――パ、パパが、魔王様の側近⁉︎
「ママ、ママ……魔王様っているの?」
そう聞くと、ママはこくりと頷く。
「ええ、いるわよ。
「もぬけの殻? じゃあ、魔王様はいない?」
「えぇ、パパはそう思っていたみたいだけど……ひと月ほど前にパパが“新しい魔王様が誕生したかもしれない”って言ったわ」
「新しい魔王様……?」
私がいる
「でもママ、もし新しい魔王様が誕生したのなら……パパは、なぜ倒れたの? 本来なら、魔族にとっては喜ばしいことなんじゃないの?」
そう問いかけると、ママの顔が曇った。アール君は私たちの話に耳を聞いているが。何も話さず、ただじっとテーブルの一点を見つめている。
「そうね……普通なら、そう考えるわ。でも、魔族には独特の“絆”があるの。――エルバに話したわよね? パパは、前の魔王様の側近だったって」
「うん、聞いた」
「普通の魔族と、“魔王様から証を授かった配下”は違うのよ。配下になった魔族はね、“我が王”と定めた存在に、生涯をかけて仕える。それはもう……運命のようなものなの」
ママの声に、少しだけ震えが混じっていた。
「でも、それって……新しい魔王様にとっては邪魔じゃない? 前魔王様に仕える魔族なんて、反乱分子だと見なされるんじゃ……」
「その通り。だから――前魔王様が消えるか、自ら王の座を手放さない限り、状況は変わらないの」
――前魔王が消えるか、王の座を捨てるか。だったら……。
「ねぇママ、だったら“魔王をやめてください”って、前魔王様にお願いすればいいんじゃない?」
「そうね。言えるなら、そうしたいわ。でも……前魔王様は勇者との戦いのあと、何百年も行方不明のままなの。もし本当に倒されていたなら、パパたちはとっくに配下の証が解けていたはず。でも、パパは今も“配下のまま”だと言ってるの」
「え? ……まだ、配下のまま⁉︎」
⭐︎
――パパはいまも、前魔王様の配下であり続けている。そして、そのせいで新魔王様に命を狙われている。
いま、大魔女ミネルバ様が張った結界と、治癒魔法でなんとか抑えているけど……持って、あと一ヶ月。それに……今回、倒れたのはパパだけじゃない。ミネルバ様の恋人、そしてパパと同じ門番として働くパパの友達も、同じ症状だと聞いた。
「パパたちが危ない! どうにかして……前魔王様を見つけないと……」
「そうね。今、ミネルバ様の命令で、魔法都市や人里、魔族の国に“捜索隊”が派遣されているわ。身消しや探査に優れた魔法使いや魔女が動いているけれど、いまだに手がかりはないの……もし、前魔王様が何百年も囚われていたのだとしたら、探すのはとても難しいわ」
ママの言葉で……ふと、あの日、キャンプ場で読んでいた小説。『ドキパラ学園! 聖女の生まれ変わりは勇者と魔王に激愛される!』をなぜか思い出した。
あの小説、たしか、ヒロインは聖女の末裔で、王都の学園で勇者と魔王に取り合われる物語。チート級の癒しの力と魔力を持ち、囚われた古代魔王を助けたり、回復魔法で数々の危機を乗り越える……なんとも都合のいい、でもテンポがよくて、つい読みふけってしまった作品。
……その小説にでてきた、古代魔王の名前はサタナス、新魔王の名前はローザン、ヒロインの名はアマリア。
(囚われた古代魔王……。いやいや……そんなこと。でも、まさか……ありえたりする?)
一応、ママに聞いてみる? 私は、少しだけ怖くなりながらも、念のため尋ねることにした。
「ママ、ママは前魔王様の名前って、知ってる?」
「魔王様の名前? ええ、たしか……“サタナス様”だったかしら。パパがお酒を飲んだとき、泣きながら“サタナス様に会いたい”って叫んでいたから」
――その言葉に、背筋がゾクリと冷えた。
(あぁ……魔王サタナス。あの小説にでてきた古代魔王と、同じ名前……)
偶然? だけど、それなら――古代魔王が囚われている、古城の名前も……あったりして。
「ママ、家に世界地図ある?」
(あの城は大昔からある古城だから、もしかすると載ってるかも)
私の突然の声にママは目を丸くしたけれど、すぐに魔法で本棚から地図を呼び寄せてくれた。私はそれを受け取り、食卓の上に広げ、私はシュノーク古城の場所を探す。
ここが、私たちが住む魔法都市サングリア。そこから、都市を囲む、シシリアの大森林を西に抜けて人の国に出るてさら西に行くと、ローヌの森があり……あ、その森の奥に小さく記されていた。
「あった……」
私の心臓が、高鳴る。
――魔法都市サングリア、シシリアの大森林とかなく、小説は学園を中心に話が進む。だけど、小説の内容と似ているところがある。……いや、まだわからないけど、この世界はあの小説『ドキパラ学園』の世界?
あの日、神様は事故で死んだ私を哀れに思って、願いとともにここへ送ってくれた。私がキャンプ場で夢中で読んでいた、物語の中へ。
……でも、ここは物語の世界、夢じゃない。
大好きなパパの命が、かかっている。
――だったら、行動あるのみ!
(早く……シュノーク城にいって、魔王サタナス様を助けなくっちゃ)
私は強く拳を握った。