ああ、今日はなんて素晴らしい日だ。
コレットに対して俺の声は全く聞こえておらず、手紙も俺の字の問題で全く伝わらなかった……しかし、今は違う。
ならば、今やるべきことは一つ!
『……ふぅ……』
今こそ、俺の気持ちをコレットに伝えるんだ!
『コレット!』
「あ、はい……んっ?」
さぁ勇気を出せ、ケビン!
『伝えたい事――』
「さて、ケビン。今からいくつか質問をするから答えてくれ」
『――が……って、何だと!?』
何でこんな時に邪魔をするんだよ、グレイ!
一番大切な所だったのに!
『まだ俺を疑っているのか!?』
「まだもなにも、お前が本物のケビンかどうかを調べる為に、ドラゴニュートの話に乗ってお前の声が聞こえるようにしたんだろうが」
「ナシャータじゃ」
……そうだった。
勢いでコレットに告白しようとしたが、俺がケビンだとわかってもらわないとただのスケルトンが人間に告白するという意味不明な展開になってしまうところだったぞ。
『わかった、じゃあさっさと始めてくれ』
そして終わり次第、俺と理解してもらって再度告白だ。
「じゃあ、まずお前の本名は?」
……そこから?
えっこの先もそんなのが続くの?
うーわー、確認とはいえ面倒くさいな。
『……ケビン・パーカーだ』
けど、ここは素直に答えていくしかない。
急げば回れって言うし、素直にグレイの質問に答えよう。
「お前の両親の名前は?」
『父はホセ・パーカー、母親はマルシア・パーカーだ』
そういえば、親父とお袋は元気にしているのだろうか。
「お前の出身である村の名は?」
『アカニ……村だ』
リリクスの件があるからな、もしかしたら村から街になり名前も変わって……。
「お前の誕生日と年齢は?」
……ないみたいだな。
それはそれで、なんか悲しい。
『アース歴155年6月11日、25歳だ』
待てよ、今の暦だと俺は何歳になるんだ?
後で聞いてみようっと。
「お前が三つ星になった暦と日にちは?」
『アース歴180年6月11日……俺の誕生日だ……』
そして、床の第一歩を踏み外して落っこちた日。
「俺らの通っていた、鍛冶屋の親父さんの名前は?」
『ブライアン・ストーン』
親父さんの名前がすんなり出たんだ。
いい加減、俺だって認めてもいいと思うんだがな。
「……次が最後の質問だ」
やれやれ、やっと最後か。
「お前の泊まっていた宿の部屋にあった酒は何年物だ?」
『25年物だ。俺の歳に合わせた高級の……って、ちょっと待て』
なんであの酒が今出てくるんだ?
というか、あれは隠してあったんだが……まさか、こいつ!
「……どうやら、このスケルトンは本当にケビンの様だ」
『っ!? おい、あれをどうしたんだ! なあ? グレイ!』
「…………うまかったぞ」
『やっぱりか! お前、人の酒をなに勝手に飲んでいるんだよ! あれは高級品で高かったんだぞ!」
楽しみにしていたのにこいつは!
「仕方がないだろ、お前の手掛かりを探す為に部屋を捜索したら出て来たんだから。それにずっと放置されるより、酒も飲まれた方が喜ぶってもんだろ」
そういう問題じゃない。
「そもそも、20年前の話だからもう時効だろ。それに今のお前じゃあ、酒なんて飲めないじゃないか」
『いや、そりゃそうだが……んっ? 20年前だと?』
「そうだ、お前が消息不明になってからもう20年経つんだよ」
『なっ! そんなに経つのか!?』
って事はなにか、俺はもう45歳って事!?
知らぬ間に25歳から45歳って……何かショック。
「……あの~お話し中にすみません。グレイさん、そのスケル……その方は本当にケビンさんなんですか?」
「ああ、確実に本人だ」
よし、グレイに本人だと認められたぞ!
これでやっとコレットに……って、あれ? そういえば言葉どころか文字ですら全くコレットに俺の事が伝わっていなかったのに、どうして俺の名前や存在を知っていたんだ?
「そうなんですか!」
コレットが笑顔になった、なんか嬉しそうだ。
……あーそうか、グレイの奴が俺の事をコレットに話していたんだな。
そして聞いているうちに物語に出てくる人物のような存在になって、今日出会ったわけだ。それで嬉しい! みたいな? いやー照れるな……。
「はあ~良かった……」
今度は心底安堵している様だが……ああ、なるほど。
今日、出会ってから俺の事をずっとモンスターであるスケルトンと思っていた。
しかし、そのスケルトンは俺だった……そりゃ安堵もするよな。
「……んっ?」
眉間にシワを寄せたぞ。
何か思い当たる事があったみたいだが……。
「……ん~~~~」
そして、考えこんじゃった。
コレットの中で一体何が起こっているんだろうか。
屋並み事があるなら、相談してくれてもいいのに。
「……よし、後回しにしよう」
何をだろうか。
「えと、私からもケビンさんに聞きたい事があるんですが……いいですか?」
むっコレットから質問だと。
これは真面目に答えなければ。
『んんっ! ……なんだい? 俺で答えられる事なら何でも聞いてくれ』
「先ほど私の名前を呼んでいましたが、初対面なのにどうして私の名前を知っているんですか?」
初対面か……俺からしたらほぼ毎日会っていたんだがな。
まぁ今まで俺だって判断されてなかったから、コレットはそうだとは思わないか。
『落として行ったナイフに名前が彫ってあったからだ。そこでコレットの名前を知ったんだ』
そう、あのゾンビにコレットが襲われていた事が運命の始まり!
「……ちょっ、ちょっと待ってください!」
『? どうかしたのか?』
別段、おかしなところはないはずなんだが。
「あの時、壁に潰されたスケルトンってケビンさんだったんですか!? というか、何であの時私に襲って来たんですか!?」
あれ、なんで壁に潰された時の……話に……って、俺が襲って来ただって!?
『そっちこそちょっと待て! 俺が襲って来たってどういう事だよ!?』
俺がコレットを襲う訳がないだろう!
「私をナイフで刺そうとして、体当たりをしてきたじゃないですか!」
『体当たりをしたのはコレットを安全な壁の外に出す為だったんだ! ナイフは君に返そうとして手に持っていただけだよ!』
どうしてそうなった?
「……え? ……え??」
おかしい。
『……』
何かが、おかしい。
俺とコレットの間に違和感を感じる。
しかも、とてつもなく【嫌な】違和感を!!