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第7話 部屋とワイセツと私

「――え~、それではホームルームを終わります。委員長、号令」




 睡眠学習である世界史の授業を終え、そのままの流れでホームルームも終了。


 グッ! と背伸びをするとよく分からない骨がパキパキボキンッとラップ音まがいの音を奏でる。


 今日も世界史の木嶋先生(既婚者)の授業は最高だった。あまりにも最高の授業すぎてついうっかり寝てしまったくらいだ。


 もし『世界眠たくなる声選手権』なるものが存在していたら、まず間違いなく木嶋先生は入賞するだろう。




「よっす相棒! 今から生徒会か?」

「……元気よ、おまえは本当に間の悪い男だな」




 せっかく人が幸せな気分に浸っていたというのに、最悪なことを思い返させないでほしい。


 気晴らしにジトッ、とした瞳を元気に向けるが、俺の意図を汲みとれていない元気は真顔で「どうしたんや?」と小首を傾げるばかりだ。


 そのあまりにプリティな行動に、首だけ抱きしめてやろうか本気で考えてしまった。




「あ~っ、生徒会に行きたくねぇ~。めんどくせぇよ~」

「ならなんで生徒会に入ったんや相棒?」

「そ、それは……ひ、ひ、ひっ」

「ひっ?」

「……ひ・み・ちゅ♪」

「愛が足りない、センスも足りない、ムードも足りない、可愛さが足りない。というか普通にムカつく」




 会心のボロクソである。




「ふっ、なるほどな。どうやら俺に足りないモノ……それは! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてなによりも――速 さ が 足 り な い!」

「いや根本的にオツムが足りてへんのやねぇの?」




 というか速さ関係ないやんけ……と突っ込む元気の様子を見て、なんとか話題を逸らすことに成功したらしいとホッと胸を撫で下ろす。


 いやだってさ? 古羊の虚乳を揉みしだいている写真を撮られているからだよ♪ とは、さすがに言えねぇよ……。


 バチコン☆ とウィンクを決める俺を、冷めた目で見つめる元気。


 そんなバカみたいなやりとりをしている最中、ふと妹ちゃんの言葉を思い出した。




「そういえば、体操服に着替えてこいって言われてたんだっけ。なぁ元気、科学室の鍵を貸してくんない? 体操服に着替えたい」

「いいで! ……と言いたいところやけど、残念ながら今日は科学室の鍵は使えんのや。ほらっ、今日は部長会議やから」

「あぁ、そうか。部長会議のときは、全部活動は休みだっけ?」




 元気が申し訳なさそうに眉根を寄せる。


 意外かもしれないが、コイツは科学部の部長なのだ。


 神様もイジワルなもので、見た目の偏差値と引き換えに類まれなる頭脳をこの男に与えたのだ。


 この間も俺に「やっべぇ~、テスト勉強してないわぁ。どないしよ?」とか言っていたクセに、学年末テストでさらりと1位をとっていたりする秀才だ。


 そしてその才能は今、科学部で製作されるカラクリに注がれており、よく訳の分からない発明をして学校側に怒られていたりする。


 ちなみに部員は1人だが、部活動成績は優秀で、この前は『ロボコン』とかいうロボットを作って戦わせる全国大会で優勝したくらいだ。


 本人曰く、部費は腐るほどあるらしい。




「そうか、科学室使えないのかぁ」

「すまんのう相棒」

「いや、かまわねぇよ。とりあえず生徒会室で着替えるからさ」




 確かお昼の話しでは、各自やることがあるみたいな話をしていたから、今なら生徒会室は誰もいないだろう。


 それに古羊にスペアとはいえ、鍵も貰ってるし。1度使ってみたい。




「じゃあ俺は生徒会室行くから、元気も部長会議ガンバレよ」

「相棒もな!」




 簡単に別れの挨拶を済まし、荷物を持って3階の生徒会室まで移動する。


 ポケットから鍵を取り出し、ガチャリッ、とドアを開錠。




「おじゃましま~す」




 そのまま、何の躊躇いもなく、部屋の中へと足を踏み入れ――




「……えっ?」

「はい?」




 そこには女物の白いフリルつきのショーツを身につけた、上向きのぷるっとしたお尻があった。


 まるで「触ってくれ!」と言わしめんばかりに、美尻だ。


 おいおい、誰だこの美尻の持ち主は?


