はスペアボディでムラムラを発散してくれてるが、本体を返した時が怖いのでその対策も兼ねていた。


「先輩の策、実るといいですねー」

「後輩こそ、自信満々じゃない」

「シード枠の選手はみんな先輩大好きですからね。みんな添い寝したがっているんですよ。もうなりふり構ってられないって感じで、見ていて愛おしいですよね」

「僕はスペアボディとはいえ気が気じゃないんだが?」

「あ、第一回戦の選手が入場するみたいですよ」

「ねぇ話聞いて」


<コメント>

:先輩……

:後輩ちゃんの貫禄よ

:先輩、わかったか? 俺らの気持ちが

:いつも聞きたい情報をすっぱり切られる無力さが

:それで実際、死亡耐久回数ってどれくらいなの?


「さぁね。多分50回くらいじゃない? 知らんけど」


<コメント>

:まぁ、多い方なのか?

:10回とかよりはマシ

:50回も死ぬほどの恐怖を味わうのか

:でも即復帰できないから死の恐怖を引きずりそうで怖いな

:即復帰できないからこそのクールタイムやろ

:死亡後、ノイローゼになりそう


「実装したのは僕じゃないから実際はもっと少ない可能性があるとだけ。でもうちのNNPで販売してるスペアはそれくらいの耐久設定してるから、多分それくらい?」


<コメント>

:は?

:おい、これの開発者誰だっけ?

:知らん

:勝手に郵送されてたペンダントな件

:送り主は政府だろ

:でもそういえば開発者は知らないな

:で、先輩は関与してないと

:おい、これ本当に頼っていいもんなのか?

:誰か検証よろ

:実際に死ねと?

:自分の安全のために他人の命犠牲にするとか倫理観どうなってんねん


 何やら勝手にコメントは盛り上がってしまった。

 会場は選手入場とは関係ないところで盛り上がり、僕は憂鬱な気分で後輩の選手入場を聞いた。


「第一回戦、エントリーしてくれたのはこの二人だー!」

「っす! 勝ちに行くっすよ」

「悪いな、トール。お前の勝利は万が一にもあり得ない」


 あ、キングとトールじゃん。

 初っ端Sランク同士の戦いとか、どうなってんだよ。

 ここは一般人も参加できる、ゆるーいイベントじゃなかったのかよ。

 無理か、シードにアメリアさんとにゃん族がいる時点で。


<コメント>

:初戦がこの二人か

:そう言えば戦えばどっちが強いんだ?

:いつもチーム組んでるからわからないな

:遠距離サポートのトール、近距離タンクのキングか

:髪のあるキングはつえーぞ?

:髪のないキングは弱いみたいな風潮やめろ

:これ、封印指定武器は使用可能なの?

:ルール上は使用可能

:防衛装置がさらに上の特殊合金を使ってるとかなんとか

:なお、先輩の炸裂玉はそれすら壊せるので出禁になった

:熟練度410は伊達じゃないってか

:初回配信で紹介したアイテムがいまだに猛威を振るってるの最高に先輩らしいなw

:熟練度200までは持ち込み可能だってよ

:200になったら持ち込めないのか

:まず100の壁を越えるところから考えようぜ

:先輩が前に行きすぎてて中央値が勝手に上がり続けてる錬金術師達可哀想

:先輩のおかげで10で足踏みしてた奴らがこぞって80以上になってる快挙を忘れるな

:別界隈のトップ層が真似してるけど、誰も弟子の熟練度そこまで爆上げしてないんだよな

:実は先輩にはそういう皇族を育てる才能があった?

:ないだろ

:あの煽り力でみんなムキになって一致団結した結果やで

:草


「先輩は、この二人の戦いの行方はどうなると思います?」

「え、わかんない。それを楽しむもんじゃないの、この大会?」

「そうですね! 解説は以上になります!」


<コメント>

:おい、さっそく仕事投げんな

:一番解説に向いてない人が解説になった結果

:この二人が主催の時点でこうなるってわかってたじゃんよ


「悪いっすね、キング。バトルウェーブバーサスのことは俺っちが誰よりも知ってるっす。こういう仕掛けも含めて、全て手の内っすよ」


 トールのベルトがうるさいほどに明滅して、そして騒がしい音声が会場中に轟いた。


 ──サイクロン! バスター!


