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130 最終決戦の壱


 怪我の治療が終わり、わしはモニターの類が並ぶテントへと向かう。

 鬼ジジイの大きな背中がモニターやその他機器類の並ぶテーブルの中央に見え、そこに近づいた。

 しかしながら鬼ジジイとの距離が2メートルほどになったとき、背後に頼光殿の気配を感じた。

 ふり返って見てみれば、頼光殿が意識朦朧としながらこちらに向かって歩いてきておった。


「あれ? 寝てるはずじゃ?」

「えぇ、めっちゃ眠いです。急にすさまじい眠気が……やはり緊張の糸が途切れるとこの様なのでしょうかね。私もまだまだ甘い……」


 あっ、それ睡眠薬の効果じゃ。すまん。

 というか寝ろよ。なんで起きてられんのじゃ?


「うぅ……ふらふらするぅ……」


 そういいながら頼光殿は本当にふらふらし始めたので、わしは慌ててその体を支える。

 今の時間帯、こちらの主力はほとんど睡眠へと入っておる。

 とはいえわしと吉継は昨夜移動中の飛行機の中で睡眠をたっぷりととれたので、まだまだ意識ははっきり。

 唯一、この鬼ジジイと島津の兵じゃな。戦闘開始当初からずっと覚醒状態を余儀なくされ、今も秒単位の指示を行き来させておる。


 そこらへんが心配だったのでわしも鬼ジジイに協力できることがあればと思ったんだけど、頼光殿も鬼ジジイに用事があったようじゃ。


「眠いですが……島津義弘に挨拶をと」


 お、おう。それは感心じゃ。

 んで2人でゆっくり足を進め、指示を出しておる鬼ジジイの元へ。


「鬼ジジイ? ちょっといいか?」

「おう。もやし狐と、源頼光か? 少し待て。あと2、3分程度な。こいつらを国道に誘導すれば、そのあとはしばらく手が空く」

「うむ、わかった」


 わしが短く答え、鬼ジジイは再度マイクへ向かって話し始めた。


「よし、そのまま国道3号を行かせろ。この後は北九州市を経て、関門橋まで一本道。後ろからしつこく追いつつ、でも深追いはせず。

 おっと、張飛に苛立ちの気配ありだな。少し下がれ。50メートルほど後ろにコンビニがあるだろ? その中に入って待機だ。一度武威も収めろよ。

 もう直接戦闘する必要はない。距離をあけて追跡の気配を相手に伝えるだけでいい」


 うーむ。わしが言うのもなんだけど、映像を見ながら出す鬼ジジイの指示がなかなかに細かい。

 てっきり豪快な武将の印象が強い鬼ジジイだけど、先ほどの疲弊した配下たちへの配慮といい、前線の兵に対する安全で細かい指示といい、やはりこういうところの関係性が島津兵の強さなのかもしれん。

 などと感心しておったらその2~3分が経ち、鬼ジジイが一息ついた感じで「ふーぅ」と息を吐きながらふり返った。


「源頼光は、寝ておかなくて大丈夫なのか?」

「あぁ、すぐに仮眠をとる。とるが……その前に……あなた、に……挨拶を、しておこうと……思ってな」

「ふっ、今にも寝入りそうな状態なのに。意外と礼儀正しい男だな」


 そして鬼ジジイが立ち上がる。


「この国の……西の、う、海の……安全を!」


 頼光殿が手を差し出し、それを鬼ジジイが握り返した。


「あぁ、こちらとしても嬉しい話だ。非常に助かるぞ。是非とも力を合わせて!」


 頼光殿と鬼ジジイが熱い握手を交わす。

 なんかわしだけ除け者になっておるんだけど、いや、鬼ジジイよ。あと頼光殿よ。

 その話、先に提案したのわしな? そこんところ忘れんなよ。


 あとなんか暑っ苦しい。いや、いいんだけどさ。

 よく考えたらこの2人、意外と馬が合うのかもしれんな。

 まぁ、わしとしては海上保安庁と島津勢力が仲良く西の海についての連携を強固にし、そのおこぼれを貰い受けることができればいいんじゃが。


 でもそれは少し後の話として、やはりこの戦いを皆が無事に生き抜かねばならん。

 などと考えつつ心の中でさらに意志を固めておったら、目の前で頼光殿が握手をしたまま、眠りに入ってしまった。


「……ん? おい、もやし狐。この男、立ちながら寝てしまったぞ?」


 マジか。どれだけがんばってここまで来たんじゃ? しかも、義理堅いにもほどがあろう?

