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第63話 先輩、ガンナーの進化を知る

「では2回戦、エントリーされたのはこの人たちだ!」

「どうも、いつもお世話になっております。NNPの美作アカリです。今回は新作の実験の成果をここで発表しようと思ってます」


 ぺこりと頭を下げたのは、後輩曰くNNPの筆頭錬金術師。

 うちのチャンネルの初期からのファンで、大手製薬では大塚君の部下だったと色々僕らと由縁がある彼女。

 ファンの中で一番最初に熟練度100の壁を超えた猛者だとしている。

 僕のファンで一番最初に超えたのは後輩じゃんね?

 そう言ったら身内はノーカンだと言われた。

 それもそっか。

 いや、そんなこと言ったら彼女も僕らの身内では?


「ガイウスだ。弱いものいじめにならないように気をつけたい」


 ここできたか、三馬鹿の真面目枠。

 彼は寡黙にして堅実なタイプの人間だったが、なんだかんだ僕の企画する大会への参加回数は多い。

 他の二人に対抗するためか、はたまた別の思惑か。

 キングやトールと違って地味なので、居ても記憶に残りにくいんだよね、あいつ。


「いえいえ、お気遣いなさらず。Sランクが参加してくれる方がこちらとしてもやりがいがあります。我々NNPには探索者向けにさまざまなアイテムの展開をしていく会社ですからね。まずはこちらはどうでしょうか?」


 そう言って彼女は目の前にカードを伏せた。


「あれは?」

「彼女考案のサポートアイテムですね。バトルウェーブ用なので、ヴァーサスで格上相手にどのように作用するか見ものですね」


 え、内訳は教えてくれないんだ?

 僕社長なのになぁ。

 名前だけ社長だって?

 それを言われたら弱い。

 名前貸すだけ貸して、あとの運営は後輩に丸投げしてるもんね。


<コメント>

:あー、あれか

:どんなの?

:Cランクから購入できるようになったサポートアイテムでさ

:基本目眩しや、分身、デコイなんかが封入されたカードを最初に提示

:被弾と同時に発動するんだ

:あー、本当に身代わりしてもらえる系か

:被弾前提なのね

:スーパーアーマー的なのか


「虚仮威しを。エンチャント──」


<コメント>

:ガイウスは堅実にエンチャントを重ねていく系か

:地味で派手さはないけど一番効率はいいよな

:Sランクの戦い方ではないけどな


「──トリプル!」


<コメント>

:ファッ!?

:初っ端から三つ掛け!

:本気で一発で終わらすつもりやん

:何と何を掛け合わせたんだ?

:本人はそら宣言しないわな

:プロはオーラの色で見分ける

:緑と青、赤なら常時回復、切れ味強化、あとは速度上昇かな?

:地味に強力なやつだ

:エンチャントってどんなアイテムなの?

:あれはスキルだよ

:そうそう、近接アタッカー系の熟練度80以上で覚えるやつな


 へぇ。知らなかった。

 近接アタッカー専用スキルね。

 でも後輩はそれを読んでいて彼女も想定内って顔だ。

 色々策は練って、この場にいるのだと強い意志を感じた。


「アクセス:ホロウ」


 彼女がそう宣言すると同時、そのボディをガイウスの大剣が袈裟斬りにした。

 おいおい、やられちゃったぞ?

 心配する僕に、後輩は「まだです」と勝負を諦めてない。

 しかし彼女の体がその場で叩き割ったガラス片の如く砕け散る。

 これは緊急離脱の反応ではない。


「フッ、そうきたか」


 理解するガイウスに飛来したのは全くあらぬ方向から銃撃だった。

 一切油断なく大剣でガード。

 盾としての扱い方だ。

 トールからの誤射が多そうだもんな、あの環境。

 慣れって怖いね。


「あら、反応はピカイチですね。さすがはSランク様です」

「当たり前だ。実戦ではゲームのようにはいかんぞ?」


 弾かれた弾丸は遠方で爆発した。

 あの反応『炸裂玉』かな?

 相当熟練度の低い同業に造らせたのだろうね。

 後輩の話では彼女の熟練度はすでに100を超えてると聞くし、あの程度ではないことは確かだ。


 何やら拳銃のつまみを回して威力を調整している姿も見える。

 後輩に聞いても何も返してくれなかったが、あれも新製品なのだろうか。

 転送陣へのチャンネルを変えてる可能性もある。

 それをそう使うかぁ、やるじゃん。


<コメント>

:身代わり効果か?

