早朝、庭に出て、アール君とホウキに乗る訓練をしていた。
「アール君、見ていて」
「エルバ様、お気を付けて」
ママに習って、竹ぼうきに乗る練習を始めて一ヶ月が経っている。
はじめのうちは、魔力のコントロールが上手くいかず。雲よりも高く飛び上がるわ、ホウキだけ飛ぶなどのハプニングもあったけど、どうにかスムーズに乗れるようになってきた。
もう少し上手く魔力を操れる様になれば、ホウキでエルブ原っぱまで、五分もかからずに飛んで行ける。
そして、いつの日かアール君と旅に出て、外の世界を見てまわりたい。
――まあ、パパとママが許してくれたらだけど。
「アール君、どう? 乗れてる?」
庭でバランスをとりながら、ホウキに乗りフワフワ浮いていた。
「そうですね。まだ、僕の補助が必要ですが。はじめの頃よりは魔力が安定してきましたね。いまなら魔法を使っても前の様に暴発しないでしょう……しかし、エルバ様の気持ち次第で、魔法の威力が変わるかもしれませんが」
「気持ち次第……そうだよね」
(私がホウキに乗るとき、魔法を使うときはアール君に助けてもらっている)
私は魔法を使うときに、いまから私が魔法を使うぞ! と興奮、緊張してしまい、魔法を暴発させてしまう。
気持ちを抑えれば、なんとかなのだけど……まだ、気持ちの高ぶりが勝ってしまう。
「……ふうっ、訓練がまだまだ必要だね」
「でしたら、エルバ様が魔法を使わなくてもいいよう、僕が頑張ります」
アール君が小さな胸を叩く。
「それは、助かるけど……私も、魔法を使いたい」
「なら、訓練あるのみです」
「わかった、がんばる!」
アール君に見てもらいながら、そのあともほうきに乗った。しばらくして、魔力はまだ有り余るが私の集中力が切れてしまい、ホウキが安定しなくなる。
それの様子を見て、アール君に止められた。
「エルバ様の集中力が切れて、魔力が乱れています。ホウキに乗るのをおやめください」
アール君の声の後に、ホウキと一緒にストンと庭に尻餅をついた。魔力切れならぬ、集中力切れ。打ったお尻を叩きながら、立ち上がり深呼吸した。
「……ふぅ、疲れた。アール君、少し休憩。訓練前に冷やし庫に冷やした、シュワシュワを飲みに行こう!」
「はい、行きましょう。僕は、ママ様が作った甘イチゴンのジャムをいれた、シュワシュワが飲みたいです」
「いいね。私もそうしよっと」
イチゴンのジャムを入れると、シュワシュワがほんのり赤く染まり、甘くて美味しくなる。このイチゴンも、ママが種を生成して、温室で栽培したものだから、博士からタネは貰えていない。
――いつか、好物のミカン、桃、ブドウなどの原種の果物をみつけたいなぁ。
⭐︎
「アール君、午後は書庫で本を読む?」
「いいですね、そうしましょう」
ホウキを庭の魔導具入れに片付けて、休憩をしにアール君と家に戻ると、ママが調合室から血相を変えて、玄関まで飛んできた。
「ママ、何かあったの?」
「エルバ、アール君! 悪いのだけど……いまから、エルブの原っぱでキリ草をできるだけ、多く採ってきてくれない」
――キリ草?
キリ草は、魔法水と混ぜれば傷薬になる薬草だ。ママのこの慌てようは、ただことではない。
「わかった。ママ、キリ草はどれくらい、いるの?」
「そうね。いま、他の人にも頼んでいるのだけど……なかなか集まらないの。エルブ原っぱに生えているだけ欲しいわ」
――原っぱに生えているだけ、欲しい?
キリ草は発見済みで、博士からタネも貰っている。わざわざ、エルブの原っぱに行かなくても採取できる……。でも、エルバの畑から採取すれば、ママとアール君はきっと驚くだろう。
「二人とも気をつけて行くのよ。アール君、エルバをお願いね」
「かしこまりました。さあ、エルバ様、向かいましょう」
ううん。たくさんのキリ草がいるということは、怪我人が多数出たんだ。
「ママ、アール君、エルブ原っぱに行かなくても大丈夫。いまからキリ草をだすね! 『【エルバの畑オープン】』」
「え? エルバの畑?」
「エルバ様の畑?」
目の前に、自分だけがみえる畑の画面をだして、畑育つキリ草を何度かタップした。すると、一束にまとまったキリ草が、目の前にぽふっと現れる。
「これで一束か……。ママ、あと、どれくらいのキリ草がいるの?」
「……え? あと、二十束もあれば助かるわ」
二十束か……その数だと、少し時間がかかる。
博士、畑いっぱいにキリ草を生やしたいのだけど、どうすればいい?
《畑のページをめくり、まっさらな畑にキリ草のタネを植えてください》
ページをめくって、空いている畑植える。
わかった、博士、たくさんのキリ草のタネを頂戴。
《かしこまりました。エルバ様、キリ草のタネです》
博士からタネをもらい。教えてくれたと通り新しいページまでめくり、もらったタネを畑に植えた。
すると、ポンポン畑に、キリ草の新芽が生える。
(おお、畑一面にキリ草が生えた! この数なら、一気にキリ草を集められる)
博士ありがとう。
エルバの畑に生えたキリ草を、つぎつき画面を押して採取した。私の前に採取された、キリ草がポンポンと、束になって目の前に現れる。
その様子をみていたママ、アール君。
「エルバ様、凄い」
「エルバ、あなた……」
「ママ、急ぐんでしょう? 説明は後に、私に手伝えることがあれば手伝うから」
エルバの畑で採れた、二十束のキリ草をママに渡した。
「あ、ありがとう……エルバは調合室で空いている水瓶に水魔法で魔法水を出して、その間に私はキリ草をすり潰すわ」
「ママ様。キリ草をすり潰す、手伝いを致します」
「アール君、ありがとう。エルバ、頼んだわよ」
「まかせて!」
――私達は、調合室に向かった。