「………………!」
コレットがナシャータに指を指して、口をパクパクさせてる。
まぁ急にナシャータが出てきたら、びっくりしてそうなるか。
「コレット、落ち着くんだ。息を整えろ」
「――っ……ふぅ~はぁ~……」
グレイの奴はやっぱり全然動じてないな。
俺の知っているグレイとイメージが合わんなー。
「あ~……なんじゃ。昨日ぶりじゃな、あははは……」
何のんきに挨拶をしているんだか。
今はそんな事なんていいから、早く手紙をグレイに!
「そうだな、俺は会いたくはなかっがな。で? その鼻につけている洗濯ばさみはなんだ?」
「これには色々と、ふっかいふっかい訳があるのじゃよ……」
ナシャータが一つ星の奴をすごい睨んでる。
「? 何か俺を見てるような気がするっス」
「……ああ……そういう事か……」
「……あ~……なるほど……」
「……ですな……」
「え? え?」
当の本人は分かっていないようだが、周りは理解したようだ。
「まぁそんな事よりも、ふぅー……っ俺が時間を稼ぐ、お前たちは今すぐ脱出を!」
「っはい!」
『あっ! まずい!』
コレット達に脱出されると、色々と取り返しのつかない事になってしまう!
『ナシャータ! コレット達を止めろ!』
「え? ……あっ! お主等、ちょっと待つのじゃ!」
「おっと、お前の相手は俺だ!」
おい、グレイ! そんな格好をつけなくていいよ!
頼むから邪魔しないでくれ!
「転送石――」
『阻止しろおおお――』
「――っ! グラビティーフィールド!」
「――起どっ、きゃっ!?」
『――おおっ、ぐへっ!?』
なっなんだ? 急に体が重くなって、地面にたたきつけられたぞ。
この中で唯一立っているのはナシャータのみだ。
『……ぐぐぐ! 駄目だ……全く、動けん……!』
「……はう~……ごしゅじん……さま……」
「……なっ……なんだ、こりゃ……」
「……体が……重い……」
「……動け……ないっ……ス」
「……です……な……」
「うぐぐぐ……周辺の……重力を……重く……したのじゃ……これは……範囲、魔法じゃから……わしにも……被害が出る……じゃから……これは使いたく……なかった……のじゃがな……」
お前も対象になるのかよ、自分にも効果が出る魔法って使い勝手が悪すぎる。
だが、この中をゆっくりといえ歩くとは、さすがというべきか。
「……ほれ……お前は、これを……小娘には……こっちじゃ……」
ナシャータがグレイへの手紙と、コレットへの手紙を2人の前に置いた。
これで一応渡せたと判断していいのだろうか。
「……紙……だと? ……くっ……つか……何で、俺は……1枚だけ、なんだよ……」
だってグレイに対して、そこまで書く事がなかったんだもん。
今の俺の現状をさらさらっと書いただけだからな。
「……そんなのは……知らんのじゃ……とにかく……読むのじゃ……」
「……こんな……状況で……読めって……か? ……無茶を……言いやがる…………ああ? ……えっ? ……まじかよ……!? ……おい! ……早く、これをとけ! ……ちゃんと……見せろ!!」
「……逃げぬの、なら……」
「……逃げねぇよ……! ……だから、早くしろ……!」
おお、とりあえずは引き止める事には成功したようだ。
「……わかったのじゃ……解除っと、ふぃ~やれやれなのじゃ」
『――っ体が軽くなった!』
さっきの体の重さがウソの様だ。
「――ぷはっ! あ~助かった……って、グレイさん?」
グレイの奴が、俺の手紙を拾い上げて凝視している。
書いた内容は伝わっているのだろうか? うーむ、心配だ。
「…………」
「あの、その紙に何が……」
男相手なのに何かドキドキする。
「……やっぱりな……これはケビンの手紙だ」
『!』
やった! 俺の手紙とわかってくれた!
「えっ! これをケビンさんが!?」
「ああ、この独特な字は間違いなくケビンの字だ。ただ、少しだけ綺麗なのが気になるが……」
『って、おい!』
少しだけってなんだよ!?
かなり綺麗に丁寧に書いたんだぞ、それ!
『……いや、今はそんな事より俺の状況を理解して貰えたからいいとしよう』
いやーそれにしてもさすがグレイだ。
長年、冒険者を共にやっていた事だけはある。
「でも、ちょっと待ってくれ……俺でもあいつの字はすぐに読めないんだ、解読していかないと……。えーと、何々……」
『……』
解読って……。
何か? 内容じゃなくて、字だけで俺が書いたって判断したってわけ?
なんだろう、わかってくれた事には嬉しいが……ものすごく複雑な気分。
「2人にだけずるいっス! 俺はないっスか?」
「ないのじゃ!!」
『ねぇよ!!』
何で知らない一つ星の奴に、手紙なんて書かないといけないんだ。
「……そんなに強く言わくてもいいじゃないっスか……」
「……ん? ……んん!? おい! ドラゴニュート!」
グレイのあの感じ。
やっと手紙が読めたみたいだな。
「わしはナシャータと言うんじゃがな」
「そんな事はどうでもいい! ここに書かれているのは本当の事なのか!?」
本当の事なんだよな。
まさに、事実は小説より奇なりってな。
「そうじゃ……と言っても、お主は信じるのか?」
「チッそうだった、お前には2度も騙されたしな」
「あの~なんて書いてあったんですか? 私の方は全く読めなくて……」
コレットに通じてないのが悲し過ぎるぞ。
よし、決めた。この件が終わったら字の練習をするぞ!
「……なら本人に出て来てもらおうか。そこにいるんだろ、ケビン!」
『「えっ!?」』
ちょっ! そんな急に出てこいと言われても、まだ心の準備が――。
「ポチ! ケビンの奴を蹴り飛ばすのじゃ!」
『はっ!?』
ナシャータの奴、さっきの仕返しのつもりか!?
「は~い! おりゃ!」
『いや、まっ! ――げへっ! っこら! 蹴るとしてももっと優しくしろよ、バラバラになったら……』
「「「「……」」」」
『……』
めちゃくちゃ見られている。
「いやいや! 出て来たのはスケルトンじゃないですか!」
げっコレットがメイスを構えた!
『わー! 待ってくれ!』
今殴られたら確実に意識が飛んでしまう!
「武器を下げろ。どうやら、そのスケルトンがケビン……って、何で前歯が1本無くなってんだ、お前……」
『え、前歯? ……あ、本当だ! 1本無くなっている!』
いつだ? いつから俺の前歯が無くなっていたんだ!?
「……歯? ……あっ!」
「どうした、コレット」
「イッイイエ、ナニモ! アハ、アハハハハ!」