:+砕けたガラスにも当たり判定あるな

:ガイウスは大剣でガードしたけど、その大剣に突き刺さる威力ってどんなだよ

:Sランクの武器にしては安物ってこと?

:いや、被ダメージが軽いからと肉体で被弾したらどうなのかなって

:あー、そっちか

:その効果が気になるな

:有識者ニキ、あれってどんなアイテムなの?

:あれはちょっと知らないな

:ランク制限あるとか?

:それとも完全新規か


「面白い戦いをするね、彼女」


 ガンナーというのが僕的にいい。

 やはり錬金術師は間接的な動きで実力を出していくジョブだよなぁ。

 後衛よりも中距離タイプ。

 僕と解釈一致なあたり推せるね。


「アカリちゃんは先輩の大ファンですから」


 ちなみに聖夜リコの一番の出資者も彼女だと言われた。

 おっと、話が変わってきたぞ?


「あれ、じゃあ僕のスタイルを模倣してるの?」

「その上で彼女なりのアレンジを加えたというのが今回の挑戦だと思ってます。今の今まで大会参加の話は聞いてませんでしたが」


 おい、運営。

 僕は今回の大会に一切ノータッチなので知らなくても仕方ないけど、君は知ってなきゃダメだろ。


「NNPの社員枠での参加は決まってましたけど、誰が出場するのかまでは聞いてなかったんですよ」

「ほんとかなー?」


<コメント>

:アカリちゃん、普通に強くない?

:これで非戦闘系ジョブは無理があるでしょ

:ガイウス相手によう持ち堪えてる

:実戦だったらとっくにやられてたな

:これはゲームだから

:さっきのトール然り、どっちがゲームのルールを理解してるかの戦いやな

:これは試合運びがわからなくなってきたな!


「タネは明かされた。二度は通じないぞ?」

「こちらのタネが一つだけ、なんてことはもちろんありませんよ」


 一切の油断なく、エンチャントを重ねるガイウスに。

 彼女も余裕の笑みを貼り付ける。


「あ、ちなみにさっきのアイテム。宣言しなくても使えます」

「ひでぇ」


<コメント>

:それ、もう勝負ついてない?

:カードの提示自体がブラフみたいなもんだしな

:一般準拠なんよ、提示は

:伏せカードの時は機動力を上げたりもできる

:セットした方が肉体制御系に恩恵あるのか

:だからカード使いは油断できない

:一見伏せカード効果が同じでも中身別物とかよくある話で

:後出しジャンケンやめろ

:こっちのコメント、会場に届かないからって言いたい放題じゃん


 言ってる側からガイウスの剣がありえないくらいにひしゃげる。

 すぐにそれを放棄し、新しい武器に入れ替えた。

 捨てた大剣はルームの壁にぶつかるなり大爆発を起こす。

 それも一度や二度ではなく、刺さった破片の数だけ爆発した。


「残念、持っていてくれたならこれで勝負が決まりだったんですが」

「舐めるな。扱っていく武器の耐久を見極めるのもプロの仕事だ」


<コメント>

:あ、コンボカードか、あれ!

:それって?

:さっきの破片、コンボの起点に使われてるんだよ

:つまり?

:コンボの数だけ威力が上昇していく、相手は死ぬ

:把握

:え、こんなの罠張られ放題じゃん

:近接殺しすぎない?

:本来はもっと一枚一枚カードで手順を踏んでいくんだよ、あんなの見たことない

:それwwwあんなのあったらみんなコンボ狙いに行くってのwww

:これはコンボに上方修正きたか?

:コンボは成功させるまでが苦難の道のりすぎる

:狙いがバレバレすぎてガードされたら積むのよね

:ある意味で初見殺し


「いや、面白いね。どうしても威力不足になりがちなガンナーの欠点をコンボを使うことで押さえてきたわけか」

「そもそもカードってガンナーのために設定されてますからね」

「身内贔屓すぎない?」

「ファンって大概身内贔屓ですよ」


 それもそう。


「タネが割れたならもう怖くはない。スタイルを変えればいいだけだからな」


 ガイウスは宣言をし、ベルトにコインを当てはめた。


──シャドウ! イビル!


