高山と堀田は、東京に戻るとすぐに事務所に行った。着くのは7時前後と思われたので、東京に戻るまでの新幹線の時間を有効活用しようと、車中で駅弁を食べた。旅の楽しみの一つに食があるが、2人は帰る時もM市行きを満喫したわけだ。
もっとも、それは先発組の松池と龍田も同様で、高山たちも松池たちから話を聞いていたことと、実際に御岳の様子を自分の目で見て安心したことが根底にある。そういうことがなければ、内弟子のいずれも長男格の御岳の見舞いを理由に、気を抜くことなどはない。今回のリラックスムードは、実は御岳の様子を見て今後が明るいものと判断した結果だったのだ。
東京駅から事務所まで小一時間くらいかかるが、2人は予定通り到着した。ドアを開けると、伊達が待っていた。
「今、帰りました」
2人が帰りの挨拶をした。御岳の様子を自分たちの目でも確認し、希望が持てたことが表情に表れていた。みんな一緒に見舞いに行ったわけではないが、前回の松池と龍田の場合と同様、全員で訪れたことの意義は十分にあったと伊達は確信した。
「お帰り。どうだった?」
伊達が言った。
「はい、御岳さん、元気でした」
高山が答えた。
「そう、それは良かった。ところで君たちも、ずいぶん元気にがんばったようだね」
伊達の意味深に言った。全てを見透かされているような感じだ。伊達の目は、特に堀田を見ている。
「えっ? どういうことですか?」
思わず堀田が、戸惑ったような感じで尋ねた。
「どういうことって、自分の胸に聞いてみなさい」
伊達は腕組みをしながら言った。伊達のこういう姿を見ると、妙に緊張する。
「もしかすると、喧嘩になりそうだった話のことですか? なぜ、ご存じなんですか?」
高山が言った。別に隠し事をするつもりはなかったのだが、言いにくいことも事実だ。何かのきっかけで話そうとは思っていたが、伊達に先を越された形になった。