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怪我 21

 受付で状況を説明した。高山としては自分が怪我をさせたという意識から、少しでも早く診察してほしかった。その気持ちが前に出てしまい、受付の人に早く対応してもらうようお願いしたが、待合室には数人待っており、その後の診察になった。

「ごめん。もうちょっと気をつけていれば…」

 高山は立ったまま、申し訳なさそうに謝っている。堀田は待合室のソファーに横たわり、唸っている。高山が謝罪していることは堀田も分かっているが、痛みが強くて言葉が出ず、ほとんど会話になっていない。

 しかし、高山に心配するなとでも言うように、軽く数回触れた。その意味は高山にも分かっただけに、余計に胸が詰まった。高山は心配するだけで何もできない自分が悔しかった。

「堀田さん」

 診察室から出てきた看護師が、堀田の名前を呼んだ。やっと診察の番が来たのだ。実際の時間は大したものではなかったが、3人にとってはとても長い時間だった。思わず高山と龍田の顔に笑みが浮かんだ。堀田も痛そうな顔をしつつも、ちょっと嬉しそうな顔をした。

 高山と龍田は、立てない堀田の両脇を抱えるようにして診察室に入った。

 まず堀田をベッドに腰掛けさせ、その上で龍田は頭のほう、高山は足のほうに立ち、静かに堀田を仰向けにさせるべく身体を動かした。

「どうしました?」

 医者は怪我の様子を堀田に尋ねようとしたが、痛みのためにうまく喋ることができない。

「…えーと、足が当たって…」

 高山が堀田のほうに向いて、手でしゃべらなくて良い、というジェスチャーをした。

「実は空手の稽古中、蹴りが金的に当たってしまいました。大丈夫でしようか?」

 堀田に代わり、高山が事情を説明した。傍らでは龍田が心配そうな顔で立っている。

「そう、それじゃ患部を見せてください」

 医者は慣れた口調で言った。若くて美形の女性の看護師が堀田のズボンと下着を下ろした。堀田は痛みと恥ずかしさで顔を赤らめたが、医者も看護師も仕事としてやっていることなので、眉一つ動かさなかった。


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