 んでわしが再度慌てて頼光殿の体を支えておると、綱殿たち4人の部下が姿を現した。


「あぁ、ここにおられたのですか。探しましたよ、ボス……って立ちながら寝てる?」

「うむ、今さっき寝入ったところじゃ。んで、わし支えておるけど、わしも両腕がなかなか自由に……すまんが頼光殿の体を頼む」

「わかりました。んじゃボスのお体をお預かりします」

「うむ。仮眠用のテントに運んでくれ。おぬしたちもゆっくり休んで」

「はい。ではお言葉に甘えて」


 わしは頼光殿の体を綱殿たちに預け、それを綱殿と坂田殿が仮眠用のテントへと運んで行った。

 ふう。とりあえずは結果オーライじゃ。


 もちろん戦いはまだまだ続く。

 なんかやはりこの時間帯が主力の抜けた戦力の穴になっておるような気もするけど、吉継がまだ元気に趙雲たちの後を追っておるし、何かあったらまたわしが前線に戻ればいいだけ。

 加えて早めに戦線離脱をした者たちもそろそろ起き始めるじゃろうし、敵も疲労の色が見え始め、それでもなんとか北北東の方へ逃げている感じでもあるので、今はそこまで大きな戦力はいらん。


 唯一の気がかりは目の前の鬼ジジイ。

 というかわしもちゃっかり鬼ジジイの隣の椅子に座っておったので、その横顔を見ることができるんだけど、眠そうな眼と、それを手でこすったりあくびをしたりとせわしない。

 やはりそろそろこやつにも限界が来ておるようじゃな。


 さて、どうしようか。

 わしが指揮官の役を代わってもいいが、これはやはり島津の十八番(おはこ)ともいえる偽装撤退戦。

 わし自身そんな特殊な戦術など得意でもないし、一度鬼ジジイ率いる島津勢にこれを頼んだ以上、そう簡単に「代わってやる」などと言っていい場面でもない。


「うーん」


 モニターを見ながら――そして腕を組みながらそんなことを考えておったら、ここで寝起きっぽい卜部殿と碓井殿がわしの背後に立っておることに気付いた。


「それで、三成さん?」

「おわッ! ん? 卜部殿と碓井殿!? そこにおったのか?」


「えぇ、ずっといましたけど? それでさっきのあの銃撃事件……一体どういう事情で? 詳しく話してもらいたいのですが?」


 職質か! いや、むしろ取り調べか!


 というかしくじった! わしがさっき発砲した件、それはもちろんドローンによる空撮映像にてここの皆には筒抜けじゃ。

 だけど、てっきりわしらの戦線加入前に戦線離脱しておったと思われるこの2人はすでに寝ておるだろうし、綱殿や坂田殿は戦場からこの前線基地に移動中だと思っておった!

 でもこの2人、意外と早く起きていて、しかもわしが拳銃を発砲したあの映像を見ておったようじゃ!


 それゆえの尋問! めっちゃ疑っておる!


「ボスからもそんな話は聞いてません。我々に隠して、いつの間にあのような武器を?」


 だ・け・ど・じゃ!

 そもそもわしら転生者はこれまで幾多の戦いに身を投じ、何十人という敵を殺してきた。

 それはわしもこやつらも同じじゃろう。その際に刀剣の類を用いるのももはや常識のため、銃刀法違反も含めていまさら問われる筋合いなどない。

 ゆえにこの時問うてきたのは今さらながらの拳銃不法所持と発砲事件などではなく、とてつもない威力を持ったわしの拳銃に対する純粋な好奇心……? のはずじゃ! 多分!


