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第90話 先輩、暴露する

「と、ある程度情報を暴露したところで随分場も温まってきましたね」

「生きた心地がしなかったのは俺だけか?」


<コメント>

:強く生きて

:どんまい

:イケドラに悲しい過去

:先輩の過去の方がずっと悲しいんだよな

:男だとずっと信じて生きてきた結果がこれかよぉ

:我々はとても心温まりました(ニチャア)


 そうそう、リスナーはそうでなくちゃ。


「そんなわけで次のコーナーです」


 デン! という音と共にテロップが公開される。


「錬金術談義?」

「ほら、僕ら一応錬金術師なわけだし」

「あぁ、そうだな」

「実際僕たちって品質の高いポーションを作るのが仕事なわけじゃん」

「まぁな」

「そのための苦労話とかできる相手ってなかなかいないんだよ」

「そりゃ専売特許なら秘密にするだろ。なんでそのノウハウをこんな公の場で話そうと思ったんだ?」

「え、実のところ話す相手は誰でもよくて。みんなさっさと200台に上がってこないかなーって、そういう期待を込めてる」

「嫌味か、お前?」


<コメント>

:よくぞ言ってくれた!

:イケドラもこっち側だったか

:そりゃ元錬金術師なら

:あ、そうじゃん

:今も錬金術師の知識残ってるん?


「失礼な奴らだな。俺がどうやってコアの元まで辿り着いたと思ってるんだ?」

「僕の用意した休憩部屋には彼専用の研究室が用意してありましたー」

「実際、助かった。息子はりゅう族のボディがあるおかげか無茶ばかりしていつも血だらけ。俺ができることと言ったらそれを癒すことしかできなかった。だが、お前に任せきりで怠けて錆びついた腕じゃ、品質の低いポーションしか作れなくてな。過去の自分の行いを呪ったよ」


<コメント>

:せやなぁ

:品質低いと効果も低いし

:圧倒的熟練度不足

:難易度がチグハグすぎるんや

:もっと5刻みで出してこ?

:世に公開されてるレシピのなんと効率の悪いこと

:そこに現れた先輩!

:当時は目から鱗だったわ

:素材で不当に儲けてた輩を一網打尽にした時は胸がスッとした

:一生ついてこうと思ったもんな


「慕われてるな」

「揶揄われてるんだよ。ずっとこのスタンスでやってるとさ、肩書きが変わっても気安く来るんだ。僕もう国王なんだけどね?」

「お前に威厳が全くないからじゃないか? どちらかといえば可愛い系だろ?」

「不遜すぎない?」


<コメント>

望月ヒカリ:処す? 処す?

大塚秋生:失望した!

:後輩ちゃんwww

:ほんと先輩命だなぁ

:あれ、なんか今見覚えのある名前が

:気のせいだよ

大塚秋生:ちくわ大明神

:なんだ今の

:なんだ今の

:なんだ今の

:誰だ今の


 あ、こら秋生。まだ出てくるの早いって。

 父親と一緒で出たがりなのかな?

 秘伝の『気逸らし術』で一命を取り留めたけど、アーカイブ化されたらすぐに引っ張り出されちゃうぞ?


 大塚君の中では秋生はってことになってるんだから。

 実際にはおかしくなる前に精神が弾き出されて一命を取り留めてることは内緒なんだからな。


「なんか一瞬見覚えのある名前が」

「気のせいだよ。そんなことより研究室で何を仕上げたのか聞きたいな」

「まぁいいか。実際俺は最初のポーション作りで得意げになっていた。ブランクがあってもまだやれるって自信に繋がった」

「ほうほう」

「だがそれは製薬会社で働いていた時までの話だ」

「うん、そうだね。通常ポーションだけじゃ血まみれになった息子さんを救えない。そこに気づいてくれたんだね」

「迂闊だったよ。今までは会社の規定ノルマをこなすだけで得意気になっていた。はっきり言ってそこから品質を上げる苦労を俺はしてこなかった。その慢心が俺を惨めな思いにさせた」


<コメント>

:ポーション作れても望んだ結果につながらなきゃな

:これが生産者と現場の意見の食い違いか

キング:そうなのか

トール:え、ポーションって出血治せなかったんすか?

ガイウス:ボマーのポーションがおかしかったんだな、これ

キング:ずっとそれを基準に見てきていたわけか

:黄金世代www

:お前等先輩のポーションに頼りすぎなんだよ!

:もっと市場のポーションに向き合って!

:あわよくば買え!

キング:一度ボマーのを味わうと物足りないんだよな

:それはそう!

:くそぅ、ぐうの音もでねぇ!


「僕が彼らにばら撒いてたのは濃縮エクスポーションをポーションで薄めたやつだからね。そりゃ出血だって治せるさ」

「お前バカじゃないのか! もっとふっかけられただろ! なんでそんな自分の仕事を汚すような真似を!」

「そこに興味があった。一度美味い思いをした奴って欲望の際限がないんだ。それを作る苦労を知らないから、発注数を100単位で増やしてくる。そうだよな、三馬鹿?」


<コメント>

キング:…………

ガイウス:当時は本当にすまなかった

トール:だったらそうだって言って欲しかったっす

:まぁ、ポーションと言われて渡されたのが

:薄めたエクスポーションならなぁ

キング:だってお前要求しても翌日までに送ってくるじゃん

トール:ストックあるんだろうなくらいにしか思わなかったっす


「おい、話を聞いてる限りでは、お前が即日で送りつけるから勘違いしてるようだったが?」

「完徹したよね。実際僕もできるかわからなかったけどさ。その頃から効率よくポーションを量産する術を身につけたと思って貰えばいいよ」

「じゃあ俺があれこれ命令する前から?」

「週に1万本の出荷は可能だった」

「スゥ……」


 あ、大塚君が過呼吸状態に!


