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ガン 8

 御岳は郷里に帰った日だけのんびり過ごし、次の日に病院に行った。今回の帰郷は単なる里帰りではない。ガンとの戦いなのだ。なるべく早く治し、またこれまでの生活に戻りたい、という気持ちになっていた。

 両親は、事前にどの病院が良いかをリサーチしていてくれた。その上で、なるべくスムーズに受診できるよう、予約も取っていてくれた。御岳も自分の出身地なので大体の見当はついていたが、最近の情報は知らないので、ここは両親の勧めに従った。

 受診する病院は市内で一番設備、スタッフが充実している市立総合病院だった。御岳がイメージしていたところと同じだったので、何の問題も感じなかった。

 この日は最初の診察の日で、担当医に東京から持ってきた診断書や紹介状、レントゲン写真などを渡し、簡単な検査が行われた。

 検査結果が出るまでの間、しばらく待合室で時間を過ごしたが、これからの闘病生活のことを考えていた。

 自分ではハラを括っているつもりでも、こうして待っている間はいろいろマイナス思考になる自分を感じている。そしてもう一人、気丈な自分からの叱咤激励がある。

 御岳自身としては、後者のほうに気持ちを持っていきたいところだが、どうしても前者の意識も頭をもたげてくる。その度に、こういうことは何度も考えてきたではないか、そういう気持ちが迷いを打ち消そうとする。

 東京の病院で検査を受け、結果を知らされた後、公園でいろいろ考えた自分の姿がよみがえってくる。

 ここでも同じ葛藤をしている自分が、情けなくなってきた。そしてその反動で、東京を離れる時、内弟子の後輩にあれだけ見栄を切って出てきたではないか、という思いが強くなってきた。

 ここに来て再度、迷いが振り切れた。

「俺はここに悩みに来たのではない。ガンと闘い、克服するために来たのだ。今更悩むことなどない」

 今度は本当に明確に、自分の立場を意識することができた。戦いの場に来たから当然なのかもしれないが、御岳は改めて人の心の弱さを感じていた。だが、心の弱さを振り切った瞬間、今度は逆に強い意志が目覚めた。

 御岳は顔を上げ、しっかりガンと戦う決心を改めて確認した。

 診察室に呼ばれ、担当医からこの病院での所見を聞かされた。東京で聞いていたことと同じだった。ここではまず治療のための詳しい検査を行い、その後にどういう治療を施すかの方針を出す、ということを聞いた。その後、入院の日程を打ち合わせた。

「では御岳さん、入院は明後日ということでよろしいですか?」

 医師が尋ねた。

 御岳としては今からでも良かったのだが、病院にも都合がある。また、入院するのに手ぶらというわけにもいかない。両親がいろいろ面倒見てくれるにしても、自分で準備しなくてはならないものもある。明後日という日程は、現実的にはちょうど良い日程だった。

「分かりました。また明後日伺います」

「では、受付のところで入院の手続きについての説明を受けてください。私たちも全力で当たります。詳しい検査は入院後に改めて行いますが、今のデータから考えると、まず問題なく良い結果が出ると思います。お任せください」

 医師は笑顔で、自信あり気に語った。

 その姿に、すべて託す決心をした御岳だった。

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