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第72話 先輩、飴ちゃんを配る

 結局あれから。

 なんだかんだとスペアボディをフル活用してバイオハザード気味に汚染された人類救出の薬品作りに取り掛かっている。

 研究は全く進まない。

 そもそも特効薬が一朝一夕で作れるんなら人類はこんなに後手後手になどならない。

 それをわかっていながら頼るだけ頼っての無責任さに呆れてものも言えなくなってる感じだ。

 そんなわけで息抜きである。


「どう、ちょっとは討伐の方は進んだ?」

「あ、先輩。研究の進捗どうですか?」

「まだみんなが納得できるラインには届いてないね」

「あー」


 人はみんな僕に期待しすぎている。

 その高い期待に僕が答える義理はこれっぽっちもないのだが。

 まぁ世界の命運がかかっているのでね。

 半端なものは出せないのだ。


<コメント>

:正直、特効薬を今日の今日で作れは無理なんよ

:急務でもな

:本来なら発覚から数年かかる代物です

:余計なことを言う奴は締め出した!

:あとは先輩が頼りなんです


「はいはい。急かす人から人体実験に付き合って。名乗り出た人から誘致するから」

「あ、私順番数えますねー」

「よろしく」


 そのあとコメントが急速に止まる。

 本当にピタッと止まった。

 やはり口だけか。

 ネットができてから数十年。

 口だけの人があまりに増えすぎた弊害か。


「あのさ、人にものを作れって言っておいて。自分は協力しないってのは実際どうなの? スペアを代わりに差し出すこともしない。もっとスペアボディの有用性を示して欲しいね」


<コメント>

:だって、ねぇ?

:スペア貫通して本体が精神汚染される代物を直接浴びにいけるかって言われたら

:普通は無理って思うし


「ヘタレですね」

「所詮は民間人だしね」

「それでも現地被災者の救出は進んでるんだよね?」

「一応隔離部屋に」

「バイオハザード被災者だし、それが適当か」

「りゅう族の呪いですからねぇ。名乗ったのはうろこ族ですが」

「眷属って意味合いじゃ一緒だよ」


 まさか眷属も呪い持ちだとは思わないじゃんねぇ。

 母さんはそんなこと一言も言ってなかったし。

 ずっと地上にいたから知らなかった?

 まぁそれはさておき。


「猫丸先生からは?」

「ミミ先生ですか? 古傷が痛むぜって」


 なんじゃそりゃ。

 ノリノリで遊んでるんじゃない。

 父さんが寝たきり(物理)かましてるってのに、随分とお気楽なこと。


「あんまり深追いはしないでいいって言っておいて」

「集計係が頑張ってくれてるとはいえ」

「ああ、トーナメントの報酬か」


 今回の添い寝杯の優勝報酬は文字通り僕と添い寝する権限である。

 それをこの無粋なトカゲ人間がナイスサポート、もとい邪魔をしたので大会参加者(僕の添い寝希望者)は躍起になってテロリストどもをやりこめているのだが。


「そう言えば今集計はどんな感じ?」

「今数字を出しますねー」


 ズラッと参加チームと討伐数、アイテム納品数が並ぶ。

 中には純粋な武力で討伐数を稼ぐチームもいるが、うちの会社の社員はアイテムを駆使して納品ポイントを稼いでいた。

 誰が勝っても僕の心は死ぬが、まぁ多少の犠牲はつきものである。

 それで人類が救われるんなら安いもんさ。


──チーム────────討伐───納品──

聖夜リコ &兎谷クー   78 /140

猫丸ミミ &サルバ    80 / 60

エミリー &レイラック  88 / 54

アメリア &メアリ    99 / 30

イルマーニ&ニャルス  100 / 18

トール  &美作アカリ  20 / 80

──────────────────────


 やはり我が軍は圧倒的か。

 僕のスペアとローディック師のスペアは普通に強かった。

 技術力が違うよ、技術力が。


 二番目は母さんとサルバさん。

 こっちも技術力? とは言えないが魔法少女(物理)での参戦。

 天才錬金術師NYAOの宣伝をこれでもかってくらいしてる。

 自分の作品への媚びを忘れない母であった。


「やはりにゃん族チームは圧倒的だね」

「武力に特化した種族らしいですからね。でも人類チームも負けてませんよ?」


 一応今回の目だもも褒めておくことは忘れない。

 母さん? あれは魔法少女枠だから。

 とは言え討伐数でならトップを駆け抜けてるのがイルマーニさんだ。

 あれ? この話回ってきたの三十分前とかじゃないっけ?

 なんか討伐数おかしくね?

