数回の仕切り直しの後、堀田が勢いだけで攻撃をしかけた。飛び回し蹴りの強襲だ。
やや遠間から、右足を大きく前に移動して踏み切り、左膝を引き上げ、その直後、右足で高山の上段を外側から円を描くような感じで蹴ろうとしたのだ。
堀田の動きが大きかったため、高山はカウンターで取れると判断し、右の回し蹴りを放った。堀田が飛んでいるため、当たる部位は中段を狙うが、高山にとってみれば上段の高さになる。
ただ、高山が回し蹴りを放つタイミングはほんの一瞬、遅れた。堀田の勢いに、わずかに気持ちが押されたのだ。その分、堀田が高山に近づくことになるが、間合いの関係で運悪く、堀田の金的に当たった。高山は瞬間的に止めようとしたが、飛び込んでくる堀田の勢いがあり、フルパワーではなかったが直撃した。
ファールカップ越しであり、フルパワーではなかったとはいっても、空手家の蹴りだ。それなりの威力がある。堀田はたまらず床を転がった。金的を押さえながら身体を丸くし、苦しそうに声を上げている。かなりの激痛が堀田を襲っていた。
「大丈夫か」
口々に叫び、堀田のそばに集まった。一番心配したのは、蹴った高山だ。もし、取り返しのつかないことにでもなったらどうしよう。そんな思いが高山の頭の中を駆け巡った。高山の表情は心配で曇り、傍目にはオロオロしているようにも見えた。
いくら実戦を想定した組手とはいっても、相手を傷つけるのが目的ではない。同じ内弟子仲間として、もしこのことが原因で堀田が辞めることになったらどうしようといった心配や、怪我そのものの心配などが複雑に絡み合い、平常心はとっくに失っていた。
伊達はすぐに堀田の様子を観た。
道衣のズボンを脱がせ、ファールカップを外した。さすがに下着までは取らなかったが、下着越しに睾丸をふれてみると、みるみる腫れていくのが分かった。カップのおかげでつぶれてはいないが、ここでは睾丸活の一つとして下腹部を緩めるまでに止め、外科的対応をしなければならないと判断した。
「すぐ病院に連れて行きなさい」
こういう場合、医者以外の者が応急処置以外のことをしないほうが良い。伊達の指示で、高山と龍田が近くの救急病院に運んだ。