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第71話 先輩、救いの手を差し伸べる

 あれから試合はとんとん拍子で進み、いよいよシード以外の全ての選手が出揃った。

 途中からタッグを組ませたのもあり、予想外のアクシデントもあって試合時間は想定の半分で済んでしまった。


 とはいえ、二回戦まで普通に一対一で進めていたのもあり、三回戦以降のタッグマッチで勝利したチームと同期そわせ陽香で揉めた。その結果がこれである。


 一回戦 トール&美作アカリ  VS  イルマーニ&ニャルス(にゃん族代表)

 二回戦 猫丸ミミ&サルバ   VS  アメリア&メアリ(人類代表)

 三回戦 聖夜リコ&兎谷クー  VS  エミリー&レイラック(うさ族代表)


 どうせトールもアカリ女史も宣伝目的だ。同じガンナー同士意気投合してタッグを組んだ。

 対するイルマーニさんとニャルスも組んでイーブン。


 え、五回戦以降はどうなったかって?

 あれからなぜか全員体調不良になってさ。

 30人以上の15試合がまるまるなかったことになったんだよね。

 みんな、食中毒に気をつけようね。


「そういえば後輩、うちの大会で違反者が出たって本当?」

「嘆かわしいことですが、本当です。うちの施設を使う都合上、犯罪歴は徹底的に調査した上でエントリーができるようにしたんですが、こちらの監視をすり抜けてドーピングアイテムを持ち込んだ選手が多数発見されました」


 ドーピングアイテムねー。


「やっぱり報酬がいいからズルしてでも入手したかったのかな?」

「できれば私も参加したかったぐらいですよー」

「そんなに僕の添い寝に価値がある?」

「ありますねー。いずれガンにも効くようになると私は思ってます」


 そんなわけないじゃんね。

 とはいえ、本気でそれくらいの効果があると信じ込んでいる層は後輩を含め少なくない。

 それがアメリアさんやにゃん族率いる僕のガチ恋勢たちだ。


 添い寝するだけで本気で子供を作ろうとしてる奴らは面構えからして違う。

 解説役の後輩に至っては添い寝してないはずなのに、お肌がツルツルしてるし。

 本当に効果があるんじゃないかと錯覚してしまうほどである。

 あれ、これ僕がそう思ってないだけで本当にそんな効果があるの?


<コメント>

:原因不明の体調不良ラッシュだったもんな

:あれ本当に体調不良なんか?

:一見元気なやつも表情青くしてたし、真偽は闇の中


「厳密には大会規定の抵触に当たる危険物持ち込み違反ですね。それまでは容認してたんですけど、急遽取りやめるものがありまして」

「それって」

「先ほど第四試合で使用されたモンスター化する煮卵です」

「あれ、煮卵だったの?」


 僕の好物に対する名誉毀損が激しすぎる。

 おいおい、これで販売停止になったら僕は犯人を許さないぞ?

 お気に入りメーカーの味付けは家庭では絶対に出せない企業努力の結晶なんだからな?


<コメント>

:それが原因で全員失格?

:まぁ実際に見た上で危険信号出すのは普通だな

:でも噂の域を出ないだろ?

:実際に変身した人の意識が戻ってないそうなんだよ

:え?

:あれ、さっき消費したのはスペアで、本体は復活したって


「実は今回そのアイテムを危険視したのがその後の精神異常のネックに対するものでして。精神は戻ってきてるんですけど本体に拒否反応を示してるんですよねー」

「それって精神が歪んじゃって、ボディを自分のものと認められないみたいな?」

「どうやらそのようです。どうも認識までモンスターに置き換わっちゃってるみたいで」

「それは確かに利用の取り止めもやむなしか」

「確認するまで噂の域を出なかったですし、ですがあまりにもそれを用いて大会に参加する人が多かった」


 恐るべきはそのアイテムの透明性だ。

 使用者に危険なものと認識させない思い込み。

 しかしなぜ今になってここまで話題に上がってきたのだろうか?

