ママ、アール君と作業を分担して、必要な分の傷薬を作り終えると、慌ただしくほうきに乗り、傷薬を届けに行った。
一時間後、ママが帰ってきて、食卓でアール君と一緒にその話を聞いた。
内容は――今日の早朝、鬼人族の人が山菜採りに夢中になり、ミネルバ様の守りの結界を超えてしまい、シシリアの大森林を抜け、魔族の森――ムスゴに迷い込んでしまったというものだった。
「ま、魔族の森に迷い込んだの?」
「それは……大変ですね」
私たちの驚きに、ママは神妙な顔で続ける。
「ええ、その鬼人族の人は、何事もなくムスゴの森から戻れればよかったのだけど……運悪く、鳥型のモンスターに見つかってしまったの」
「鳥型のモンスターって!」
「まさか、産卵期……?」
その言葉にママは深くうなずく。
「ええ、産卵期で卵を守るために凶暴化していたのよ。鬼人族の人が見つからなければよかったのだけど……気づかれてしまってね」
その人が森から逃げ切り、ミネルバ様の結界に戻れば安全だったはず。けれど、今度は鳥型モンスターが結界を越えて侵入し、魔法都市の近くまで迫ってしまったという。
「それで、鬼人族の人は助かったの? 鳥型のモンスターは?」
「鬼人族の人は無事よ。ミネルバ様が気づいて、獣人、竜人、魔法使いたちが力を合わせて探し出し、保護したわ。でも……鳥型モンスターはとても凶暴で、捕獲に時間がかかったの。多くの人が怪我を負ってしまったわ……」
ママの言葉に、胸がざわつく。
「パパも怪我をしたの?」
ママは一瞬、言葉を詰まらせてから、小さくうなずいた。
「ええ……あなたのパパも参戦して、軽い切り傷を負ったの。でも……それ以上に問題なのは――」
言いづらそうに、俯いたママの瞳に涙が滲む。
「――ミネルバ様の結界に、ほんの数十秒だけ穴が開いたの。その間に、毒草が侵入してしまったのよ」
「毒草の毒?」
「そう……パパもその毒に侵されてしまったわ」
頭の中が真っ白になった。パパが……?
「解毒草があれば治せるよね! ママ、毒草の名前を教えて! 博士に聞いて、すぐに探しに行く!」
希望を込めて問いかけたけれど、ママは首を横に振る。
「……それが……その毒草の名前も、解毒草も……誰にもわからないのよ……」
「そんなの嘘だ! 私がパパに、直接聞いて探す!」
飛び出そうとする私を、ママの手が強く掴む。
「待ちなさい、エルバ! ……あなたのパパは魔族……それも、前魔王の側近だったのよ」