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第81話 先輩、現地に乗り込む

「はーい、それじゃあ進んでいくよー」

「今回の旅の目的をおさらいしておきましょうか」

「それもそうだね。みんなすぐ話を脱線させるからねー」

「先輩のかわいさが民衆をおかしくさせるんですよ」

「解せぬ」


<コメント>

:俺たちも舐められたもんだぜ

:実際、今回の目的ってなんだっけ?


 後輩がテロップを出す。

 ①人質の解放

 ②ボディの交渉

 ③素材の確保

 ④ダンジョン種族への謝罪

 ⑤今の縄張りから撤退してもらう

 などなど


<コメント>

:多い多い多い

:目的の数多すぎて、全部達成できるかわからないやつやん

:素材回収だけって話じゃないんか?

:あわよくば、達成できたらいいなって願望が多すぎる件


「ちなみに、素材回収をする見込みは交渉が成立して、ボディを気に入られた先にあるものだからね? 段階を踏まないと無理ゲーなのは覚えておいて」

「力技でどうにかできればとっくにしてるんですよねー」

「呪いがとにかく厄介で。なんと匂いに乗ってやってくるから防ぎようがないんだよね」


<コメント>

:は?

:今なんて?

:交渉なんて先輩らしくないと思ったら

:え、うろこ族が優しく見える理不尽やん

:それは確かに頭下げにいくやつだわ


「誰か代わりに言ってくれる子がいるんなら、僕はお譲りする気満々でいるよ? 誰か代わりに行ってくれない? スペアは特別に3つつけちゃう。どう?」


<コメント>

:精神汚染してくるやつにスペア三つは無謀

:それ、ボディごと乗っ取られるやつでしょ?

:当たり前なんだよなぁ

:うろこ族と比べてどれくらい汚染速度早いの?


「まだ正確には判明してないけど、潜伏期間は2日かな? まず最初に肉体がじわじわ変化していく」


<コメント>

:早い早い早い

:うろこ族のはどれくらいだっけ?

:一週間かな?

:最初は肉体?

:感染先の傷口が結晶化する、だっけな

:りゅう族は?


「なんか皮膚が異様に固くなってきたら要注意」


<コメント>

:それだけ?

:初期症状見逃すやつやんけ


「あ、でも男の人だった場合、シンボルが真っ先に消えるよね」


<コメント>

:あぁ、花嫁になるための儀式やんな

:そこからの変化なら、まぁワンチャン?

:ねーよ

:TSした段階で花嫁決定は罠だろ

:朝起きたら女の子になっていた!? が花嫁になっていた?

:それそれ

:新ジャンル生まれたな


「これを地上の全員に起こりうる状態にするかどうかの瀬戸際です。今後の人生、りゅう族の卵を産んで過ごす生活をしたい人は今すぐこの配信を切って日常生活にお戻りください。嫌だーって人だけ僕たちの企画の成功を祈ってください」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:嫌なんだけど

:強制お嫁さんルートかよぉ!

:しかも産卵って何?


「後輩、密偵から送られてきた卵の画像出して」

「はーい」


 今後の生活に不安を覚えてるリスナーに向けて、そんな世界になった後に大体どれくらいの卵を産むかの指標を教えていく。

 自分が産む卵のサイズだね。

 出産経験のある女性なら多少の覚悟はできてるが、男の場合はそれがない。


 なので大体のサイズを出すと……


<コメント>

:デカくね?


 そうなるよなぁ。

 そしてお次に、卵と産んだであろう個体のサイズを比べると、コメント欄は大騒ぎした。

 女性であっても無理なサイズだと図ではっきり理解できたことだろう。


<コメント>

:え?

:この状態からの産卵?

:お腹裂けない?

:あ、それに耐えられなくて精神が摩耗?


「産卵催促のスパンはまだわかってませんが、鶏と同じ生活だと思ってもらえればわかりやすいかなと」


 地上をりゅう族に支配されるとこれくらいわかりやすいことが起きるって話で、実際の被害はまだ何もわかっちゃいない。

 運良く生き延びてもこれが待っている、という警告だよね。


<コメント>

:卵を催促されるって、食われるための?

