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第80話 先輩、喧嘩を売りに行く

「始まりました! 錬金チャンネル! 司会の先輩と〜?」

「私のセリフをとらないでくださいよ! アシスタントの後輩でお送りしまーす」

「どんどんぱふぱふー」


 今回の企画は、ちょっとしたダンジョンアタックに、今後お役立ちになるレシピの公開と特大ボリュームでお送りする……と言うのは建前で、本音はりゅう族との交渉に全人類を巻き込むのが趣旨である。


 え、何でそんなことをするのかって?

 勝手にやったらやったで怒るでしょうが。

 なのでそれとなく、何かの企画っぽいフリをして伝えちゃおうかなって。


 大丈夫大丈夫、僕がちょっと恥ずかしい目に遭うだけだし。

 リスナーさんには目撃者になってもらうだけだし。

 あくまでもいつも通りってやつさ。


<コメント>

:この前の添い寝杯はご苦労様でした

:最近配信スパン高くて嬉しい

:錬金キャンディの新しい配合きたか?

:おかげで稼がせてもらってます

:今回はどんなレシピやろ?

:楽しみー


 やはりここにくれば『帰ってきた』という感じがしていいね。

 だからこそ『騙して悪いが』とリスナーを巻き込むつもりでいる。


「今回の配信はー?」

「とある商品をりゅう族に売り込みに行く! です。いえー!」


 ぱちぱちぱち!

 拍手をしながら場を盛り上げていくが、コメント欄はお通夜ムードだった。

 それもそう。

 インドであんな目にあったばかりで、まだ全員の救出が済んでいないタイミングだからである。


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:インドの被災地見てないんか

:りゅう族って諸悪の権化やんけ

:まさか先輩、戦争商人でもやるつもりか?


「いやいや、僕だって本当はこんなことをしてる暇はないんだよ? とはいえ、ないそでも触れないわけで」

「先輩、それだとリスナーに伝わらないですよ?」

「あぁ、つまりだ。素材が圧倒的に足りない」


 僕は実情を話した。

 単純な話である。

 ものを作れと言われても、素材が限られている。

 その素材の入手先が先行していた大塚くん頼みだったのに、音信不通になった。

 調査も含めて様子を見にいく。

 あわよくば素材の入手ルートを確定したい。


 レシピの公開はそのついでにやっていって。

 内容次第ではどれがどれくらい必要かを知ってもらうって感じだ。

 全部僕が作れ?

 いやだね。

 もうタダ働きはしないぞって意思表明も兼ねていた。


<コメント>

:なるほどなぁ

:レシピ公開がついでなのはそう言うことね

:つまり?

:素材がないとそもそも救援要請に対応できないと

:どうしようもない現実である


「そんなわけでー、レシピの公開だー」

「制作難易度は150くらいですかね」

「そうだね、そんなに高くないよ」


<コメント>

:十分高いです

:えぐいて

:まだ100に届いてない錬金術師だっているんですよ!

:代用品は?

:まだその段階じゃない件

:そもそも素材がねーって段階なのよ

:代用品があるんならこんな企画たってないんや

:それもそう


「そんなわけで、今回はただそのままで行けば当然門前払いになるのを避けるため、にゃん族に化けていこうと思います!」


<コメント>

:なんて?

:門前払いっていうか、普通に攻撃されるやろ

:交渉以前の問題やんな

:なんで交渉してもらえる前提で行くんだって話

:何か当てはあるんですか?


「もちろんあるよ。これは僕個人に亡命してきたにゃん族からの情報なんだけど……」


 僕はリスナー達にダンジョン種族とりゅう族の関係性をざっと説明する。

 突然変異ばりに力を得た代わりに、単一個体としか生命を維持できなくなった可哀想な種族。

 それがりゅう族であること。


 他のダンジョン種族をお嫁さんにして、なんとか種族繁栄を試みたこと。

 けれどどう考えたって体格や強靭さが釣り合わず、合う種族を手当たり次第確かめてるということ。

 ほとんどの場合が条件が合わずに精神が磨耗して死んでしまうこと。

 そこで僕たちは、りゅう族にお似合いのボディを提供することで、なんとか素材を安定供給できないかの交渉をしに行くことを話した。

 その際に元お嫁さん候補のにゃん族の姿で行くという前提である。

 だいぶ無理がある?

 それはそう。

 でも実際それ以外の成功率は0%なんだからしょうがないだろ!

 ダメ元は百も承知だった。


<コメント>

:計画ガバガバやんけ!

:失敗する未来しか見えないんですが、それは

:ドラゴンが乙女心とか理解できるわけないやろ!

:いい加減にしろ

:ワンチャンあるかどうかの話じゃんか

:人間のままでいけば、そのワンチャンもないんだぞ?

:薄氷の上を渡ってんなぁ

:ある意味で命懸けではあるよな


「ちなみに、花嫁衣装は非常にセンシティブなので、僕も切るのは恥ずかしかったんだが?」

「ですので、探索中の先輩は荒めのポリゴンで誤魔化します。当然ですね、ここはまだ小さいお子さんも観にくる場所ですので。えっちなのはダメです」

「おじさんなんだよなぁ」

「どれくらいえっちかというと、これくらいです」


 後輩は僕が着る前の衣装を、マネキンに着せた状態で発表した。


<コメント>

:あー、だめです、これはダメです

:鼻血不可避

:逆バニーも真っ青の布面積やんけ

:センシティブすぎる

:お嫁さんとは一体?

