地下の僕が攫われておおよそ2日後、地下の方で進展があった。
殺すために誘拐したのではなく、どうやら自陣の巫女育成のためのコーチとして囚われたらしい。
なお、母さんやミザリーさんからの連絡でコアパパは相当キレてる模様。
そりゃあ、なんの連絡もなしに自分のお気に入りを借りたら怒るに決まってる。
全面戦争まっしぐらだろう。
とはいえ、特に虐待されてる感じでもなく、客人としての扱いなのでそこまで心配しないでほしいとも言っていた。
このお互いに通じ合ってない感じ。
りゅう族だなぁ。
連絡手段でもあれば変わるんだろうか?
あとで大塚君を通じて交渉してみるか。
無理そうな予感もするけど。
『で、ダンスのコーチといってもどんな感じ? あのがむしゃらの踊りをただ真似したところで僕らの愛嬌までは真似できなくない?』
『いや、それが向こうも可愛い子揃いなんだよ。巫女というのは可愛らしさも兼ねてなきゃいけないのか、僕もうかうかしてらんないんだよね』
それは確かに強敵だ。
僕の可愛さが通じないだと?
完全に油断してたぜ。
『なんだったら僕に卵を産ませてその子を自陣の巫女にするっていう計画まで立てていて』
『コアパパ激怒案件じゃん』
『そこなんだよ。それをしちゃうと僕の方の立場も危うくてさ。まぁその巫女には生贄として精神を保護、スペアボディを提供したんだけど。ほら、この前送った素体あるじゃない? あれで複製作って彼女たちに返してあげたいんだ』
『そういうのはもっと早くいいなよ。全部研究に使っちゃったよ』
当然、後輩とにゃんにゃんしてた僕は参加してないが、研究バカの僕のスペアはこぞってその血肉を研究に扱うだろう。
ワニやピラニアの住んでる川に、血の滴る生肉を投げ込んだらそうなるって。バカでもわかるよね?
『知ってた。まぁね、そんなわけで彼女たちの生態系やデータを送るから、それらしいスペア作って送って欲しいんだ。そんで、卵を産むのは彼女たちがある程度育ってからという感じに話を持っていけた』
『ならさ、今度添い寝杯を開催させるからそれに参加させたら?』
あれから後輩は無事出産。
まだ卵の状態だが、連続で6個も産んだから、1匹は孵ってくれるだろう。普通は初産でそこまでしたらぶっ倒れてもおかしくないけど、僕の愛を語る時の彼女のタフネスを舐めていたね。
翌日普通に添い寝してきた時は化け物かと恐怖したよ。
そんなわけで、僕との添い寝が一般にゃん族たちにも解放されたのでね。参加を予定しているわけだ。
『変に思われないかな?』
『僕と添い寝して卵産みたい人はたくさんいる。話はそれに勝ってからという感じで見せ物にする。ついでにオービル陣営の手の内も明かさせる。どう?』
『圧勝されたら、僕が卵産まなきゃいけないんだけど?』
『どんまい、骨は拾ってあげるよ』
『くそーーーー!』
先日の返事をそっくりそのまま返してやった。
他人の不幸は蜜の味というが、案外本人同士でも似たような感情が生まれるもんだな。
研究班には「この前送ったデータでそれっぽいスペア作っといて」と連絡を入れ、ついでに後輩へ「第二回添い寝杯の準備を進めるよう」に提案する。
「え、第二回ですか? 私の第一子がまだ孵ってませんが?」
「わかってる。だから企画の準備だよ。どうも地下の方でも進展があってね。敵陣の巫女の精神を分裂させて肉体を奪ったまではいいんだけど、どうも研究班の方にその情報が伝達されてなくてだね。本体同様のスペックのスペアを用意できてないらしいんだ」
「あらー」
「飢えた獣に生肉与えちゃった感じですね」と的確な表現をする後輩。
研究に飢えてる錬金術師に素材を与えるってことはそういうことなのだ。
なまじ倒れても代わりの僕がいるもんだから限界まで無理をするんだよね。
全員が全員、そういう思考なもんだから、たまにケアするべく後輩が攫って全身隈なくケアしている。
その時に思いっきりうなじの匂いを嗅がれるのだけが僕たち共通のトラウマか。
添い寝の時は全身揉みくちゃにされるので、ケア班の受難はまだまだ楽な方なのだが。
「そんな訳で添い寝杯だ。期日は君次第でいいよ。ただし、参加メンバーは一般人には遠慮願う感じで。地下勢力の力比べが主体だからね。りゅう族が全力で暴れたらどれくらい危険なのかの調査も兼ねてるから」
「以前までのお祭り的な力比べではないと?」
「私兵同士のぶつかり合いだと捉えてくれていいかも。母さんや大塚くんの方からも掛け合って、りゅう族からの戦士も何体かピックアップさせる予定」
りゅう族・コア
