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第97話 先輩、油断する

「どうも、建国からおおよそ二ヶ月。みなさんいかがお過ごしでしょうか? 最近父さんと一緒にBWVのエクストリームモードに更け混んでる先輩と?」

「みなさんが『にゃん』をどうやって使っていくかをニマニマしながら眺めるのが趣味の後輩のお送りする錬金チャンネル!」

「今回は前回発表できなかったレシピの公開をね、しちゃおうと思いまーす! イエイ!」


<コメント>

:やっとか

:待ってた

:そんなことよりもっとイベントをですね

:にゃんを! 俺らに、にゃんをくれよー

:足りない、足りない、足りない!


「あはは、そんな簡単に発行できるわけないじゃないですか、やだー」

「正直ね、今回の実装は結構な大盤振る舞いだった。元々うちは錬金術の後続育成チャンネルだ。なんの因果かこんなに大きくなってしまったがね。本来それ以上でもそれ以下でもないんだよ」

「ひとえに先輩の発明が世界規模だったって話ですよね」

「そんなつもりはなかったんだけどな。まぁ、こうやって発表したレシピがみんなの役に立ってるんならよかったよ」


<コメント>

:逆にいえば今の錬金術界隈をここまで盛り上げた第一人者だからな

:逆に言わなくてもそうだよ

:明らかに常識の外にいたばかりに

:祝! 先輩女の子認定!


「はいはい。僕はずっと自分のことを男だと思ってた女の子だよ。で、だから何?」

「先輩をあんまり揶揄うと、スペアボディを剥奪しちゃいますよー?」


<コメント>

:軽口の制裁がデカすぎるっぴ

:実際、開示請求したってそこまでお金取れないからな

:ならどう脅すか?

:スペアボディ剥奪でしょ

:これが一番効く

:今やダンジョンアタックは国民の義務だからな

:完全に世間は先輩たちの味方

:今まで通りにクレーム送ってくやつから死んでいく

:闇のゲームの始まりだぜ!

:人柱乙


「とまぁ雑談はこれくらいで。レシピの公開いくよー」

「前回は120のレシピを発表しましたか。じゃあ、次はいよいよ130〜150の間ですね」

「ここまで長かった」

「炸裂玉を発表した頃が懐かしいです」


<コメント>

:いまだに擦られ続けてるレシピだもんな

:上位レシピ楽しみ

:エリクサーが250なんだっけ?

:ちょっと待ったー!

:まだ100も超えてないンゴ

:もう少し待ってクレメンス


「え? まだ100以内? それはちょっと想定外だな。君たち今まで何をしてたの?」


 僕は心底驚く。

 だって、インド災害から二ヶ月だよ?

 向こうでの被害を見積もればポーションなんていくらでも売れただろう。

 これを機に熟練度爆上げのチャンスだったんじゃない?

 なんでここで「もう準備バッチリですよ」くらい言えないのさ。


<コメント>

:ポーションを作ってたんだよなぁ

:でもって、中間レシピがないからほとんど赤字

:確実に素材を操作してる奴がいる

:素材不足でまともに熟練度も上げられないんや

:熟練度は上がるが、成功品はトントみない

:先輩ほど財産を湯水の如く使えないんや

:錬金術師はほとんど零細だからな


「なるほど」

「っていうか、先輩って素材を湯水の如く使ってると思われてるんですね」

「僕も驚いた。僕っていえば代用品使いであることはこれまで何度も発表してきたと思ってたんだけど」

「本当ですよねー」


<コメント>

:そこに至るまでの成功が……

:いや、これ俺たちが根本的に間違えてるのか?

:どう言うことだってばよ

:そもそも今までのレシピ通りにポーション作ってたけど、思い返せば何ヶ月も前から先輩は素材の代用品を発表してた

:あっ!


「え、今気がついたの? ここ最近レシピの発表をしてこなかったのは遅れのでてる後続が追いつくための期間だったのに。その時間を無駄に使ってたんだ。あーあ」

「本当にあーあ、ですよね」

「多分あれだ、うちの父さんが熟練度別の炸裂玉を欲してたから、そっちの需要を満たすべく動いてた錬金術師が多かったのかもね」

「あー、目先の小銭を拾っちゃいましたかー」


 成功率の低い、一切金にならない研究より、そこそこの難易度でそこそこの金になる炸裂玉。

 自転車操業の錬金術師にとって、どちらが魅力的かと言われたら後者だったのだ。


 僕だったら迷わず未知の情報に興味を示すが。

 皆が皆僕と同じ思考をしているわけではないと言うことだ。

 そこは完全にこちらのミスである。


 錬金術師なんてみんな研究大好きのマッドサイエンティストってどこかで思い込んでいた節があったが。

 そうか、僕だけかー。

 失敬失敬。


<コメント>

:先輩のお父さん?

:真栗ちゃんだっけ

:それが熟練度別のポーションを求めてた?

:そういえば最近エクストリームモードで暴れてるプレイヤーがいるって


「父さん、炸裂玉マイスターニキって呼ばれてるみたいだね」

「ご本人はただの検証班気分でいますけどね」


<コメント>

:あー

:日本詰んだ

:希望の星が先輩の身内か

:なんならりゅう族なんだっけ?

:アキラさんと同様に元人類らしいけどな


「なんの話?」

「なんでもお父様を囲って日本に『にゃん』を流通させようって話が持ち上がってるみたいで」

「へー、そこは本人次第じゃない? 一応うちの国民ではあるけど。父さんがそれでいいって言うんなら僕は何も言わないよ」


<コメント>

:ほっ

:日本の面目躍如きた!

:これで少しは遅れを取り戻せるか?