「あれは」

「トールさんと同様の変身アイテムですね」

「ガイウスがそういうのに頼るだなんて意外だな」

「男の人には人気ありますからね、変身ベルト。それに、所属国で彼はあの姿で広告塔として活動してるらしいです。変身後は国のセンスが出ますね。ちょっと理解はできないですけど」


 女子ウケは厳しそうだなと僕も同意する。

 薄紫の全身タイツに、黒のグラデーション。

 マスク、アーマー、ベルト、グローブ、ブーツはところどころにゴールドが使われた派手めな装飾。

 そこにほんのり骸骨をモチーフにした趣味の悪さが出ていた。

 後輩はそれをダサいとして視界に入れないことで妥協する。


「ダサッ」

「スーツのラフをする人もそうですけど、それを許可する人もどうかと思ってます」

「宣伝目的でも、僕はこれを着ないかな」

「先輩はもう少し女の子っぽい格好をしてくださいよ」

「僕は男なんだが?」

「はいはい」


<コメント>

:完全に否定されてて草

:公式ですら先輩を男扱いしてないやん

:公式が言ってるだけすら否定されるのか

:実際のところどうなんです?


「先輩は女の子。今日はこれだけを覚えてお帰りください」

「僕の意思は?」

「それでは試合の運びを見ていきましょう」

「ねぇ聞いて」


 コメントでも僕を女の子扱いするし、後輩も僕を男扱いしなかった。

 まぁいつものことである。気持ち切り替えてこ。

 いちいち落ち込んでたらこの先やってけないしね。


「見た目が変わっただけ、とはいきませんか」

「その通りだ。俺の戦いは雇用主も見てくれている。無様は晒せないのさ」


 ──集え、シャドウサーヴァント


 メイン武器の大剣によってできた影が意思を持って動き出す。

 そう言う特性の合わせ技かぁ。

 盾としての役割ではなく、影を作る意味でも大きなアドバンテージを取るか。

 やたら光るゴールドパーツはダサい以外にも影をその場に作ると言う意味でも役に立っていた。

 ダサいけど。


<コメント>

:出た、影移動!

:初見殺しなんだよな、ガイウスのヒーロー形態

:お先に初見殺しをされた返礼か

:大人気なくない?

:国の代表選手としては黒星つけられる方が損失でかい

:相手がSランクなら仕方ないで済むけど

:探索者でもない研究員な時点でな


「闇なら光で照らせば問題ありませんね。アクセス──フラッシュバン」


 彼女は自分の潜伏が解除されるのもやむなしと考え、狙いを定めるための標的を探し当てる。

 しかし炸裂玉が貫いたのは、ガイウスの形にまとまったスライムだった。


「誘い出されたのは君だったようだ」

「まずっ」


 パキンパキンパキン!

 三枚のガードが砕ける。

 それはコンボの発動キーとしての効果を持っているが、プロが同じ手を警戒していないはずもなく。


「それはもう学習した。飲み尽くせ、シャドウサーヴァント」


 デコイだけが本質ではない!

 影が液状に広がり、渦を巻いてコンボパーツを破壊していた。

 見た目はともかく、あの影はかなり応用が利くみたいだね。


「万事休すか」


 僕もこの状況には地力の差が出てしまったと観念するが、どうやら後輩はそうでもないみたいだ。


「いえ、全然」


 ガンナーは近接に持ち込まれると選択肢が大幅に減る。

 僕的にはワンアウトって感じだが、当然そうなる運命も予測していたように彼女の策に見事ガイウスがハマった。

 彼女の怯える姿をガイウスの大剣が捉え、そのまま真っ二つにした。

 が、その後大爆発を起こす。

 爆発の威力は大袈裟なくらい強く、ガイウスは挽回できずにその場で粒子を撒き散らしていた。

 その後方で無傷な彼女がイリュージョンの如く現れる。


「あれ、彼女って?」

「最初から場所を動いてませんよ。今までずっとそれっぽい演技を遠隔で行ってたんですよ。影を操るのはガイウスさんだけの専売特許じゃなかったってことです」

「うわっだサッ」


<コメント>

:ガイウスあんなカッコつけておいて負けたのか

:これは完全に掌の上ですね

:いや、でもカードの新たな可能性を見られて楽しかったわ

:これ、発売しちゃダメなやつでしょ

:ランキング戦、荒れるぜ?


「えー、はい。今アカリちゃんから連絡が来ました。今回のカードの発売は今期のランキングが終わってからとのことです」


<コメント>

:それはそう

:環境破壊もいいところだしな

:でもカードの新たな可能性に気づいて始める人多そうなバトル展開だった

:次は誰だ?

:最初はただの欲に塗れた奴らのバトルだとばかり思ってたけど

:ああ、始まったら手に汗握るバトルばかりだな


 そうかな?

 そうかも。

 僕は自信なく頷いた。


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