 と、俺がさらに視線を上にあげると、そこには驚きに目を見張る双子姫こと、古羊洋子ちゃんの姿があった。




「えっ? あの、その……えっ!?」

「こんにちは♪」

「えっ? こ、こんにちは……っ?」




 人間、極限状態におちいると、まず何故か挨拶しちゃうよね? ふっしぎぃ~♪




「あの、その、オオカミくん!? な、なんでココに!? あばばばばばっ!?」




 混乱のあまり『あばばばばっ!?』状態に突入した妹ちゃんを尻目に、俺の灰色の脳細胞が唸りをあげて高速回転し始める。


 おそらく手に持っている体操服からして、ここでお着替えをしていたのだろう。


 キチンと鍵をかけて、誰も入れないようにして安心して着替えていたに違いない。


 そこに鍵を持った俺が颯爽☆登場!


 下着姿でご対面♪ といったところか。




「なるほどな」




 フッ、と口角を引きあげる。


 謎は全て解けた。


 真実はいつも1つ。


 ……犯人は俺だ。




「あばばばばばばばばっ!?」

「さて……っと」




 壊れたオモチャのように「あばばばっ!?」言っている妹ちゃんに、なんて声をかければよいのやら。


 もう頭の中が真っ白である。


 そう真っ白。真っ白なのだ。


 目の前の景色も、頭の中も真っ白なのだ。


 どうすればいいのか分からなくなった俺は、とりあえず、しげしげと古羊のあられもない姿を観察することにした。


 その雪原のように真っ白なキメ細かい肌に、白いフリルのついたスカイブルーの下着が食い込んで、その瑞々みずみずしい肉体をなまめかしくいろどっている。


 ピッチリしたショーツは古羊のヒップラインをこれでもかと強調し、その秘境の奥にあるものを否応なしに想像させる。


 下から上へと視線をゆっくり這わせて、「おぉ~」と思わず感嘆の声をあげる。


 どこかのお姉さまとは違い、かなりご立派なモノを持っていらっしゃる。


 制服の上からでも分かってはいたが、改めて見ると……凄いな、この


 俺の知りうる幾千万語の語彙力を総動員させ、この肉体を痴的に――違う、知的に表現するならば……すごい。超すごい。あとすごい。


 ほっそりとしていながらも出るところは十分に―――そして下品にならない程度の慎ましさを持って―――出ている。


 とりあえず、このパイパイはシロウ・オオカミの脳内データファイルのエロフォルダにぶっこんでおきますね♪


 瞳に、心に、魂にそのえちえちボディを焼きつけた俺は、満を持して視線はおっぱいからさらに上、顔へと向けた。


 そこには完熟トマトのように顔を真っ赤にした妹ちゃんが、いまだ「あばばばばばばっ!?」とわなわなと唇を動かしているところだった。


 澄んだ青空のような大きな瞳に涙の膜を作りながら、架空のイヌミミがピコンッ! と直立していて……ほんと可愛いなコイツ。


 お持ち帰りしてやろうか?


 なんてコトを考えていると、妹ちゃんが何やら俺の返事リアクションを待っているかのような目つきで見ている事に気がついた。


 な、なんだ? 


 何を期待して……はっは~ん?


 なるほどな、そういうことか。




「妹ちゃん」

「あ、あばっ?」




 おそらく『な、なにっ?』と言ったのであろう。


 俺は妹ちゃんに向かって、最高の笑顔を添えて、ハッキリとこう言ってやった。




「制服の上からでも分かってはいたが、おまえやっぱり……イイ身体してるよなっ! まるでエロ本のヌードモデルみたいだっ!」




 瞬間、妹ちゃんの剥き出しの豊かな胸元が大きく上下した。


 ――アカン、叫ばれる!?




