こんな姿でコレットの前に出る羽目になるとは思いもしなかった。
『ナシャータ! 俺の前歯はいつからなくなっていたんだよ!?』
「ん? ヘビに食われた後じゃな。ポチはちゃんと全部拾ったらしいのじゃが……」
その話は本当かよ。
ポチだと信用が……いやいや、今はそれよりも!
『それって結構前からじゃないか、なんで今まで言わなかったんだ!?』
「お前は物を食べないし、前歯1本無くても問題はないじゃろが」
いや、そうだけど!
そういう問題じゃない!
「……ヘビに食われた後? ……ああ、やっぱり……」
「やっぱりって……どういう事だ?」
「うっ! そっそれよりも! あのスケルトンがケビンさんってどういう事なんですか?」
「この手紙によるとだな、ケビンはここ数日前に目覚めたそうだ。で、どういう訳かスケルトンになっていたんだとよ」
そうそう。
なぜ、スケルトンになっていたのかはさっぱりわからんが。
「えっ!? その話――」
「――その話は本当の事ですかな!?」
うーわージゴロの爺さんの目がめちゃくちゃキラキラしている、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供の様だ。
「ほうほう! ふむふむ! んーこの目は見えているのですかな!? 私の声は聞こえているのですかな!?」
案の定、俺の周りをウロチョロしだしたよ……うっとうしいな。
「この関節の部分は――」
「そこまでだ。――よいしょっ!」
「なっ何をするですな!? これをほどくですな! まだ調べないといけない事――もがっ!」
グレイが爺さんをとっ捕まえて、ロープで簀巻きにして、猿轡までしてしまった。
さすがにやりすぎと思うんだが。
「これでよし、すまんが今は大人しくしていてくれ、じゃないと話が前に進まん。……さて、この手紙の字は間違いなくケビンだが、内容についてはまだ半信半疑なんだ……お前は本当にケビンでいいのか?」
まぁ当然と言えば当然か。
ここは真剣に答えないとな。
『ああ、そうだ』
「……本当に、ケビンなのか?」
? どうしてまた聞くんだ。
『だから、そうだって言っているだろう』
「……」
何か様子がおかしい。
『どうしたんだ、グレ……』
「だあああああ! さっきからカタカタと鳴らしやがって! ちゃんと俺の質問に答えろ! やっぱりお前は偽物か!?」
『はあ!? 俺は本物のケビンだし、ちゃんと答えてるじゃないか! つか、声が出ないんだからしょうがな……あっ』
グレイの奴め、手紙の最初に書いたスケルトンになったという部分しか読んでいないな?
最後まで読んでいたら「質問に答えろ」なんて言うわけない、ちゃんと読めよ!
「あの~グレイさん……ケビンさん? はスケルトンですから、声が出ないと思うんですけど……」
さすが、コレット!
そうなんだよ!
「……あっそうか……どうやら当たりみたいだな、ケビン? が両手で丸をしていやがる。お前、そんな大事な事はちゃんと書いておけよ!」
『書いてあるっての!』
って、文句を言っても通じてないんだよな。
言葉が伝わらないのは本当に不便だ。
「じゃあ何か? この手紙みたいに筆談で会話しろってか? 勘弁してくれ……解読しながらだと時間がかかるぞ」
「そんな面倒くさい事をせずとも、ケビンの声がお主等に聞こえる様には出来るのじゃ」
通訳をしてくれるだけでいいんだが……こいつの事だ、いちいち通訳するのが面倒くさいんだな。
だから今まで黙ってたんだろう。
「……そういえばお前は会話しているものな。それはどうやるんだ?」
「話してもいいのじゃが、またわしが騙しているかもしれんのじゃぞ?」
おーい、頼むから挑発するのは止めてくれー。
こじれるとまた話が進まない。
「それもあるが、この状況じゃ埒が明かないのも事実だ。とりあえずその方法を聞いてから判断する。みんなもそれでいいか?」
「はい、私はそれが良いと思います」
「俺は全く話についていけないっスけど、了解っス」
「ムガー!」
「……わかったのじゃ。では、話すのじゃ……」
※
「……という訳で、お主等に魔力を送ればいいのじゃ」
念話について、一通りナシャータが話したが……。
「……なんじゃそりゃ……」
「……念話……」
「……」
「ムガ―! ムガー!」
案の定、爺さん以外はキョトンとしている。
まぁ俺も同じことを言われたら、同じようになっていたかもしれん。
「説明は以上じゃ。どうするのじゃ?」
「……どうするのじゃと言われてもな……うーーん……!」
グレイが両手で頭をかきむしりながら悩んでいる。
「みんなはどう思うよ?」
「すみません……私には何とも言えないです……」
「右に同じくっス……」
「ムガー! ムガー!」
「だよな……よし、わかった! こうなりゃやけだ、その方法をやってくれ! ただし、変な素振りを見せたらすぐに斬るからな!」
あら、グレイがヤケクソ状態になってしまった。
「なら、今からお前と小娘に魔力を送るからじっとしているのじゃぞ」
「……へっ? 私もですか!?」
「俺だけじゃ駄目なのか?」
「ケビンの奴が小娘とも話したいんじゃと」
言ってはいないが、ナシャータが気を利かせてくれたのか。
確かにコレットにもそうしてほしいが、無理強いもさせたくはない。
コレットの判断に任せよう。
「……ケビンさんが……う~……っわかりました、私もやります」
ありがとうコレット!
となると、ちゃんとナシャータにもう一度言っておこう。
『おい、頼むから2人を爆破させるなよ』
本当に頼むぞ、シャレにならんからな。
「じゃから、させないのじゃ!」
「あん? 何をだ?」
「何だろう、急に不安に……」
「大丈夫じゃ! ほら、動いちゃ駄目なのじゃ」
ナシャータが飛んで、右手をグレイの頭に、左手をコレットの頭に乗せた。
「――ふん!」
「「……」」
「よし、これで良いのじゃ」
はやっ! たったそれだけ?
手を頭に乗せて、掛け声をかけただけじゃないか。
「えっ? もう終わりかよ、何も感じなかったぞ」
「えと、私もです……」
2人に変わった様子がない。
もしかして、失敗したのか?
「ケビン、何かしゃべってみるのじゃ」
え? 急にそんな事を言われても、何て言えばいいんだ。
『えっえーと……俺の声が聞こえますか?』
「――っ! 今、聞こえました!」
「ああ、俺も聞こえた。声というよりは音に近い気もするが……」
マジかよ。
『本当に俺の声が?』
「はい、聞こえます!」
「これが念話か、なんか不思議な感覚だな」
『おお……おおおおお!』
やった! ついに、ついに俺の声が伝わったぞおおおおおお!