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第84話 先輩、ステージに立つ

 大塚くんに連れられて見回り兼マッピングを敢行する僕たち。

 不審人物を見つけるミッションは、安全が確保されたことで終わりを迎えた。


『そういえばさ』

『なんだ?』

『パパ以外の部族長ってみんな強いの?』


 りゅう族のボスはコアだけではない、と聞いた。

 では戦力差に一体どれほどの差があるのか。

 やはりそこは気になった。


 僕のミッションはりゅう族の気を地上から逸らすところから、他の部族長がどのような性格であるか、調査するところにシフトしていた。


 コアは卵を産んでるだけで対処はしやすい。

 けど他の三匹はまだ何も情報がないのだ。


『強いかどうかと聞かれたら、強いとしか言いようがない』

『そりゃ、部族長だからね』

『俺にだって詳しい強さはわからないよ。ただ、あいつは……コアが用心している…それだけで脅威は間違いなく高い』

『だろうね』


 話を短く切り、大塚くんは前を歩く。

 おかしいよなぁ。

 今の彼はりゅう族のお嫁さんで、二匹の子供を持つお母さんであるはずなのに。

 随分と理性的だ。


 生食文化のりゅう族が、なんで今になって火を使った料理なんかを?

 それに卵の産み分けなんかも指示出ししてる。

 母さんから聞いた話では、りゅう族の匂いに当てられた花嫁候補はメロメロになって『パパ大好き♡』『卵いっぱい産むぅ♡』と言う精神状態になってしまうのだとか。


 けど、今の大塚くんからは全然そんな気配を感じないんだよね。


『ねぇ』

『なんだ?』

『大塚君、正気でしょ?』

『……やっぱりお前槍込か。俺が正気だっていつ気がついた?』

『正直今の今まで半信半疑だった。けど、どう考えてもコアを牽制しようとしてるあたりで違和感がね』

『よそ者には見抜かれるか。これでも好き好き大好きモードを装っていたんだけどな』


 無理でしょ。

 自分が産んだ家族は騙せても、どうしたってその違和感は拭えない。

 明らかにコアを操ろうという意志を感じる。

 正気を失っていたらまずそんな思考にならないからね。

 ではどうして彼だけそれが保てているか。

 そこが謎だった。


<コメント>

:どう言うこと?

:この人、正気だったの?

:ていうか、この人元日本人男性って人か

:あ!

:人相変わってたから気づかなかった

:いまだに現実を受け入れられないワイ

:ここまで変貌したか

:卵の殻を持ってきてくれた人?

:そうだよ

:連絡来ないって話だったけど、元気そうでよかった

:でもどうして連絡よこさなくなったんだ?

:謎

:外から来る存在にも警戒してたし

:つまり二重スパイってこと?


 それはまだわからないが。

 彼だけが正気である説明がつかない。

 ノロイ侵攻遅延キャンディが切れたなら、諸共精神支配に陥っても仕方ないのだが、何故か大塚君だけがその状態に至ってないのである。


『アキオは』

『あいつが一番最初に狂った』

『産卵で?』

『そうだ』


<コメント>

:あのサイズの産卵続けてれば仕方ないか

:やっぱり産卵て害悪要素じゃねーか

:そうだよ

:あのサイズのを毎回産むってなったら正気でも気が狂うわ

:確かになぁ


『あのナオって子は?』

『俺の子だ。金色の卵から生まれた』

『金色の?』


 どこかで聞いたことあるな?

 どこだっけか。


「金色の卵! 懐かしいな。僕も産んだことあるぞ。なぁ母さん?」

「そこからヒー君が生まれたんでしたっけ」

「そうだそうだ」

「変なアドリブ挟まないで。台本通り喋ってよ、二人とも」

「いや、すまん」

「ふふふ」


 そういえば。

 僕は金色の卵から生まれたらしい。

 完全に父さんと母さんのでっちあげで、どこからどこまで本当かわからないが。

 まぁ、そういうことだ。


『大塚君』

『なんだ?』

『もしかしてその卵が孵ってから』

『お前の思っている通りだ。俺はりゅう族の呪いを弾けるようになった。金色の卵は、りゅう族の中でパパに認められた証となる。生まれた子は、俺が望んだ姿になる。俺は心のどこかで人間に戻りたかったんだろうな。ナオは、俺の願望に沿った形で誕生した』


 つまりは人間の特徴を持った姿のままで生まれたということか。

 では父さんも?

 人間に戻りたいという願望が僕を人間として誕生させた。

 でもおかしいな。


 大塚君の産んだ子供は卵を産んだと聞いた。

 でも僕は男として生まれている。


 その差はなんだ?

 もしかして、いまだに僕だけが思い違いをしているのではないか?