「……」


 なのでわしはうろたえることなく、卜部殿の顔を見返す。

 いや、ここでおろおろと慌てふためいたらむしろ面白いことになりそうとも思ったけど、隣で鬼ジジイがマイクに向かってひっきりなしに指示を出しておる。

 なのでふざけるのはやめておこう。


「ふっ。わしの隠し玉、とでも言おうか? いざという時のため、秘密の1つや2つ持っておいてもよかろう?」


 もちろんわしは頼光殿の部下ではない。割とマジで仲いいけど、戦闘に関してわしの手の内を全て報告する義務などない。

 それを暗に匂わせつつの返事であったが、卜部殿の意図は違うところにあった。


「いえ、そうじゃなくて……」

「ん?」

「いい攻撃手段をお持ちで……それ、今度我々に教えていただけませんか?」


 そっちかい!


「もちろんボスや綱たちには内緒で。それさえあれば、私たちの攻撃力もあの2人に引けを取らなくなるかと? 三成さん? 是非ともお願いです」


 さらには碓井殿まで。巨乳だけにここぞとばかりに胸を強調してきやがったけど、そんなことわしの妻にバレたら殺されるぞ?

 いや、まぁ、教えるのは別にいいんだけどさ。


 そもそもわしは綱殿にスタッドレス武威を教えておる。

 そして坂田殿は言わずもがな金太郎伝説にふさわしい破壊的な攻撃力の持ち主じゃ。


 対してこの2人はそういった武力の点において、若干劣るような気もしていた。

 まぁ、卜部殿はパソコンやネットゲームについてわしの師匠のようなものじゃし……この2人はどちらかというと戦闘力というよりは、諜報員としての能力の方が高い気もする。

 それゆえ……だからこその打診じゃ。


 うーん、それならば……まぁいいか。


「あぁ、よかろう。お互いこの戦いを無事に乗り越えられることができたらな。

 でもこの技術は相当な鍛錬が必要じゃ。1年、2年で習得できるとは思わんことじゃな。

 あと、この件は……そうじゃな。あの3人には内緒で。むしろ今も戦場におる出雲の兵たちにも他言無用を指示しておいてくれ」

「えぇ、もちろん! 我々だけの秘密ということで!」


 売人系の卜部殿が珍しく元気のよい返事をしてくるのは、本当に珍しいな。

 まるで何かの“クスリ”をやった直後のような……いや、やめておこう。


「ありがとうございます! ではぜひ!」

「うむ。詳細は後で詰めようぞ。でもその前に……こっちが重要じゃ。わしはもう少しここで見ておるゆえ、2人はしばらく休んでてくれ」


 最後に碓井殿も嬉しそうな笑顔を見せてくれたので――しかも2人はこの件を口外しないと約束してくれたので問題なし。

 2人が離れていくのを軽く見送り、わしは視線を目の前のモニターに戻す。

 高度およそ200メートルのドローン数台から送られてくる空撮映像には、趙雲たち3人の姿とそれを追跡する味方の兵も確認できる。

 そして先ほど鬼ジジイが指示したように、戦闘の気配はない。



「鬼ジジイ? とりあえずはこのまま現状維持といったところか? なにはともあれここまでご苦労じゃった」

「まぁ、その言葉は島津の兵どもに伝えてやれ。ところでもやし狐?」

「ん? なんじゃ?」

「敵が本州に移った後、この基地はどうするつもりだ? いつまでもここから指示と増援をするわけにはいかんだろう?」

「あぁ、そうじゃな。敵が関門橋を渡った後はここの基地機能を船に移そうと思っておる。山陰地方を東へ移動する敵――それを日本海側から船で並行するように監視すればいいじゃろう」

「そうか、なるほどな。じゃあ船の手配は?」

「うむ、それはこの後じゃな。利家殿にお願いして海上自衛隊の船を数隻出してもらう予定じゃ」

「わかった。敵が北九州市を抜けたあたりでこちらも移動の準備を始めるとしよう」

「それはわしがやっておく。それまで頑張ってくれ」

「わかった。この移動速度だと……関羽たちが関門橋まで行くのに1~2時間といったところか。まぁ、それぐらいならわしの体も大丈夫だ」


 んで2人そろって再度それぞれの椅子の背もたれにもたれかかる。

 ふと手元のテーブルを見てみれば、鬼ジジイの前にはアルコールの類が並んでおる。

 缶ビールにぽん酒。それらが数本、テーブルの上に置いてあるのじゃ。

 こやつ、もしかして酒飲みながら作戦の指揮をしておるのか?