 伊達男のトールが一瞬のうちに全身タイツに置き換わったと思ったら、左右に分かれたカラーに、それぞれのパーツが装着されるところだった。


「バカめ、隙だらけだわ!」


 キングの巨躯が一瞬のうちに無防備なトールに迫る。


「隙なんてないっすよ。アクセル!」


 トールが腰を軽くタッチするだけで、その肉体がブレる。

 一瞬のうちにそこへ残骸を置き去りにして、キングの槍の一撃を殻ぶらせた。


「チィッ」


 舌打ちし、キングも跳躍。

 トールは遠距離タイプ。

 対してキングは近距離型。


 攻撃範囲を制限されると、どうしても立ち回りが後手後手になりやすい。

 さっきの一撃で決めてしまいたいという目論見があった。

 キングの武器『二律背反』は当たりさえすれば必殺の一撃を決めることができる。

 相手のスタミナを無尽蔵に吸い尽くしてその場に拘束し、その吸い取った力を攻撃力に転化する恐ろしい特性を持っていた。

 だからこそ、トールは距離を取る。

 仲間だからこそ、キングの手の内は全て見透かしていたのだ。


「自分の防御力をあてにしすぎたっすね。大会主催者だからこそのオーバードライブ。とくと味わうがいいっす!」


 ──アクセル! アクセル! オーバードライブ!


 トールの拳銃に眩い光が集まり、それが反動を起こすほどの衝撃となってキングを貫いた。

 全ての耐久を使い切って、キングはその場に光の残滓を残して緊急退避ベイルアウト

 勝者が変身を解いて観客席に手を振った。


「相変わらずインチキの化身だよね、トールって」

「でも大会規定にはなんら抵触してません。それに今ので残機を一つ消耗してますし」


 あれ、自爆特攻なんだ。

 だからスペアをもう一つ欲しがった?

 あいつの財力なら普通に買えるだろうに。

 意図がわからないな。


「なんで今回参加したんだろ?」

「多分さっきの新商品のお披露目とかですかね?」

「あー」


 じゃあ目的を果たしたらさっさと負けそうだな。

 あいつに期待するのはやめとこう。




 一方その頃ミザリーは。

 大会前に単独でオーストラリアに向かい、ローディック師とエミリーに面会。

 うさ族のコロニーでサルバと面会していた。


「それでね、それでね、ヒー君がね?」

「ミザリーよ。その話は一体いつまで続くのだ?」

「もうサーちゃんたら研究のことばかりで頭かたーい。もっと柔軟な思考を持たなきゃこの先辛いわよ?」

「お前の話を聞いてる方が頭が痛くなるわ」


 息子自慢に花を咲かせ、修羅場に展開する気配を悉く潰していた。

 だがもちろん。ここに来た目的はそれだけではない。


「で、サーちゃんのところに出向いたのは真栗さん復活のための手助けをして欲しいのよ」

「勝手に連れ去って、今度は助けてほしいだぁ? お前の非常識さは前々から不愉快だった」

「ええ、わかってる。これからお願いするのはとても非常識で辛いこと。でもこのお願いを断ればあたしもあなたもずっと後悔することになるわ」

「何を勝手な……」


 サルバはそう言いかけたところで、ミザリーの肉体が変貌していることに気がついた。

 先ほどまでのはスペアボディ。

 しかし今の姿はドラゴンの呪いに侵された本来の姿だった。


「ミザリー、貴様」

「あたしもそう長くない。だからあたしの体を実験に使ってもいいから、真栗さんを助けて欲しいの」

「事情を話せ。その痛ましい姿は他の研究員の目に毒だ」


 ミザリーはスペアボディに姿を変え、サルバにあらためて協力を願い出た。

 ダンジョン種族が、りゅう族の呪いを解く方法。

 それを解析するために。


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