VS
りゅう族・オービル
VS
にゃんにゃん王国という構図だ。
それぞれの戦士が全力で戦い、どこまで相手に本気を出させるかが主体だね。
「防壁、大丈夫ですか?」
「そのためにスペアを用意させ、場所はVRなんだよ。スペア状態では試合会場以外で本気は出せないようにしておく。もしVR空間が気に入ったんなら、いつでも客人として迎え入れるよ。りゅう族と盟友になれば地上の連中から舐められなくなるしね。そして同じりゅう族同士で啀み合いも減れば万々歳さ」
「そこまでうまくいきますかね?」
「そればかりは始めて見なければわからないよ。なので企画を詰めようぜ。僕たちにゃんにゃん王国の明るい未来のために」
「はい!」
話ににゃんにゃん王国、そして僕との平穏を出せば後輩は簡単に頷く。
その結果、結構な無理難題にストレスが加速して、僕のうなじを吸い込む行為が加速度的に増加。
これが癒しなんだというんだから難儀だよなぁ。
生まれてきた子供が真似しなきゃいいけど。
難しいな。なんせ後輩の子だもん。
どっちの特性を持って生まれるかなんて火を見るより明らかだ。卵ってのは大きく母体の願望が含まれるからな。
なんせ6個産んだうちの3個が黄金色に輝いていたから。
相当な確率だって大塚くんから聞いてたのに、どれだけ願望詰めたらこんなに高頻度で生まれるんだって感じ。
なお、三人とも可愛い男の子で、僕に顔つきがそっくり。
もう三人も後輩よりの可愛さをキープして無事産まれた。
一週間足らずで全員が無事産まれたのは込めた願望のデカさからか。
「あなたたち、紹介しなさい」
「あい! 初めまちて、おとーたん。僕は
僕そっくりの子供がそう叫ぶ。同じタイミングで生まれたから六つ子ということになるのか。
感慨深いな。
「あたちは
こっちがお姉ちゃんか。ちょっとメスガキっぽい感っじがリコに似てるな。恐るべきはその血筋か。
「うちは
このエセ関西弁を操るのが次女か。
なんというか、この年でキャラ付けしてるとは恐るべし。
「オレは
ここにきて新たなキャラ付けが発展。
すごい! まだ子育てしてないのにもうグレてる!
一体どんな環境で生まれたらこんなキャラができるっていうんだい?
しかもこの格好で女の子と来た。
男の子の方がまだまともな気がするのは気のせいか?
それとも後にとんでもないのが控えている?
生唾を飲み込み、続く紹介を待った。
「ぐわははは! 我は最強の王族!
すごいの来ちゃった。
これ、絶対産まれた時は普通の子だったよね?
名前じゃない?
名前を与えた結果こうなったとかじゃない?
神とか輝くとか入れちゃうからだよ、きっと。
「最後に私ですか。私は
よかったぁ! 最後のはまともだ。
本当に良かった!
仲良くできるのは光輝と聖弥だけだけど、なんとかコミュニケーションは取れるな。
「なら僕からも紹介しよう。お母さんの方からはなんて言われてるかはわからないが、僕は聖。槍込聖。君たちのお父さんにして、一国一城の主。にゃん族にしてりゅう族。地上と地下の均衡を憂うもの。極め付けは重度の錬金術オタクといったところかな? 今君たちが生まれたこの環境全てが僕の研究の賜物だ。君たち程度の力で壊せるとは思わない方がいい。それと、お父さんは全部で十一人いる!!」
「すごーい」
「お母さん、本当なの?」
「ほんまかいな」
「まじか、オヤジ。とんでもねぇな」
「貴様、我の父として相応しい素養を持っているようだな。狩るのは最後にしてやる」
「ここにある全てがお父様の研究成果ですか。興味深いです。いえ、これを乗り越えてこそ私の真価が問われるのですね」
くくく、驚いてる驚いてる。
性格はアレだけど、見た目は普通に僕と後輩のいいとこ取りをしたハイブリッドだからね。
可愛いの集大成なんだよ。
「お父さんはすごいのよ。失礼の無い様にね?」
「一番失礼を働いているのはお母さんだから気にしなくていいよ?」
「ちょ、お父さん! それは言わない約束です!」
子供達の前では、先輩、後輩の呼び方を止める。
育児以前に勝手に育ってる感じはあるけど、まぁ教育期間中はね。
そんなこんなで、うちは一気に賑やかになった。
暴れん坊の怪獣が一気に六人だ。
そんな噂を聞きつけた、僕の子供を欲してやまない飢えた獣が次々とエントリー。
まだ企画段階だというのに、にゃんにゃん王国主催、第二回添い寝杯のニャン族川エントリーシートは満員御礼となった。
そりゃ一気に六人も子供を持てばな。
自分もそれぐらい持っていいんだと勘違いさせてしまうか。