 ……と諫めたくなるのが、現代の社会における常識。

 だけどな、かつての時代は戦場で酒を飲むことなど至極当然。

 前線で戦う兵にいたっては、死に対する恐怖に打ち勝つため。または負傷した時にその痛みの感覚を鈍らせるため。

 勝利を祝う盃を飲み干す儀式めいたこともやるし、この鬼ジジイに関しては酒豪にもほどがあるため、今現在の飲酒について咎めるつもりなどない。


「ふーぅ、わしも一本貰っていいか?」


 というか、わしも飲みたい!

 一仕事終えたんじゃ。ここで美味しい一杯をぐびっといきたいのが男の習性(サガ)であろう!


 だけどじゃ。


「ん? 別に構わんが、これ、ノンアルコールだぞ?」


 おい! 嘘じゃろ!? むしろそこはがんがん飲んでいろよ! 島津義弘の名が泣くぞ!?


「ま、マジか……」

「というか、貴様。もう20歳は過ぎたのか?」

「あぁ、ついこの間な……いや、そうじゃなくて、おぬしがまさかノンアルコールって……?」

「仕方なかろう? 今は流石に……下手に眠気を促すようなことをしてはまずい。それにしても……貴様もついに20歳になったかぁ。

 ついこの間、渋谷のスクランブル交差点で再開した時はただのガキだった貴様が……」


 そしてなぜか親戚のおじちゃんのようなことを言い出す鬼ジジイ。

 ちっ、ちょっと面白い雰囲気やんけ。

 でも一度飲みたいと思うと、その欲求を止められなくなるのも酒好きの悪いところじゃ。

 主にわしが、な。


「うーん、北条さんとこの氏政殿……搬入してくれた物資の中に酒などないじゃろうか?」

「なんで貴様がそんなに飲みたがるんだよ! あれか? 両腕の傷、そんなに痛むのか? だったらこんなところにいないで、しっかり治療してもらってこい!」

「いや、両腕は傷口の縫合もしてもらったし、痛み止めも打ってもらっておる。だから大丈夫じゃ。

 だけど……なんかここは飲みたい気分じゃな。おぬしと……」

「ふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。でもまぁ、今は我慢しておけ。部下の目もある。

 それに……そうだな。この戦いがひと段落したら飲むか? 大阪城あたりで?」

「ふっ、昔みたいに……か? それも楽しそうじゃな。あの頃は宴の途中から、よく遊びで殴り合いの喧嘩したな。殿下は笑っておられたけど、周りがめっちゃ止めに入ってきて……あれは楽しかった。またやるか?」

