具体的な身体の動かし方に移った。
「最初に聞いておくが、堀田君、高山君は右利きか?」
「はい」
高山と堀田が答えた。
「他のみんなは?」
「右利きです」
「俺も」
他の内弟子も全員、右利きであると返事した。
「分かった。それでは右利きということで説明しよう」
伊達は御岳に前に出てくるよう指示した。御岳を若林役にするつもりだ。
「御岳君を若林先生とすると、警護する者はどこに立てば良いと思う」
再び内弟子に質問した。
全員、顔を見合わせ、分らない、といった表情をしている。答えは限られているが、あてずっぽうで言っても意味が無い。もし言っても、すぐに伊達に質問され、そこで立ち往生するのは目に見えている。こういう稽古での返事というのは、言えば良い、というのではない。武の理に即していることが大切なのだ。内弟子のみんなは、そういうことはしっかり理解していた。
答えが出てこないようなので、伊達が答えた。
「右側に立つんだ」
そう言うと、伊達は御岳の右側に立った。
「そして、どうする?」
先ほどと同様、内弟子は顔を見合わせ、答えが出てこない。こういう場面について考えたことがないので、当然といえば当然の結果だ。
伊達もその状態を察し、立ち位置の理由や、その際のポイントを説明し始めた。
「警護対象者の右側に立ったら、左手にマイクを持つ。いつも利き手である右手は自由に使えるようにする。また立ち方は、対象者と並ぶように立つのではなく、右側を少し斜め後ろに引くようする。しかし、目線は対象者を見るのではなく、常に正面を向くことが大切だ。何故か分るか?」
「不審者がいるかどうかを観察するためですか?」
御岳が答えた。若林役として伊達の横に立ち、しかも元自衛官ということが他の内弟子とは違った意識で考えたのだ。
「その通り。聴衆の中におかしな動きをするものがいないかとか、実際に行動を起こすタイミングを見逃さないためだ」
この場面設定は、聴衆と警護対象者との間にそれなりの間合いがあることが前提になっており、もしもの場合というのも、何か物を投げられた場合にどうするか、といったことになっている。
そのため、実際の動きでは正面から飛んでくる物に対して、左右の何れかに避けることになる。運足と転身が重要だ。
ここになると、内弟子に質問しながらというのは効率が悪いし、正解が出ることは考えにくいため、実際の動きを示しながら解説していくパターンになった。