:嫌だーーー

:拙者、女の子になる憧れはあるけど卵は産みたくない侍

:俺も

:りゅう族、絶対地上に進出させちゃいけないやつじゃん

:子供のドラゴンはまだ可愛い方だったんか、あれ

:十分凶悪です

:小さくてもAランクパーティ推奨だけどな

:Sランクなら数十体相手取れるけど……

:その数が増えてなだれてきたらワンチャンわからんぞ

:で、結果負けて全人類産卵マシーン化か

:そんな未来嫌だー

:そのうち卵の大きさでマウントを取り合う社会が見える

:あー、ありそう

:やめろー想像したくなーい


「今回の企画が失敗したらそうなるってだけで、成功すれば良くない?」

「まぁ、皆さんがあまりに攻略に慎重になっているので、ここで情報をぶちまけることで尻を叩いて攻略に意欲を持たせようと先輩は目論んだわけですねー」

「ねー」


<コメント>

:先輩も貧乏くじやな

:できるからやれてる


「やりたくないけどやらざるを得ない、の間違いなんだよなー」

「見えたわよ」

「ドラゴンの巣だ。ここからは慎重にいきます」

「おっと、ごめんごめん」


<コメント>

:かっるいなぁ

:これ、本当に地上の運命をかけた勝負?

:かけてる命は先輩の12個あるうちの一つなんだぞ

:あとはにゃん族の魂かー


「ちなみに、にゃん族の皆さんもこれ以外の魂とボディを持ち合わせた上での挑戦だよ。最悪乗っ取られる可能性もあるからね」

「そのストックがない状態で向かうのは流石に死に急ぎすぎてるからな」

「そうね、ありがたい限りよ」


<コメント>

:にゃん族をしてそう思わせる敵か

:敵ってよりも呪いが厄介


「いた、ドラゴンだ。見つからないように行きましょう」

「いや、ここはあえて見つけてもらって救援を呼びだそう」


 僕はホルスターから拳銃を引き抜き、ドラゴンの鼻っ柱に向けて一斉掃射した。

 ふははははは! 馬鹿面晒したドラゴンに一斉掃射するのって気持ちいーーー!


<コメント>

:先輩?

:先輩!

:それはあかんて

:あれだけこちらに注意喚起してこれとか

:でも他のにゃん族、誰も止めないな

:なんでや?

:まさかの予定調和?


「よーし、採血採血! これも重要な素材だからねー」

「あとは卵の殻だっけ?」

「それも必要だけど、まずは個体数を減らすのが重要。ボディを売るっていうのは卵を産む強靭なボディを活躍させたいから、子供がいっぱいいるのは都合が悪いんだよねー」


<コメント>

:草

:相手に売り込むために乱獲していいってことにはならんでしょ

:これ、喧嘩売ってないか?

:どう考えても売ってるやろ

:ついでに素材確保なのか

:これから交渉する人間のやることかヨォ!

:破談にしたいのかな?

:仇討の側面が強すぎんでしょ

:先輩に任せてよかったのかな?

:ダメかもしれん


「姫、おかわりが来ました」

「よっしゃ、数を減らすぞ。全員、散会!」


 ヒャッハー、収穫の時間だぁ!

 ドラゴンはどんどん採血をしちゃおうねぇ!


<コメント>

:今姫って言った?

:先輩、にゃん族からも女の子扱いされてるんか

:まぁどこからどう見ても女の子だし

:実際、今のボディは女の子だし?


「魂は男だって〜の!」


<コメント>

:本人は頑なに女の子じゃないことを否定しており

:あとは本人が認知するだけなんだよなぁ

:おかしいな、本来ならもっと緊迫する場面なのに

:あまりにも場当たり的な行動が目立つせいで

:ああ、もしかしてこれ先輩の思い通りに進んじゃうんじゃね?

:俺もそう思った

:そうあってくれー

:状況からは最悪な展開しか思い浮かばないのにな


 そうなればいいよね。

 僕もさっさとこの争いを納めたい。

 そのためには多少の犠牲も必要かなって。

 そんな感じ。


「よーし、大体片付いたかな?」

「姫、お待ちを」

「ヒー君危ない!」


 イルマーニさんの呼び止める声。

 僕は一歩踏み出した場所で、向こうからこちらを覗き込んでいたその人物と目が合った。

 黒い髪をたなびかせ、しかし人類にしては珍しい黄金の瞳が暗い洞窟内で爛々と輝いていた。


『お前が、兄弟をこんな目に合わせた奴か! お母さんやお姉ちゃんも困ってる! なんでこんなことをした!』


 どう見ても、人間。

 しかしその両腕には呪いの初期症状。

 童子翻訳だからわからないが、その言語はりゅう族の言葉だった。


「誤解があるようだから言っておくが、僕たちは君の兄弟に一方的に襲われた。だから実力行使を試みた。君ほど対話ができるような感じではなかった」


<コメント>

:一方的?

