お昼過ぎ、見舞いに行く時間になった。一度行ったところなので、地図を見ながらでもある程度見当がつく。2人はそのまま徒歩で病院に向かった。
御岳の病室は分かっている。受付でお見舞いの旨を伝え、2人は御岳の病室に向かった。
御岳はベッドでくつろいでいた。2人の訪問にすぐに気づき、会釈をした。その後、談話室のほうに行こう、というジェスチャーをし、3人は病室を出た。他の患者さんたちに気を使ってのことだ。
談話室に入ると、高山が言った。
「御岳さん、俺たち、お昼くらいの新幹線で帰ります。今度は東京で待っています」
「そう。帰る前に寄ってくれて、ありがとう。ところで、お蕎麦屋さんには行った?」
「はい、行きました。俺、79杯食べました。証明書がこれです」
堀田が証明書をもらったことを嬉しそうに言った。龍田がもらえなかったものをもらって、ちょっと得意げな感じだ。基本的に龍田と堀田は似ている部分があり、こういう食欲自慢的なことは東京でもやっていた。だから今回、はっきりと証明書をもらったことが嬉しくてたまらないのだ。
「すごいね。たいていは30杯前後だというのに。賢は食べるねぇ」
御岳が感心ながら言った。
「それから夜は、ちょっとしたスリルもありました」
御岳の言葉に気を良くしてか、堀田が言った。この時も、妙にうれしそうな表情で言った。御岳にはちょっと意味が分かりかねたので、すかさず尋ねた。
「えっ? スリルって?」
「実は昨日の夜、映画館のそばのゲームセンターに行ったんですよ。ちょっと肩がぶつかって、危うく喧嘩になりかけたんです。幸い、高山さんのおかげで大丈夫でしたけど…」
堀田が言った。堀田の顔には、それが問題であることの自覚はない。旅先での良い思い出の一つくらいの感覚なのだ。
だが、本当にトラブルになれば面倒なことになる。御岳はすぐに堀田に言った。
「あっ、あの辺りか。あまり良くない場所だな。喧嘩しても2人なら勝っただろうけど、後が面倒くさいから、逃げて正解だよ」
「ほら見ろ。やっぱりみんな、そう言うだろう」
高山が堀田のほうを見て言った。
「そうですね。反省します」
すまなさそうに堀田が言った。ここは堀田を責める場所ではないので、この話はそこで打ち切りになった。
それからしばらく雑談が続き、病院を後にした。
2人はそのまま駅に向かい、東京に戻った。