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第22話

 ここは私が読んでいた『ドキパラ学園』小説の世界で。たぶん、私はただのモブ。


 そのモブの私が、囚われているだろう前魔王様を見つけて、事情を話して、魔王の座を退いてもらうだけでいい。モブの私が、この物語を変えるわけにいかないから、囚われたままの魔王様を放置するのは可哀想だけど……聖女が助けてくれるから大丈夫!


 ――よし、ママに言おう。


 気合を入れて、私はママを見つめた。


「あの、ママ。この……シュノーク古城に行きたい」


 そう言って、地図の上に指を置く。すると、ママはその場所を見つめて、困ったような表情になった。


「エルバ……その、シュノーク古城がある場所は“人里”よ。人間たちが多く住む場所。私たち魔法使いや魔女を――恐れている。その人達に見つかれば、ただでは済まないわ」


「そうです、エルバ様……人は、僕たちに刃を向けます!」


 アール君も、思わず声をあげた。

 ――人間への不信感。彼の表情からも、それが伝わってくる。


 人に支配された大昔のこともある。魔法都市サングリアに住む魔法使い、魔女は詠唱なしで魔法を使い、独自の術式を編み出す。人とは異なる者、それが人々には“異端”に見えるのだろう。


(……本で読んだことがある、魔女狩り?)


 人に見つかったら、何が起きるかわからない。

 怖い……でも、あとに引けない。パパの命がかかってる。


「で、でも……ママ。このシュノーク古城に、前魔王様が“囚われている”可能性があるとしたら……?」


「え? 前魔王サタナス様がそこに? ……どうして、そんなことがわかるの?」


「…………そ、それは……」


 ――ここが、私が読んでいた小説の世界だから。


「ママ……これだけは約束する。どうして私が知っているのか――それは、必ず戻ってから話す。それと、もしシュノーク古城にサタナス様がいなかったら、すぐに戻るから」


「でしたら、ママ様。僕もついて行きます。命にかえても、エルバ様をお守りします」


「アール君まで……」


 そう言って深々と頭を下げるアール君の姿に、ママは言葉を詰まらせた。


 パパの命がかかっていること。

 娘を危険に晒したくない想い。

 そして、私とアール君の決意――その間で、ママはしばらく悩み……そして、静かに息を吸い込み、目頭を押さえた。


 やがて、震える声で言った。


「……わかった、話は帰ってからね。エルバ、アール君。“特別に”許可します。……特にエルバ、“変わった薬草”を見つけても食べないこと。アール君、エルバを頼むわね」


「ママ、ありがとう。ちゃんと守る」

「ママ様、かしこまりました」


「いまから話すことも、ママと二人との“大切な約束”です。けして危ないことはしない、寄り道もしない、そして……絶対、無事に帰ってくること!」


 その言葉に、私たちは力強くうなずいた。


「「はい!」」


「ママとの約束は、ぜったいに守りなさい」


 念を押すようにママは言い、ようやく、私とアール君の旅立ちを――許してくれた。


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