:え、さっき見敵必殺って、索敵圏外から鉛玉ぶち込んでましたよね?

:誤解?

:騙されないで! その人嘘つきです!

:だからって先輩が殺されたら地上は終わりです

:俺たちは一体どっちを応援すればいいんだぁ!


『そうだったの?』

「そうそう、僕たち元々はりゅう族コミュニティの花嫁だったんだけどさ。待遇がひどくてプチ家出してたんだよね。ドラゴンたちも散々世話してやってたのに、急に手のひら返して攻撃してきたんだぜ? だからこっちもついカッとなって」


 攻撃してしまった。

 血を抜いたのはどっちが格上か教えるためで。

 ちゃんと言うことを聞けば後で返すつもりだった。

 そう説明したら、少女はニコッと笑って警戒を解いてくれた。


『なーんだ。じゃあパパのお嫁さんなんだ』

「そうそう。お土産も持ってきたんだ。パパが気に入ってくれたらいいなーって。でも、パパの匂い弱まっちゃったから、先にそっちを強めたくて。お願いできる?」

『そっか、匂いが弱まったから外敵として認識されて襲我ちゃったんだね。いいよ、案内してあげる。こっち』


<コメント>

:いい子だなぁ

:パパってことはこの子もりゅう族なのか

:どう見ても人間だけどな

:両腕には硬い鱗がびっちりだったぞ

:つまりは初期症状か

:元は男の可能性

:俺たちもああなれるのか?

:美少女になれるんならワンチャン

:でも卵は産みたくないでござる!

:悩むなぁ


 悩まなくったって僕が失敗したらお前らも晴れてりゅう族になれるんだぞ?

 鶏が先か、卵が先かくらいのもんさ。


 そしてりゅう族の少女、ナオに連れてられた僕たちは。

 りゅう族の長、コアと出会った。


『誰だ、お前ら』

『あれ、パパの知り合いじゃないの?』

『ナオはまだ生まれたばかりだから騙されやすい。お前たち、一体何の用があってオレのコミュニティにやってきた。我らを害するとあったら、ただではおかんぞ?』


<コメント>

:え、この子が長?

:可愛くない?

:先輩と甲乙つけ難いな

:これが呪いの発生源ちゃんですか

:オレ、この子の卵なら産んでもいいかも

:熱い手のひら返し!


「やだなー忘れちゃった? 槍込真栗だよ」

「ミザリーよ。にゃん族からの花嫁の。本当に覚えてないの?」

「久しいな、コア殿。今回は逃げた花嫁を連れ戻し、詫びに参った」

『???……ああ、いたな、そんな奴らも。しかし、一度逃げたのに舞い戻ってくるとはどんな了見だ? もうここには帰ってこないと思ったぞ』

「単純に待遇が最悪だから準備を整えてきただけだよね」

「そうそう、あの時って卵を一個産むだけで精神が病んじゃう子がいっぱいだったでしょ?」

『そうだな。だがオレは最高の花嫁を手に入れた。アキラだ。それに可愛い娘も生まれて、もう新しい花嫁は必要としてない』


 それだと困るんだよねぇ。

 僕たちはとっても大量に素材が必要なのだ。

 最悪自分たちで産んで賄うことも視野に入れていた。

 交渉なんていくらでも踏み倒す気満々だ。


「そっか、でもその子達は日産でいくらの卵を産めるの?」

『日産? 1日に何個産めるかだと? あまり無理はさせないようにしてるから3人で日替わりで一日2個くらいだな』


<コメント>

:気遣いのできるお父さんでいいじゃん

:気遣いできてるか?

:3人で一人二個を毎日だぞ?

:最低でもあのサイズなんだよな?

:オレ一個でも無理かも


「そうそう。僕たちは前までは週に6個くらいが限界だったけど、今の今まで鍛錬して1日に20個は産めるようになったんだけど、それでも門前払いするのかなって」

『20個か!? お前たち3人が?』

「もちろん。一人20個は約束できるよ。どう?」

『うむむ、それは捨て難い。我々も外敵が多くてな。兵士は多ければ多いほどいいのだ』


<コメント>

:これ、どっちが悪者かわからんな

:ひどい押し売りを見た

:こうやって幸せな家庭は崩壊するんやなって

:あまりにもストロングすぎる交渉

:出産アピールで仲間入りか

:結局産みに行くのか

:これ、放送してて平気な奴なの?

:ダメかもわからん


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