そもそも、何がどうなってコレットは俺にナイフで刺されると思ったんだろうか。
「……あの……それって、本当の事ですか?」
『ああ! 本当だとも! この目を見ればわかるだろ!』
「えっ!? え~と……その~……」
あれ、コレットが困った顔をしているぞ。
「空洞の目を見ろ言われても、困るだけじゃろが……」
あっ確かにそうだ。
これじゃあ説得力がまったくない。
『とっとにかく、嘘は言っていない! 信じてくれ!』
「…………はい……」
これは信じてくれていないっぽいな。
どういう理由にしろナイフを持っていた時点で、そう見られても仕方がないが……どうも怯え方が普通じゃない気がするんだよな……。
「……なぁ話の途中で悪いが、どう考えてもその話はおかしいと思うぞ」
お、さすがグレイ。
俺の事を理解してくれているなー。
『そうそう、グレイからも言ってくれ、俺がコレットを刺す訳が……』
「いや、そこじゃなくてだな」
『いや、そこがもっとも重要だろ!?』
むしろそれ以外になにがあるんだよ!
「今の話だとお前は壁に押し潰されたんだろ? なのに何で人の形を保っているんだ? 普通は粉々になっているはずなのにおかしいだろう」
『ああ……そういう事か』
まぁ確かに再生の事を知らなければ疑問だわな。
俺もスケルトンになるまでは、不死モンスターが再生しているなんて思いもしなかったし。
だが、さすがに
『この遺跡内だとバラバラになろうが粉々になろうが、時間が経てば体が再生されるんだよ』
「……はっ? お前それマジで言っているのか?」
事実なんだが、こればかりは実際に見せないと信じられないよなー。
『マジだ。何なら今から見せようか? 少し時間が……』
「ムガアアアアアアア! ムガァアアアアアアアアアアアアアア!」
……ジゴロの爺さんが涙を流しながら、すごいもがいてる。
そりゃそうか。爺さんにとっては大好物の未知の世界なのに、この会話に入りたいが入れないし動けない。
まさに爺さんにしたら拷問だろう……が! だからこそ、解放してはいけない。
解放したら、この場がめちゃくちゃになるのは目に見えているからな。
「どうしたっスか? これをほどいてほしいっスか?」
「ムガアアアアアアア! ムガァアアアアアアアアアアアアアア!」
『「おい! それだけは止めろ!!」』
「ったく……これじゃあ、いつ爺さんが抜け出すかわからんな。仕方ない、今は時間がかかる事はしたくないから再生が出来るという話で納得しよう」
良かった、正直バラバラになるのは嫌だったからな。
「……再生ですか……それじゃ、今までのスケルトン騒動は全部ケビンさんだったりして? って、そんなわけないですよね~」
スケルトン騒動?
『何の事だよ? スケルトン騒動って』
あの冒険者がたくさん来た時と関係するんだろうか。
「そうですね、最近だと……あっカルロフさんを蹴り飛ばしたのって、もしかして……」
カルロフ? 蹴り飛ばした?
あー……あの時か。
『そうだ、見事な飛び蹴りだっただろ?』
「そっそうですね……」
『あの時は……』
「……すみません……これ以上、あの日の事を思い出したくないです……」
コレットが死んだ魚の目をしている。
多分、ジャイアントスネークに丸呑みにされたのを思い出したくないんだな。
コレットを守ったり、お姫様抱っこしたを話したいが……この話題はこれ以上広げない方がよさそうだ。
「……まさかとは思うが、あのゴールデン・スケルトンは……」
ゴールデン・スケルトンって、金粉を体に塗りまくった時の事か。
『ああ、俺だ。金色でかっこよかっただろ?』
「いや、あれは不気味だったぞ……それにしてもあの時もめちゃくちゃだったよな、天井が爆発するわ、お前が雷に打たれるわで」
いやいや、あの閃光箱が無ければあんな事にはならなかったんだ!
『それは全て爺さんとナシャータが悪いんだよ! つか、不気味言うな!』
「おい! さらっとわしのせいにする!」
「……えと、黄金繋がりですけど黄金の剣が飛んで来た時のは……」
ああ、あの大失敗の一つか。
『……俺だ。てか、あれもナシャータのせいで……』
「おい! じゃからわしにのせいにするな!」
これは完全にお前のせいだろ。
「その時、私に剣が当たって死にかけましたよ……」
『えっ、普通に立ち上がっていたじゃないか?』
無傷に見えたんだが、やはりどこか怪我でもしていたのだろうか。
「あの時は色々と偶然が重なって、なんとか助かったんですよ」
『そっそうだったのか……』
プレゼントのつもりがとんだ災難になっとる。
「危険な目と言えば、皮の鎧を着たスケルトンが俺達に襲い掛かって来たんだが……さすがに、あれはお前じゃないよな?」
それは俺じゃないと言いたいが、リリクスの件にも繋がるし正直に言うか。
『体は俺だ。ただ、あの皮の鎧は寄生のモンスターでそいつに操られていたんだよ! 決して俺の意思じゃないんだ!』
あの時も、コレットは危なかったよな。
間一髪だったし。
「……ふむ、あの動きは異常だったが……寄生のモンスターねぇ……」
やばい、グレイが怪しんでいる。
こうなったら証拠として鎧を……って、そういや埋めてしまったんだった!
どうする? 掘り返す? いやそんな時間はないか、だったら……。
『そうそう! 宝箱からコアを持って、飛び出たのは俺だったんだよ! 驚かせようとしたんだが、さすがに閃光弾が爆発するところまでは読めなかったぞ』
話を別の方向へ持って行こう。
この話題なら、問題は――。
「……あれもケビンさんだったんですか。その爆発に私もに巻き込まれて……死にそうになりました……」
『……え』
――大ありだった。
いやいや! 爆発については完全に俺のせいじゃなく後ろにいる一つ星のせいだろ!
つか、ナシャータが無事に帰ったって言ってたから安心していたが、その時も危なかったの!?
「……なぁケビン。お前、コレットに何の恨みがあるんだ?」
『はあっ!? そんなものあるわけがないだろう!!』
あるのは恋心であってだな、その為に色々と……って、待てよ……。
今までの話を聞いていると、俺がプレゼントや良かれと思って色々とやってきたが、それらは全部コレットにとって最悪な出来事になってしまっている。
つまり、コレットにとってはスケルトンという存在はやたらと自分に危害を加えて来るモンスターと認識されていたんだ。
さっき感じた俺とコレットの間にある【嫌な】違和感の正体はこれだったんだ!
そりゃあ危害を加えるモンスターと思っていたのなら、ナイフで刺されるとか物騒な言葉が出るはずだよ!