 それなりに浸透してきていると言うことは、入手のしやすいブローカーの暗躍があると思うべきだろう。

 後輩が言うように犯罪歴を持つものにしか入手ができないのなら、公平性を謳った僕たちの大会への参加は不可能。

 ならばどうやって広がったか?


「──先輩、大変です」

「どうしたの?」


 さっきまでどこか他人がモンスターかしようが他人事みたいな態度を取り続けていた後輩の表情が途端に曇った。


「インドの首都がモンスターの襲撃によって壊滅しました」

「へ?」


<コメント>

:はい?

:唐突だな

:インドって言えばカシムだっけ?

:そうだよSランク探索者がいるだろ

:あそこはカシム以外の練度も高いからな

:でも。首都が壊滅って何?

:詳しい情報をください


「まずはこれを見てもらったほうがいいかもしれませんね」


 後輩は口で説明するよりも実際に見てもらったほうが早いだろうと映像を配信に載せる。

 そこには町の中を服を着たトカゲ人が闊歩している姿が映った。

 まるで元々人間だった人たちが、姿ごとモンスターに入れ替えられたようなチグハグな景色。

 家屋は壊され、逃げ遅れた人々を襲っている姿は紛れもなくモンスターの所業……なんだけど。


「ねぇこれ」

「はい」


 そのモンスターは襲った人々に煮卵を無理やり食わせ、そして食わされた人はモンスターに変貌していた。まるでゾンビ映画のようだ。

 ゾンビに噛み付かれた人々がゾンビになっていく。

 そんな景色が映像のあちこちで見られた。


「作為的だね」

「何かの映画のPVでしょうか?」


 そんな感想を漏らしてしまうほどに非現実的な景色が映し出される。


<コメント>

:これ、実際に起きてる景色なんだよな?

:映画やゲームじゃなく?

:あの卵、やっぱりやばいやつやん


『我々うろこ族は、本日付で地上への侵攻を開始する! 手始めにこの街を我々の拠点とした! 逆らうものには死を! 従うものには祝福を与える! 民よ集え! 我が王は寛大である!』

「何やらしゃべってるね」

「え? 私には何も聞こえませんでした」

「えっ」


<コメント>

:先輩、何が聞こえてるん?

:早く翻訳して、役目でしょ


 今普通にしゃべってたじゃん。

 どうして僕には普通に聞こえたんだ?

 まさかこの猫耳?

 普段から当たり前のようにつけすぎてて、オシャレの一つになっていたが、僕の生まれはにゃん族。

 それがいきなり覚醒したってコト?

 まぁ兎にも角にも聞こえるんだからしょうがない。

 今はそれを生かしていけばいい話である。


「聞こえた限りでは、あのトカゲ人間はうろこ族というダンジョン種族だって話だね。で、向こうは人類と一切仲良くするつもりはなく、逆らえば殺すってはっきり表明してるよ」

「殺伐ですね」

「ねー」


<コメント>

:どうにかして助けられないんですか?

:あの、食べたが最後スペアも復活しないって本当ですか?

:なんやお前、一度食べたことあるようなセリフ吐いて

:知らなかったんです! そんな人間を辞めるつもりはなくて!

:これは食べてますねぇ

:どこで出回ったんだ?

:まさかスーパーで販売してる?

:流石にまさかだろ

:みんなやばいものって認識した上で口にしてるから自業自得


「そんなの僕に聞かれたって知るわけないでしょ。だったら誰か向こうの軍門に下って情報流してよ」

「それはいいアイディアですね! 問題はモンスター化して意識を保ってられるかですが」

「僕みたいに物理的にスペアと本体を同時運用して情報を流すくらいのことができれば解決するんだけどね」

「あははー、誰も先輩の真似なんてできませんって」

「やってみなければわからないじゃないかー」


<コメント>

:まるで解決する気がなくて草

:あのさぁ

:これ、一般人でも割と食べてるのやばくない?