 悪い予感ばかりが僕の中に渦巻いる。


『大塚君』

『どうした?』

『つかぬことをお伺いするけど』

『ああ』

『その子、男の子のシンボルとか付いてなかった?』


 僕が一番聴きたかったこと。

 それが性別の話である。

 彼女が女の子として生まれたのなら、まだいい。

 けど僕の憶測通りなら……


『ついてたな。だが卵を産んだ』

『つまり?』

『両性具有というやつだ。男のシンボルはついているが、出産も可能な個体だった』

『ああ……』


 僕は悪い予感を的中させた。

 結局僕は男の子ではなく、いわゆるふたなりだったということになる。

 ちくしょう。

 今まで散々否定していたことが現実になるだなんて。

 まるで悪い夢でも見ているようだ。


「つまり、先輩は女の子でもあったと?」

「追い打ちやめろ」

「やはり私の直感は間違ってなかったということでは?」

「あーあー、聞こえなーい」


 やけに女性服に抵抗がなかったなどの憶測を並べ立てられて両耳を塞ぐ。

 あ、僕の耳は今頭の上についてるんだった!

 即座に耳を畳んで聞こえないフリをした。


「今の先輩の姿、最高に可愛いです」

「映すなよー」


 ガタガタと取っ組み合いの喧嘩になり。

 画像には豪華客船が優雅に運河を降りる画像に差し代わった。


<コメント>

:ナイスボート

:ナイスボート

:あ、先輩が出てきたぞ!

:これは炸裂玉チャンス!

:あ! ワニに囲まれた

:先輩! 逃げてー

:諸共炸裂玉で消し飛ばした!

:さすが先輩!

:尺に合わせていろんな展開起きすぎでしょ

:先輩の配信は毎回情報の洪水だぞ? 肩の力ぬけよ

:まず先輩が面白すぎるんだが

:それ


 どれだよ。

 僕を勝手におもちゃにして遊ぶな(憤怒)


「えーはい。大変衝撃的な映像が流れてきましたが、何も見なかった。いいね?」

「先輩の精神衛生保護のため今回は何も見なかったことにしてくださいねー」

「そうそう、全ては今回の配信を面白おかしくするための台本だから」

「どうも、今回の台本を書かせていただいた猫丸ミミです。天才錬金術師NYAO、最新13巻発売中です! みんな買ってね」

「ミミ先生のイタズラにすっかり騙されてしまいましたね」

「ねー」


<コメント>

:さらっと宣伝を挟む漫画家の鏡

:漫画家? にゃん族?

:今はどっちでもいい

:聞かなかったふりは無理があるだろがい!

:これが有名な墓穴掘りってやつか

:やっぱり先輩は女の子だったんじゃないか!

:謎は全て解けた!


「あーあー、聞こえなーい」

「息子よ、潔く腹を括ったらどうだ? 父さんはここまで公にしていたら、もう誤魔化し切れないところにまで来ていると思うぞ」

「正直私もね。別にヒー君はにゃん族でも受け入れられると思うわよ?」


 ここに来て両親が裏切る。

 理由は明白。

 僕という人間が正体を明かしたところで人類から見限られる可能性が限りなく薄いから。

 それだけの信頼を勝ち取ったといえば聞こえはいいが。

 まだまだ利用価値があると思われてるってことなんだよなぁ。


「ですよ。実際、にゃん族だからと裏切り者のレッテルを貼ることが難しい立ち位置にいるのは事実です」

「え、じゃあ僕は人類でも男でもなくても立場は変わらないと?」


 続いて後輩が切り込んでくる。

 僕の心の柔らかいところを切れ味の鋭いナイフでぐっさり。

 ひねってズタズタにするまでがセットである。

 君たち、もっと僕を労おうって気持ちはないの?

 ないんだ。

 そうかそうか。


「むしろその方が健全なのでは? 正直誰も先輩についていけないところありましたし。別種族である方が、納得できるというか。地上人類の見識に明るいにゃん族の方が受け入れやすいって言うか、ね?」


 そんなものか。

 というか、人類じゃない奴が人類の命運を担ってていいのか。

 わからん事ばかりだが、便利だからって理由で今後も仕事を振ってきそうな連中の姿がありありと浮かぶな。

 もしかしたら僕だけが考えすぎているのか?


 どこかで裏切られる可能性が無きにしもあらずって。

 いや、まぁこんなところで投げ出すのも僕の性に合わないんだけどさ。


<コメント>

:怒涛の確認作業

:つまり?

:先輩はにゃん族で、女の子!

:今日はそこだけ覚えて帰ってください!

:日本人でも人類でもなかった?

:そこってそんなに重要?