「きゃ……」

「加速装置っ!」

「キャァ――むぐぅっ!?」




 妹ちゃんが大きく目を見開き、そのプルプルの唇が悲鳴という名のハーモニーを奏でる前に、俺は自分でも驚くべき反射速度で彼女のもとまで駆け寄っていた。


 蛇のようにぬるりと体を動かし、羽交い絞めの要領で妹ちゃんの背後にピッタリと張り付くと、片手で口元をガバッ! と覆う。


 ……さて、固めてしまったワケだが?




「むぐぅ~っ!? むぐぅ~っ!!」




 妹ちゃんのくぐもった声が手のひらから漏れる。


 うん、完全に対応を間違えたね。


 その証拠に、妹ちゃんが狂ったように俺の腕の中で暴れること、暴れること♪


 まぁ気持ちは分からなくもない。


 なんせ安心して着替えていたら、いきなり男が侵入、からの後ろから羽交い絞めである。


 うん、もはや貞操の危機である。


 今にもその扉から特殊急襲部隊、SATが突入してきそうだ。


 並みの男ならここで「どどどどどーすんの!? どーすんの!?」とト●セン音頭を踊り始める所だろうが、俺、シロウ・オオカミは違う。


 冷静に今回の事は事故だと、弁解した上で、誠心誠意、心を籠めて謝罪するのだ。


 そのためにもまずは、我が腕の中で暴れている妹ちゃんを落ち着かせなければ。


 俺は妹ちゃんの耳元にまで自分の唇を持っていき、吐息がかかるくらい近くでささやいた。




「――静かにしろ。お互い綺麗な体のままでいたいだろう?」

「~~~~~ッッ!?!?」




 ビックーンッ! と身体を硬直させ、だばだばと滂沱ぼうだの涙を流し始める彼女。


 ……さて、事態が悪化したワケだが?


 どうしてこうなった?


 気がつくと『豊満なボディを持った半裸の女子高生を後ろから無理やり羽交い絞めにし、美味しく頂こうとする男子高校生』の図が完成していた。


 ……これ、彼女に出るとこ出られたら、マズいんじゃねぇの俺?


 頼む神よ、俺にこの危機を乗り越えるだけの力を与えてくれ!




「あ~もう、まさか生徒会室に資料を忘れるなんて……うん? 鍵が開いてる? 誰かしら、不用心にもほどが――何をしているのですか、2人とも?」




 神は死んだ。


 タイミングでも見計らっていたのかと尋ねたくなるくらいナイスな、いやバッドなタイミングで、1番会いたくない人物古羊が部屋のドアを開けた。


 途端に俺の脳裏に『敗訴』の文字が踊り狂った。


 この女、パッドの時といい、毎度毎度、なぜ俺がトラブルのときにやってくるのだろうか?


 もはや俺のファンだとしか思えない。


 あぁ、もう終わりだ。


 俺の青春時代は今、終止符を打たれたんだ。


 こんな状況、神様じゃなければ打開することはまず不可能だろう。


 恐らくこの後、俺は古羊に変態扱いされ、ボコボコに殴られるという、数多のラブコメ主人公が通ってきた道と同じ道を歩むことになるだろう、間違いない。


 古羊は俺と自分の妹、そして部屋の状況を軽く確認し、




「――なるほど。生徒会室で体操服に着替えようとしていた大神くんが、同じく体操服に着替えようと生徒会室にやってきていた洋子と偶然鉢合わせをして、洋子に叫ばれそうになった瞬間、焦った大神くんは洋子を羽交い絞めにしてしまい、どうしたらいいのか分からなくなった……と言ったところですかね。まったくうっかりさんですね、大神くんは」

「おまえ……神かよ」




 不覚にも「抱いて!」と思ってしまったのはナイショだ。

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