「なんかさ、これ僕が尻拭いする流れできてない?」

「なんだかんだと先輩は頼めば断れない性格してますからね」

「言うのはタダみたいな?」

「ですです」

「なんで僕がそこまで責任取らなきゃいけないのさ」


 今回のことに至っては僕完全に部外者じゃない?

 そりゃ、にゃん族の長のは成り行きで就任したけど。

 それはそれ、これはこれ。

 ダンジョン内の縄張り争いに関わる気は毛頭ない。


 この大会だって、そもそも父さんの歌詞状態を研究する息抜きみたいな経緯での参戦だ。

 そこに他のダンジョン種族がやってきて、地上を脅かしてると言ってもさ。

 たかが錬金術師が割って入ることなんてないでしょ。


 なんなら探索者がどうにかするところだよ?

 錬金術師に頼るなよ。


「まぁ、個人での問題には口出ししないけど。国の危機には対応しようと思ってる」

「いいんですか、先輩?」

「どっちにしろ、見殺しにしたら寝覚が悪いだろ?」


 僕は後輩に言って聞かせ、配信を通して全国各地に通達する。


「あーあーみなさん聞こえてますか? 国家錬金術師の槍込聖です。今回のインド首都襲撃の件、大変痛み要る次第でございます。ですが僕たちが直接現場に赴くのは二次被害を生み出しかねない。そこで、折衷案としてこのような提案をしたいと思います」


 僕の提示は、せっかく戦力戦力が集まる大会を開催してるのだから、いっそここに該当モンスターを無期限で引き受けるよ? と言うものだ。

 各国に配布したあっちいけチケットの仕様上限解放。

 流石に緊急時だから現地に探索者を召喚するのは控えさせていただくが、これぐらいならば対応可能と宣言する。

 その上で大会にエントリーしてくれた参加者には、より多く討伐したものに優勝の報酬を与える次第になった。

 要はトーナメント勝ち抜き戦からポイント獲得戦への移行となった次第だ。

 その上で、同時にうろこ族の変質の原因を突き止め、精神を縛るバグを徹底排除すると宣言した。

 人々の不安はモンスター化した後に元の体に戻れないと言うことだ。

 戻れるならいくらでも使用してやるつもり満々な面にはこの際目を瞑ろう。

 どうせドーピングアイテムを使用したらうち主催の大会には参加できないし。

 ここら辺が落とし所だろ。


<コメント>

:まじか!

:ありがとう!

:先輩、お願いします!

:なんだかんだ推しに弱いよなぁ

:チョロスンギwww


「あ、なんか急にやる気なくなった。あとは各国で対応頼むね? 後輩、閉会式の準備を」

「はーい」


<コメント>

:おま!

:冗談だよー、本気にするなって

:ここで冗談を言える神経もどうかしてるぞ

:人の命がかかってるんですよ?

:インドに友達がいるんです!

:冗談で、人の命を軽く扱わないでください!

:あなたに身内を亡くした人の気持ちがわかるんですか?

:息子がモンスター化しちゃって、身内が怪我をしたんです!

:お前お前お前お前!

:そんな責めるなって

:実際先輩がやる気無くしたし戦犯だろ

:特定班、早く

:今特定した


「サポートしました」


<コメント>

:後輩ちゃんwww

:さすが情報開示のプロ

:後輩ちゃんからのサポートで身元がすぐに割れて草


 お前ら、僕に仕事を丸投げしてて楽しそうでいいな。

 やっぱりリスナーにも仕事を割り振るか。

 そう決心した僕は、誰が何匹討伐したかの集計をリスナーに丸投げした。


 全員が目視で追いつく動きをしてないので、すぐに謝ってきたけどそれは宿題です。

 僕が研究してる間は対処してね。役目でしょ!

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