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怪我 12

 午後後半の特別稽古は武道の部だ。

 整体術にも興味があるが、血気盛んな年頃だけに、やはり武道の稽古は一段と意識が高まる。ましてや特別稽古の初回で、しかもこの日は整体術でこれまでの経験にはないことを学んでおり、普段より期待値がアップしている。一様に顔が上気しており、ヤル気満々といった感じだ。

 武道の稽古の内容に期待をはらませ、みんなで盛り上がっている時に伊達がやってきた。伊達はみんなの顔を見て、すぐに言った。

「みんな、ずいぶん気合いが入っているな。これから空手の稽古に入るが、怪我しないように注意しろ。今みたいな時はブレーキが効きにくいので、逆に冷静になることを意識するように。では、稽古を始める」

 特別稽古の初回ということで、今回は基本の徹底がテーマと告げられた。予定の2時間のうち半分以上は基本になる。残りの時間は組手になるということだが、メインは前半だ。

 そして今日は、基本といっても定位置稽古だけで、移動稽古はない。つまり、その場に立ったままで数をこなすといったものだ。しかも、その数は決まっていない。伊達がOKを出すまで延々と続く。

 まず、中段突きから始まった。

 最初はとりあえず100本ということだったが、誰か一人でも問題ありと認められれば、どんどん加算される仕組みになっている。緊張の持続を強いるが、実戦ではちょっとした気の緩みが勝敗を分けることから、いかに気持ちを弛ませずにできるかを理解してほしかったのだ。

 まず基本の立ち方である、内八字立ちの確認から始まった。形はできていても、肝心の締めができていなければ不十分とされる。伊達は一人一人の脚の状態を確認し、足刀で膝を蹴り、きちんと土台としての状態が確保されているかを確認した。

 その上で拳の状態、構えの細かなチェックを行い、一人一人の癖に対しても細かくアドバイスをした。

 そこから実際に突きの稽古が始まるが、数をこなすのはここからが本番だ。

「中段突き、始め! 1、2、3、…」

 伊達が気合を入れてカウントする。一人一人に十分な目配せをしながら行うため、誰一人として気を抜くことができない。ちょっとでもずるいことをしようとすれば、それは全体責任となり、数が加算される。できるだけ最初に提示された100本に近いところで終わり、次の稽古に進みたかった。

 だが、突いている最中に脚の締めがおろそかになったり、正拳の握りが甘くなったり、突く位置に乱れが生じたりと、加算の要素はどんどん出てきた。

 そういう状態でおよそ1000本くらい突いただろうか、やっと中段突きが終わった。

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