:草草の草


「はい、ということで僕はどうやら男でもない上に『にゃん族』の生まれであることが判明したみたい」

「ようやく認めてくれましたか」

「まぁね。これ以上否定したって事実が外堀を埋めてくるから逃げるだけ無駄なんだって悟ったよね」

「なるほど」

「だから人類の救済措置も、僕がやんなくてもいいかなって思う」

「思っちゃいましたかー」

「実際関係ないし」

「でも、ここで先輩を外してりゅう族に抗おうって関係各所がいないと思うんですよね」

「やっぱりここで一抜けするのってダメ?」

「むしろ責任の追求をにゃん族に迫ってくるのが目に見えますね」

「あちゃー」


 結局僕は責任から逃れることもなく、そのまま計画を続行する形となった。

 りゅう族にはどうかこのままでいてほしいと思いながら、問題はまだまだある。


 事はりゅう族のコアをどうにかするだけでは終わらなくなっていたのだ。

 だからこそ、今度はコアを巻き込む形でタブ族のことを知って対処したい。

 これは地上の人間のみならず、地上で世話になった同胞の今後を左右するものだからこその対処でもあった。


『そうか、貴重なお話をありがとね。実は僕も似たような経緯で生まれているんだ』

『おい、それってつまりは?』

『今借りてるこの体、僕の生みの親の物なんだよね。僕はこの体から排出された金の卵から生まれてきたんだ』

『……そうだったのか』


 何か思い当たる節があるのか、僕をまじまじと見た後に大塚君は意を決したように僕の手を取る。


『槍込、お前に頼みたいことがある』

『僕でできることなら、なんでも言ってよ』

『秋生を殺してほしい』

『どうして……』


 なんでそんなことを言うんだよ。

 中身は実の息子だろ?


『あいつを見てると、胸が張り裂けそうになるんだ。あいつ、もう何回も死んでる。その度に再生して、精神もあのボディに囚われたままで、俺はもう見てられない』

『殺す以外の方法もあるにはある』

『本当か?』

『でも、コアパパやナオにはどう説明する? 一応は僕と他二人が兵士を産むことにはなっているが、アキオはパパのお気に入りだろう?』

『そうだ。だからその度にニオイを擦り付けられ、正気を失って、無理にでも子供を産もうとする』


 その姿を見ていられない。

 なまじ復活する体だからこその苦しみだとか。


<コメント>

:死ぬに死ねないスペアボディも考えものなのか

:精神が乗っ取られるからな

:精神が無事なら肉体を取り替えられるのが強みだが

:精神も奪われるとなるとな


『わかった、秋生のことは任せてくれ。今回のことは僕も消しかけた責任を感じている。』

『頼むな?』

『でも、代わりを用立てるとなると難しいぞ?』

『実はそのことに関しては俺の方で手配してるんだ』

『手配?』


 僕は大塚君が何を言いたいのかまるで理解できないまま話を促した。


『秋生はさ、竜の巫女に選ばれたんだよ。俺は奥さんとしてコアの側を離れられない。けど、奥さんをお前に託せば、俺は巫女の役をまっとうできる』


 え、嫌だよ。勝手に決めるなよ。

 確かに僕は男のシンボルがついて生まれた女の子だったかもしれないけど、見た目が幼女とはいえ、男と添い遂げる気持ちはこれっぽっちもないからな!


 そうだ、代替え案だ!

 消去法で僕が巫女になるっていうのはどうだ?


『僕が巫女になるってのは?』

『お前には荷が重いぞ?』

『お嫁さんやれってよりは全然マシだろ。何をすればいいんだ?』

『宴の席で舞を披露すればいい』

『それくらい余裕だろ』


 僕は内容をよく聞かずに二つ返事で了承した。

 そして宴の当日。


 僕は裸同然の民族衣装で着飾り、四部族長が見守る中で舞を披露する役目を全うすることになる。

 僕の出番は一番最後。


 まさか巫女の役割が、地下アイドルだとは思いもしまい。

なお、全世界生配信でそれをやってのけた。

りゅう族の文化を知る為、みたいな感じで本番に挑んだ僕がバカだった。


「先輩! 見てください、同時接続数が百億人を突破しました。みんな先輩の晴れ衣装に釘付けですよ!」

「やめれ」


 僕はヤケクソになってコアに向かって愛を叫んだ。

 なぜか他部族長から最高評価を受け、コアからもお褒めの言葉をいただいた。

 お前は爆炎竜族の誇りだとかなんとか言われて、煽てられた。


 もうこれ一抜け出来ないやつじゃん。

 なんで安請け合いしちゃったんだろ。

 まぁ、ボディは父さんのだから後で押しつければいいかもぐらいに思ってたのはたしかだ。

 しかし当人からは「え、元のボディに戻る? 冗談はよしてくれ」みたいに言われて目論見は破断。

 今後も僕が配信用に酷使することになった。


 いっそ殺してくれ。

僕は秋生とは違う意味で死にたくなった。


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