「やめろやめろ。年寄りは労われ。それに現世でも武威を鍛えた貴様には、もはや勝てる気がしない」

「おぉ、まさか島津義弘自ら敗北宣言など聞くことができようとは!」


 ちなみにこの会話を世間では死亡フラグという。

 でもそんな縁起の悪い予兆など、幾度となく跳ね返してしぶとく生き残ったのが、わしらという豊臣家の武将じゃ。

 唯一の心残り……この鬼ジジイ、ノンアルコールビールなど飲みやがって、そういうところはちゃっかり現代の風習に順応してやがる。

 ならば仕方あるまい。世間話もこれぐらいにして、吉継たちの追跡部隊のサポートをせねば……


 と思ったら、次の来客じゃ。


「もやし狐? それより後ろのやつらに追跡部隊を編成してもらえ。もっておよそ1時間といったところか? こちらの兵もだいぶ疲れが見えてきた。

 そろそろあいつらも限界だし、そうなると新たに出せるわしの兵はもうなくなる。

 逆に後ろの2勢力はまだ最後の戦力が余っているようだからな」

「うむ、そうじゃな。頼んでみるわ」


 もちろんわしの武威センサーにも背後の方から近寄ってくる2つの集団を補足しておる。

 武田勢の頭領たる信玄公、そして上杉勢の頭領たる謙信公。

 武田二十四将のうち前線に出ておらん待機組を数名従え、謙信公の隣には虎之助殿も一緒じゃ。


 そしてあと1人、仏頂面でわしに軽く手を挙げたのがそう、謙信公の跡継ぎたる景勝殿じゃ。

 前世の面影いと多し。そして何を隠そうこの御方は関ヶ原の戦いの時にわしと連携して徳川をつぶそうとしてくれた有力大名のうちの1人じゃ。

 景勝殿や謙信公には鎌倉の源氏との観光業協定に関連して、ここ数年ちょいちょい会ってはおったものの、そこに上杉景虎たる虎之助殿も一緒となるとなかなかに珍しい。この2人、謙信公亡き後の跡目相続でめっちゃ争ったからな。

 でもこの一大事ともなると、そんなことも言っておれんのじゃろう。


「お久しぶりですね。三成さん」


 まずは50を過ぎてなお若々しい美貌を備える謙信殿。

 声色や口調も穏やかでありつつ、しかしながらこの戦場にふさわしい凛とした気配も放っておる。


 対して齢70を過ぎ、しかしながら眼光鋭い感じは今も健在な老人が信玄公じゃ。

 まぁ、こちらも相・甲・駿の三国同盟に関連して結構会っておるし、信玄公、そしてその脇に立つ勝頼公が軽く手を上げたので、わしも軽く会釈しておく。


「えぇ、お久しぶりにございます。謙信公と信玄公。この度は多大なご助力、誠に感謝申し上げます」

「そう言うな。これはこの国の一大事。各々連携を密にして、しっかりと対応せねばならん」


 ちなみに信玄公は初めて会ったときのオドオドした態度は出しておらん。

 あれはただの演技だったし、その後わしと何度も会っておるゆえ、そんな演技をする必要もないんのじゃ。


 それにしてもわしとしてはやはりこの2人――そしてさらには景勝殿や勝頼殿、虎之助殿が揃っておるとなると壮観な印象を受けてしまうな。

 いや……織田方、そして豊臣家の重臣として天下を統べたわしや鬼ジジイも、相手からすればそれなりの威厳を持っておるはずなんだけどさ。

 まぁ、ここはあくまで対等に。信玄公自らそれを示唆するようなことを言ってくださったのじゃ。

 やはりわしも変な委縮など見せずに挨拶を。


 と思ったけど、相・甲・駿のことを思い出したら、後北条家のことも思い出してしまったわ。


「氏直? 今、手ぇ離せるか?」


 わしが先ほどまで座っていた椅子の隣におる鬼ジジイ。そのさらに向こう側でノートパソコンの通信管理アプリとにらめっこしておった氏直。

 数年前に他界した氏康殿の後を継ぐ感じで、今は氏政殿が後北条勢力を束ねてはおるが、その戦力は10年程前に起きた源氏との戦いによって大幅に弱体化。今は陰陽師の鴨川殿のグループが率いる転生者誕生促進チームにて重点的に戦力を補強しており、若き転生者が育っておる最中じゃ。

 んでおそらくそこらへんをよく知っておる吉継による配慮なんだろうけど、後北条家は戦力として考えずに、この基地における治療や物資の入手的な役割をこなしてくれておる。

 それゆえ氏政殿はここにはおらんのだけど、一応その跡目となる氏直も参加させた方がよかろう。


「すみません。今、前田総理大臣とチャットで打ち合わせ中です。自衛隊の船についてどの艦艇をどれぐらいの規模で出すか、話を詰めないと……」


 だけど氏直は先ほどのわしと鬼ジジイの会話を聞きながら、すでに首相官邸とやり取りを始めておったらしい。

 しかも電話などをしてしまうと隣におる鬼ジジイのマイクに声を混ぜてしまうので、それに配慮しつつのチャット。


「あっ、そうなのか? ならそっちを優先してくれ」


 てゆうかめっちゃ有能じゃ。有能過ぎて最近若干怖いんだけど、まぁそれもいいとして。


「というわけで北条は抜きになりますが、御二方には重ね重ね感謝を」


 そしてわしはまたぺこりと頭を下げる。

 対する2勢力の面々も改めて頭を下げ、さらに少し距離を詰めた。

 んで早速の依頼じゃ。


「ちょうど今さっき、そこにおる島津家次男、島津義弘と話をしておったのですが、実のところ、島津兵による追跡部隊の編成が困難になっておりまして。御二方の方から残りの戦力にて追跡部隊を編成してほしいと思っております。どうでしょうか?」