 呪いを受けた人類はそこそこ強いって話だけど。

 人類ぐらいの出力しか出せない素体に封じ込めたんだけどおかしいなぁ。


 やっぱあれかな? りゅう族に対する恨みは強い的な。

 エミリーチームもにゃん族だね。

 こっちはまだ納品を頑張ってるおかげで上位につけてる。

 やはり優劣をつけるのは納品数だよ。

 現に僕のスペアはそこで上位に立ててるし。


 アメリアさんも僕と一緒に遊んだことでそっちへの重要性を理解はしてはいるものの、僕ほど上手く回収はできてない感じだった。

 まぁ僕が一任してたからね。

 急にやっても慣れてないからこその不手際さはあるか。


 うちの研究員とトールのチームは、番宣目的だったが故に最下位。

 それでもポイントは付かず離れずで頑張ってる。

 完全に大会仕様でスペア消費方の大技がここにきてトールに牙を向いた感じだ。

 ざまあ。


 何はともあれ、目に見えてりゅうの呪い被災者とうろこ族の討伐は済んでいる。

 だからこそ腑に落ちないこともあって。


「すごいよね。だからこそどうして、みんなして僕の添い寝を求めるのか」


 永遠の謎だった。

 男、それもおじさんとの添い寝だぞ?

 可愛い女の子でもあるまいし。


「先輩は可愛いですからね」

「つまり僕の可愛さが?」

「世界を救うってことです」

「草」


 可愛ければおじさんでも構わないというこの世の中捻じ曲がりすぎだろ。


<コメント>

:実際にそれだけか?

:先輩が可愛いからこの種族がにゃん族が味方になった?

:恐ろしい快挙

:あとは本人がその可愛さを認知するだけです


「はいはい」

「先輩はこんな調子ですからね。みんなで可愛い可愛いって愛でてあげてください。長期戦ですよ!」


 なんでそこでそんな煽るのか。

 そしてみんなはそれに乗るのか。


「お、研究チームから朗報。精神感染を一時的に食い止めるキャンディの開発に成功したって。現物送るからみんなで舐めてねー」

「了解です」


 特効薬ではないが、今は一時凌ぎですら喜ばれる。

 なのでレシピ公開は秘密裏に各研究機関へ配布する。

 大々的に公開するのは、それこそ特効薬以外ではね。

 特にこの配信は世界各国で流れてるから。


「今手元に現物が届きました」

「可愛い猫ちゃん型のペロペロキャンディですね」

「NNPになぜか置いてあった金型だ」


<コメント>

:これに大の男がかぶりつくのか

:勇気いるな

:もっとのど飴みたいなのとかさ


「その案もあったけど、効果時間の問題でね。ちょっとづつ舐めて正気に戻ったあと、あわよくば自分の姿を想像して恥ずかしがってほしい」

「先輩……本音漏れてますよ?」

「いけね」


 そのあとコメントから総ツッコミを受ける。

 緊張による焦りや不安からくる怒りが少しでも緩和されたんならそれに越したことはないもんな。

 もちろんこちらにそんな意図はないのだけれど。


「もちろん、今トカゲ人間を討伐してる大会参加者用のキャンディも用意してるよ」

「準備がいいですね」

「いつどこで感染するかわからないからね。その原因を探るためにも準備は整えておくものだよ」

「流石です」

「特に今回は一般人も参加しているからね。スペアボディとはいえ、本体に影響が出るんだからこれくらいの保険はかけておくものさ」


<コメント>

:政府じゃここまで対応してくれないもんな

:実際、被災者側からしたら先にこっちに回せって思ってるだろうけど


「配ったのがこちらになります」


 後輩がとてもいい笑顔(壁の中にいるので見えない)で、隔離施設の状況を別画面で伝えた。

 僕のスペアは成分を抽出して他の錬金術師にレシピを公開。

 即座に製造ラインを確保したからこそできたら技である。

 今回のレシピはその場しのぎにしかならないが、いつ時刻にそんな脅威が訪れるかわからない恐怖からみんなのりきで生産ラインを開けてくれたよね。


 やはり持つべきは転送陣。

 伝達も早ければ素材の配送も早い。

 梱包から搬入まで数分で終わるってのが特に良い。

 これが当たり前になりすぎても困るんだけどさ。


<コメント>

:みんな真顔じゃんwww

:あんなファンシーな飴舐めさせられる人の気持ちにも……ブフォw

:悲惨な光景から一転

:いや、悲壮感ばかりでもさ

:それもそう


「お前らが口だけだから開発者の僕が和ませようと苦心して」

「本音は?」

「一朝一夕で特効薬が作れるわけねーだろ、ふざけんな」

「現場からは以上です」


<コメント>

:それはそう

:むしろ感染を遅らせる薬品が物の十数分で作られたのがおかしいっていうか

:それを製品化した上で大量配布だもんな

:先輩への期待の寄せられ方が半端じゃない

:あまりに気軽に話しかけられるだけで世界の権威なんやで

:ほんそれ


「個人Vへかける負担じゃないっていうか」

「誰も先輩を個人Vだなんて思ってないから大丈夫ですよ」

「僕はもっと配信をのびのびやれるもんだと思ってた」

「顔が売れすぎるのもネックですね」

「君みたいに僕も今から壁に埋まるか?」

「ダメです」


 そんなー。


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