「でもあれですよね」

「何さ」

「今までずっと行方不明として処理されてたんですよね。なんならダンジョンの中で死亡してるぐらいに扱われてませんでした?」

「あー、そうだったね。結構初期のダンジョン被害の被災者らしいよ、うちの父さん。政府の政策の煽りを喰らって死亡扱いにされたって」

「当時は自衛隊もダンジョン攻略に難航してたらしいですね」

「今でこそSランクなんてものもいるのにね」

「法整備が整ってなかったですからねー」

「じゃあ、国に対して恨みも大きそうだ」

「私だったらキレる自信ありますよ」

「ワハハ、僕もだ」


<コメント>

:お

:流れ変わってきたな

:もしかしてこれ、日本の救世主になってくれない感じ?

:なんだったら日本に恨みを抱いてるまであるぞ


「実際にご本人に聞いてみよう。父さーん!」

「呼んだか? 息子よ」


 奥の部屋から僕のスペアボディを着込んだ父さんが現れる。

 年配の男性を意識してるのか、黒縁メガネと新聞紙を持って、らしからぬ格好をしているのが僕の父、槍込真栗その人である。


 僕との違いは女装を強制されていないこと。

 後輩曰く、他のスペアと区別をつけるためらしい。

 おかげで快適に過ごせているとよく報告をいただく。

 父さんばかりずるくない?


「なんでも今お父さんのプレイに日本政府が期待を寄せてるみたいでしてね」

「ふむ。今の僕は元日本人で、りゅう族のお嫁さんだからな。向こうは僕を日本人扱いしてくれるか今から怪しいものだが、どこまで信じていいと思う?」

「難しいですねー。お父様のボディは確保次第解剖一直線でしょうし」

「だろうね。そこの研究者が僕だったら間違いなくそうする」


<コメント>

:どう言うこと?


「前回僕がコアパパの元に向かう時に来ていたスペアボディあるでしょ?」

「大塚さんと同じりゅう族のですよね」

「うん、あれ。父さんの本体なんだ」


<コメント>

:えっ?

:は?

:はぁあああああああああ!?


「今は息子のスペアを借りている状態だな」

「で、そんな父さんが日本からの保護を受けるとして、本体の接収までするかどうか。匿うだけで本当に終わるのか。問題はそこにある」

「まず無理でしょうねぇ。日本国民以外の人種に対しては否定的な意見が多く上がっています。中ではインドの被災者に対してもダンジョンに閉じ込めておけと言う意見までありますから」


<コメント>

:あっ

:これは一部の過激派の責任ですね

:マスコミを自由にさせすぎた結果である

:国民を情報で操ろうとして完全に失敗してるわ

:国民も馬鹿じゃないので


「そう言うわけだけど、もしもエクストリームモードを本気でやったとして『にゃん』を獲得したら、そのなん割かを日本に融資するつもりはある?」

「そうだな。当然ただではないんだろう? 僕は今まで日本国に対して裏切られ続けてきた人間だ。はい、そうですかと首を縦に振ることは難しいよ」


<コメント>

:ですよね

:にゃんだけくれはあまりにも誠意がない

:かといってお金が欲しいわけでもないと

:謝罪も必要ない


「その通り。僕は特に暮らしに困っているわけではないからね。そして新通貨の『にゃん』を支給されてる立場である。なんなら持て余してると言っていい。なので向こうがどれほど過去を謝罪しようとも、僕にその気は一切ないよ」


<コメント>

:これ詰んだな


「どうして詰むのさ。普通にクリアしてランキングに載るだけでいいでしょ?」

「本当ですよねー」


<コメント>

:【ヒント】日本国でSランク探索者を保有していない

:ランキング以前に誰もクリアできていない


「草」

「秋生くんは普通に日本在住なのに、どうして頼らないんですかね?」


<コメント>

:え?

:あの子は先輩たちの身内ってわけじゃ?


「身内っていうか、まぁ知り合いではあるけど」

「どちらかといえば大塚くんの家族だから生きていくのに困ってるなら拾うつもりではいるよ」

「でも実際、普通に食べていく分には困ってなさそうなんですよね」

「なので僕たちは彼らを補助するつもりはないんだよ」


<コメント>

:これは日本にもチャンスが?


「そもそも日本には魔法少女が二人もいますし」

「秋生も魔法少女になってたし、その三人組に頼るのも手では?」

「ですねー。問題は彼らはおとなしく首を縦に振るかどうかですが」


 無理そう。

 特に冒険者なんて政府からの皺寄せで被害を被った第一人者だろうし。


「何はともあれ、ゲームで無理なら高品質ポーションを作るのが手っ取り早いのは確かだよ」

「アカリちゃんからは結構持ち込みがあるとご報告いただいてますねー。結構にゃんも捌いてそこを着きそうだとうれしい悲鳴が」

「日本からの提供は?」

「0件です」

「もっと頑張れ、お前ら! 炸裂玉で小銭稼ぎしてる場合じゃないぞ!」

「でも、そんな暗い未来を明るくするのがー?」

「代用品の時間だー! 今日は高級ポーションの素材を全部家庭にあるもので代用していく企画を急遽用意した! これでお前らも無理なく羽ばたける!」


 本当は難易度130の上級融合窯の発表をしたかったが、無理をして後続が諦めるては本末転倒!

 なんだかんだ日本がこのまま潰えていく姿は見たくない。


 たった数年でも、生まれ育った故郷の姿は残したいものである。



 と、メインの配信を終えてのんびりしていたところに、りゅう族のナワバリに出向いていた僕のスペアから連絡が入ってきた。


「まずい! 毒霧のオービルが襲撃をかけてきた」

「な、なんだって〜!?」


 よもや終わったと思っていた地下イベントに新たな戦争の火種が降って湧こうとは、この時の僕も思いもしなかった。


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