高山も龍田も患部を見たが、素人目に見ても腫れている様子が分かる。その光景は、特に高山には辛く見えた。とんでもないことをしてしまった、という後悔の念が改めて湧いてきた。
怪我をした堀田もさることながら、この様子を見た高山も心配の度合いがさらに高まった。そのため、堀田よりも先に状況について説明を求めた。
「先生、どうでしょうか?」
「ずいぶん腫れているが、破裂ということではないようです。ファールカップを着けていたことが良かったのでしょう。痛みは激しいと思いますが、心配しないでください。まず今日は患部をきちんと冷やし、様子をみてください。痛み止めと消炎剤を処方しておきます。薬局で薬を受け取ってください。それから、しばらく運動は控えるように。痛みが取れ、腫れが引いたら運動しても大丈夫ですよ」
意外とあっさりとした言葉だった。
しかし、「心配しないでください」という一言に、これまで張りつめた気持ちが一気に解放された。これまでは3人とも心配で心の中が一杯だったが、ここで気持ちが楽になった。堀田も診察してもらったという安心感と医者の言葉から、表情がだんだんほころんできた。
すると不思議なもので、堀田は怪我の痛みが薄れていくことを感じていた。心配が痛みを増大していたわけだが、その重しが取れたことで感覚も変わってきたのだ。
「堀田君、ごめんね。もうちょっと気を付けていれば良かったけど…」
落ち着いてきた堀田に高山はもう一度謝った。先ほどまでは痛みでしゃべれなかった堀田も、安心したおかげで口がきけるようになった。途切れ途切れではあったが、高山の言葉にきちんと返事した。
「…大丈夫ですよ、高山さん。俺もついムキになって向かっていたんだし…。ちょっとしたタイミングのズレで、…もしかしたら僕が高山さんに怪我させたかもしれないので、…おあいこということにしましょうよ」
堀田のこの言葉に、高山は少し安心した。3人は医者にお礼を言い、診察室を出た。
薬が出るまでの間、高山は待合室にある公衆電話から伊達に連絡した。
「先生、堀田君、大丈夫でした。腫れが引けば空手もまたできるそうです」
その声は安心感からか明るく、電話を通しても高山の表情が伊達に伝わった。
「そうか、それは良かった。では、堀田君を2人で部屋まで連れて行ってくれ」
「はい、分かりました」
高山は電話を切り、堀田のところに戻った。薬が出るまでの間、大したことがなかったことを3人で喜んだ。