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怪我 23

 堀田が怪我をしてから数日経った。症状は回復しつつある。堀田も自室にこもっているばかりでは退屈だし、みんなとも話したいというところから、事務所に全員集まることになった。

 もっとも、堀田が動けない時、内弟子全員で代わる代わる訪れ、食事の世話や掃除などをしていた。怪我をした次の日には、もうそれなりに動ける状態ではあったが、そこは仲間だ。弱っている時にはみんなで助け合うという、良い関係ができている。堀田にすれば、ちょっとオーバーかと思うようなこともあったが、内心、とてもありがたいと思っていた。

 この日も高山が堀田の部屋を訪れ、一緒にやってきた。すでに事務所には、伊達を含め全員集まっている。

「どうだ、様子は?」

 伊達が尋ねた。

「ずいぶん腫れは引きました。痛みもあまりないし、もう稽古できるかな」

「調子に乗るんじゃない。しばらく運動はするな、と言われただろう。先生、もうしばらくやらないほうがいいですよね」

 龍田は堀田に言った後、伊達のほうを向いて尋ねた。

「多少引いたとは言っても、まだ腫れが残っている状態では控えたほうがいいな」

 堀田と龍田の2人を見ながら伊達が言った。

「それみろ。でも、賢。もしかするとまた怪我して、あの時のきれいな看護師さんに会いたいのか?」

 龍田が冗談っぽく言った。その顔は少しにやけていた。

「違いますよ。僕は少しでも遅れを取り戻したいと思って…」

 そう言いながらも、少し顔を赤らめて答える堀田だった。それを見て、他の内弟子たちは思わず笑った。

「では、ここでこういった怪我をした時の対応を話そう」

 場が和んだところで、伊達が話し始めた。みんなの視線は、伊達のほうに集中した。

 何か学ぼうとする時、決まったカリキュラムでスケジュール通りに進む方法もあるが、効果的と思える内容はイレギュラーでも一つのテーマとして教えるというのが伊達の方針だ。

 もともと内弟子として入門している者は、決まりきったものよりも、もっと実践的でおもしろいと思えることを学びたいという気持ちで集まっている。そういう意味で、伊達の教え方というのはみんなの興味を引きやすい。

 今回は、怪我をした堀田には申し訳ないが、ある意味、一つの事例にもなることなので、そこから学ぶべきことを説明しようというわけだ。

「数日前の堀田君のケースを例にとって説明するが、整体術で何時でも何にでも対応できるとは思わないことだ。突然起こったトラブルについては、状況をきちんと見定めてから対応しなければならない」

「でも、先生。ちょっと前に一般の整体術の講座の中で、ギックリ腰の調整をしたじゃないですか。あういうのはいいんですか?」 龍田が質問した。その意図の中には、活法としての意識があるからだが、身体の見方、好転の意識というのは養生法的な意味合いだけでなく、いざという時の武術的な対処法にも関わってくると考えたからだ。

「あのギックリ腰の時と、今回の堀田君のケースと何が違う?」

 伊達には質問の意図は分かっていたので、その違いを説明しようとした。

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