「もちろん、聞いておりましたよ。本当は今すぐにでも
「え、ちょっ……」
レオンハルトの言葉に、その場の空気が一瞬で凍りつく。殺気を放つナナシに視線を向けると、抜刀しているではないか。
(いつの間に……ってそうじゃなくて、この雰囲気を止めなきゃ!)
「あー、ナナシ殿。殺気を抑えていただけますか」
「いや、害虫かと思ってな」
「いえ。殺し合いならいつでもお受けしたい──といいたいところですが、お嬢様が悲しみますので先に貴方が抜かない限り私は応戦いたしません」
心強い仲間なはずが、一つでも選択を間違えたら最大の敵になりかねない。レオンハルトの存在はそういった意味では
今も私を気に入っているらしいけれど、それが当たり前とは思ってはいけない。彼が味方でいてくれるのは、好意によるものが大きい。義務や恩義とはまた別な気がした。
「レオンハルト。私を想ってくれる気持ちは嬉しいです」
「お嬢様……!」
「ですが今の私には、恋する心の余裕なんてないのです。レオンハルトに尽くしてもらっても、私は貴方の気持ちに答えられないかもしれない。それでも……いいの?」
「ええ。
「そうなの?」
魔物討伐のこと以外身に覚えない。私としてはどうにも
「そうです。けれど私はナナシ殿のように、それだけでは満足できないのです。貴女の隣にいたい、傍に寄り添って生きたい。貴女が恋を知らなくとも、いずれその想いが私に向いてくれるように……私はお嬢様を愛し続けたい」
まっすぐに向けられた好意は炎のように激しくて、熱い。恋に
(こんな
「姫さん、勝手に好いているのだから、気にしなくていいんだぞ」
ナナシはそう言ってくれたけれど、私の中ではレオンハルトが向けてくれた想いを簡単に割り切ることが出来ず、胸の奥へと
***
その日の夕方過ぎに、私はキャベンディッシュ家を出た。それと同じくして、帝都の離れた
赤々と燃え広がる勢いは激しく、炎の化身サラマンダーの舌で
その様子を遠くから傍観している者たちがいた。ホテル三十階建ての最上階、スイートルームのフロア一つを貸し切っているのは、私とその従者たちであった。
「これで違法取引していた場所に、帝国軍が介入する理由が出来たわね」
「さすがお嬢様です。皇帝陛下から身元が怪しい屋敷がいくつもあると聞いていたのを、このようにお使いになるとは」
「しかし怪しまれないか? 姫さんの私物が現場から出てきたらまずいだろう」
」
「そもそも私物ってないわ」
「は? いやいや姫さんって皇族で、公爵令嬢だろう!? 基本ドレスなんかはオーダーメイドとか、贈り物だって……」
「ないわ。毎年、
即答する私に、ナナシは申し訳ない気持ちで泣きそうになっていた。公爵令嬢だというのに、私の荷物はトランクケース一つだけだ。
年頃の少女なら洋服もたくさんあるだろうが、私にはドレスと呼べるものはほとんどない。
哀れな視線を向けられ、慌てて話を逸らす。