<コメント>

大塚秋生:ちくわ大明神!

:なんだ今の?

:誰だ今の

:なんだ今の


 ナイス秋生! うまいこと話が流れてくれたぞ。

 大塚君も気が動転して今の爆速コメントをすっかり見逃していたようだな。


「ま、まぁともかく。俺以上にお前も苦労してたということが分かっただけでも良かったよ。お前は天才肌で、苦労なくこなしてるとずっと思ってたからな」

「まぁ苦労はこれっぽっちもしてないんだけどね」

「 は ? 」


<コメント>

:草

:これはイケドラキレていい

:あれだけ苦労アピールしたと思ったら

:こいつ、苦労よりも興味だけで片付けやがったwww

:先輩だしなぁ

:そらそうよ

:顔真っ赤にしてるイケドラ可愛くない?

望月ヒカリ:顔色コレクションコンプリートしたら後で販売しますね!

:おいこら、そこの運営者

:いいぞ、もっとやれ

小早川晶:ちくわ大明神

:なんだ今の?

:なんだ今の

:誰だ? あ、晶ちゃんじゃん

:添い寝杯見たよー

:惜しかった

:あのメンツの中ではうまく立ち回れてた方

:周りが強すぎた

小早川晶:あれ? 全然コメント流れないじゃない

大塚秋生:おかしいなー

:なんだ今の

:なんだ今の

:なんだ今の

:というか、名前を書き込もうとすると

:『誰だ今の』『なんだ今の?』に固定化される

:運営の仕込みかよwww

大塚秋生:そんなカラクリが!

:なんだ今の

:なんだ今の

:どんまい


「やっぱりいるよなぁ? これはどういう事か説明してもらえるか?」

「ぐるじぃ!」


<コメント>

:自業自得やん

:先輩は素で煽ってくるからな

:本人は大して苦しくなさそう

:そらスペアボディは殺しても復活するし

:あ、室内に先輩がワラワラ入ってきた

:あーーイケドラが羽交締めに!

:先輩が反撃をお見舞いだー

:なんだこの絵面

:可愛いに可愛いが溢れてやがる

:これは威厳なくても仕方ない

:一つお持ち帰りしてもいいですか?

望月ヒカリ:だめです

:だめかー

:明らかに人数余って好き勝手してる奴もいる

:そら羽交締めは一人で十分だからな

:入ってきたのは五人です

:過剰防衛で草

:一人じゃ押さえつけられる自信なかったんやろうなー

:あまりにも貧弱すぎる!


「全然痛くない。お前もっと拳鍛えろ」

「くっそー、この弱っちい体が憎い!」

「そんなことより、息子の精神が正気に戻っているように見えたが?」

「アキオも秋生も正気だよ?」

「いや、だって俺はコアの元で狂っていく秋生を」

「それは君が産んだりゅう族の子供の方が野生に帰っている姿だね」

「 ん ? 」

「君の人間だったころの息子さんはアキオが野生化する際に弾き飛ばされて元の本体に戻ってきてるよ」

「そういうことは早くいえ! 俺はもう、ずっとこのままだと思って! それで!」


<コメント>

大塚秋生:もう出てきて大丈夫ですか?

望月ヒカリ:はい、ということで本日の特別ゲストは大塚秋生君でーす。みなさん拍手!

:爆速で流れるコメントで登場さすな

:これを切り抜かせる配信チャンネルがあると聞いて

:なんだ今の?

:誰だ今の

:なんだ今の

:ほらぁ、言ってる側から流され始めてる

:このための仕込み!

:パチパチパチ

:後輩もこれを見越してコメント欄に?


「そこはただの事故だね。壁の中でもコメント欄でも自由気ままに生きてる」

「ちゃんと首輪つけておけよ?」

「無理だって。その日のうちに首輪がズタズタになって逃走してるから」

「彼女は一体なんなんだ?」

「僕にもさっぱりわからない」


 きっとクリーチャーか何かだよ。そう思っておけば心の安寧は保たれる。


「っと、コアのやつが呼んでるな。俺はそろそろいく」

「悪いねー、忙しい最中に」

「本当だよ。お前には自慢される、息子には詳細を伏せられる。俺は一体なんのために生きているんだか時折わからなくなる」

「もっと気楽に生きようぜ?」

「いったい誰のせいでこんな目に会ってるんだかなー?」


<コメント>

望月ヒカリ:先輩、最後にあれを


 おっとそうだった。


「あれ?」

「そうそう。君の苦労したりゅう族帰還タイムアタックを今度バトルウェーブバーサスの方で実装する予定でさ。今日はその特集として君を呼んだわけ」

「まて、こんな帰る途中で差し込む話題じゃないだろ、もっと早く言……」

「と、どうやらゲストのタイムアップが来てしまったようですね」


<コメント>

:1から10までやらせなのかよ

:で、今の発表で何が実装されるって?


「実際に大塚君というキャラクターを使用可能になるというおまけだね。そのキャラを使ってる状態でのみ扱えるシナリオに『りゅう族帰還タイムアタック』が実装されてる。本人はりゅう族のスペックを出しきれず、戦闘はもう一匹のアキオに頼るのみ」


<コメント>

望月ヒカリ:アキオは自動で戦闘してくれますが、基本血だらけになるので生産職としてサポートすることになります

:へー

:面白そう

:実際にイケドラがどんな苦労をしてるか詳しく聞けなかったし

:それをやってみて知るのもありか

:結局、最後まで全世界生配信していたことを伝えなかったな

:それを伝えたら最後の自尊心まで壊れちゃうからだろ

:残当

:まだ人の優しさが残ってた証拠

:人間扱いはしてなかったけどな

:草

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