 わしの問いに、まず二つ返事で反応してくれたのが謙信公。


「わかりました。それでは……景勝? 行けますか?」

「はっ。いつでも」


 んでそれに対抗するように信玄公も。


「ならこちらは勝頼? 行ってこい」

「はい、すぐに編成を」


 ふっふっふ、信玄公よ。対抗意識が見え見えじゃ。

 しかもそれぞれが跡継ぎたる2人を指名してくださった。

 上杉マニアのわしとしても、景勝殿と勝頼殿の連携はアツい!

 実はこの2人、先代亡き後それぞれの家が抱えた諸事情によって“甲越同盟”なる軍事同盟を結んでおるのじゃ!


 武田と上杉……その同盟が……今ここで……再び……


 はぁはぁはぁ……ヤバい。興奮が……


「落ち着け、三成殿……」


 くっ、息を乱して興奮しておることを景勝殿に見破られてしもうたわ。

 わしも頼光殿のこと悪く言えないな。


 だけどこれはやはり見逃せない一大イベント。

 さすればわしもその追跡部隊に加わり、令和の甲越同盟なる軍事作戦の一翼を……!


「鬼ジジイ? わしも行っていいか?」

「なんでだ! 両腕怪我してて、それをぶら下げてる状態でいくんか? 貴様はここに残ってろ!」


 そしてめっちゃ怒られた。

 ぐぬぅ……ならば諦めるしかあるまい。今も元気な吉継は引き続き追跡部隊に残るんだろうけど……くっそ。うらやましい……。


 でもまぁ、この空撮映像からでも記念すべきその映像は確認できる。

 あとでこっそり録画状態にして、わし自らそれを壮大なドキュメンタリー動画に仕上げてやろうぞ。


「くっくっく……」


 んでそんなわしの思惑に唯一気付いた人物。わしが上杉マニアだと知っておる人物――そう、虎之助殿じゃ。


「三成さん? 今はそんなこと考えてる場合じゃないでしょう?」

「ぐっ、そうじゃった。わかった。わし、諦める……」


 虎之助殿がわしの肩にぽんって手を置き、これにてわしの計画は破綻じゃ。

 いや、戦いはまだまだ続く。

 いずれどこかで似たような状況が生まれるかもしれん。


 なのでわしは気を取り直し、上杉勢と武田勢がにわかに始めた部隊の編成話に混ざり込む。

 およそ5分の話し合いの後、それぞれの勢力から計12名、4人ごとの小隊に吉継、勝頼殿、そして景勝殿を小隊長とした部隊編成が出来上がった。


「吉継のガキよ。今から武田と上杉の兵がそちらに行く。到着し次第、代わりにそちらの島津兵を戻してやってくれ。

 その後、3交代制でじっくり背後から敵を威嚇するぞ!」

「ほう、上杉と武田……さてはそろそろ勝頼殿とか景勝殿が出てくるのじゃな?」

「あぁ、そうだ。相変わらず勘の鋭いガキだな。その2人と貴様で各小隊の小隊長をしろ」

「あいわかった。それにしてもそれはなかなかに面白い。三成は? あやつは絶対その話に乗ろうとしたじゃろ?」

「したけど、わしが止めておいた。今、なにやら隣でノートパソコンをいじり始めている」

「ふっ。じゃあ三成に伝えておいてくれ。ドンマイって! 『Don’t mind!』じゃ!」


「うるっせぇぞ、吉継! 聞こえてるわ! あと、わかってるわ! それと最後の一言はいらんッ!」


 吉継もわしの想いに気づいて、しかもそれを知ったうえで挑発してきやがったのでわしは思わず怒鳴り叫んだ。

 その様子に驚いた謙信公が少し怯えながらもわしの頭を優しく撫でてくれたので、それもそれで貴重な経験なのかもしれん……。


 しれんけど――それはそれ。


 わしはおもむろにノートパソコンのモニターに表示された『Rec』ボタンをクリックした。




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