:こちらも抜かねば無作法というもの


「どうだ、今僕がどれほど恥を偲んでこの格好をしてるかわかったか?」

「先輩はもっと自分のかわいさを自覚してください」

「32歳成人男性なんだよなぁ」

「つまり、先輩は女の子ってことでいいですか?」

「ダメだこの子、早くなんとかしないと」

「現場からは以上です」


<コメント>

:公式が言ってるだけ定期

:画面にいる先輩がどう見たって女の子でしかない件

:案の定、現場に向かっているのはスペアなのか

:そりゃ、失敗前提やし?

:精神を12個あるから一つくらい犠牲にしたって痛くないか

:そういう問題じゃなくない?

:失敗したら人類にヘイト向くやろ

:いや、ヘイト向くのはにゃん族にじゃね?

:あぁ、だからにゃん族の格好してるのか

:なるほろ


 勝手に納得しちゃった。

 もうそれでいいよ。

 説明が一ミリも伝わってないでやんの。


「ちなみに、先輩の格好はセンシティブにお定食するから移せませんが、その衣装を着た時の顔は別に問題ないのでアイコンに繁栄しまーす」

「おいバカやめろ」


 言ってる側から僕のアイコンがそれに変わった。

 なんだろう、すっごい恥ずい。


<コメント>

:うっ

:うっ

:おっふ

:これは破壊力が強すぎますね

:おい、こんな格好して交渉しに行くとか!

:かー、卑しか女ばい


「みんな趣旨忘れてて草。これがダンジョン種族の間では正式な格好、フォーマルな衣装だから」

「人類とは趣味嗜好が大きく異なるので、皆さんも今回の配信を見て学びましょうねー」


<コメント>

:言うて、ダンジョン種族は基本全裸だからな

:もしかして、何か着ることで存在の高さを示してる?

:全裸の子が下着着るだけでえっちに見えるのと同じ思考で草

:布面積がないけど、着てるから高位なのか?


「まずは今回、一緒に来てくれる選抜メンバーを発表します!」

「ミザリーよ、よろしく」

「まずはにゃん族で研究員のミザリーさん! りゅう族の呪い付きです! いよっ」


 ぱちぱちぱちと拍手をして迎え入れる。


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:呪い付きの相手を交渉の場に?

:まずいですよ!

:正気か?

:もしかしてお嫁さん候補ってそういう?


「次ににゃん族の長であるイルマーニさん! こちらはミザリーさんの妹さんです!」


<コメント>

:おいおいおいおい

:これ、にゃん族の弔い合戦だったりする?

:ありうる

:もしかして、軽いノリで始まったけど、歴史的一場面なんじゃ?

:先輩の配信はどれもこれも歴史的一場面定期

:それな

:今更だったわ

:それもそうやん

:全てのアーカイブが一億再生されてる男

:先輩は女の子だって言ってるだろうが!


「最後に僕……と言いたいところだけど、今回は全く別の人のボディに入ってます! 後輩、解説お願い!」

「はーい。今回先輩の入ってるボディはですねー、にゃん族で匿ってた元人間の男性が呪いにかかって女の子&りゅう化を果たしたい枠付きのボディになります!」

「その通り! 魂の摩耗で肉体だけしか残されてなかったので、今回おあつらえ向けに僕が着てるってわけ!」


 もちろん、それが父さんの体だってことも、産んだ卵から僕が生まれてきた話なんかは伏せておく。

 弔い合戦?

 そうだよ。

 売られた喧嘩を買いに行く。

 これは僕がにゃん族の長になった以上に、生まれたルーツを遡る旅でもあった。


<コメント>

:やっぱり弔い合戦やんけ!

:交渉という名の敵討で草

:あわよくば交渉するけど、ダメだったら自爆特攻するってか

:おっそろしいわ


「いやいや。勝算があるから今回こんな企画を思いついたんだよ? 決死の覚悟で行くんなら配信しないって」


 実際そう。

 ある程度交渉の余地があるからこその選択肢である。

 その上で企画にした。

 その真意は?

 政府も巻き込むためである。


 今は地上を征服するダンジョン種族の陰謀論がこれでもかと地上に蔓延してるからな。

 なので真実を明らかにしていこうかなと。

 レシピ?

 それはうまくいけばいいねとしかいいようがない。

 正直そこら辺は運が絡むからね。


<コメント>

:本当か? 信じるからな

:グロ画像見せなきゃいいよ

:お前ら何様? 先輩が大丈夫って言ってるんなら大丈夫だって

:インドであんな被害があったばかりだからの心配だよ

:もしかしたらあれが日本でも起きかねないってことでしょ?

:その前に大本を叩くって話に聞こえるけど

:そんなうまく行くのかよ

:大丈夫だって、俺たちはもう先輩に頼るしかないんだ


「草」

「この人たち、いったいどれくらいピンチになれば自分でやり始めるんでしょうか?」

「誰も責任を負いたくないからね、しょうがないよ」

「先輩はお人好しすぎます」

「後輩もそんなお人好しの僕に付き合ってくれるじゃないか」

「苦労の連続ですよー」


<コメント>

:惚気乙

:後輩も苦労に人やんな

:えっ?

:えっ?

:あの物欲の権化が苦労人?

:物欲の権化は草

:このチャンネル一の煩悩の持ち主やぞ?

:草

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