伊達の目がさらに光を増した。暴走族とは縁を切っている、ということが内弟子入門の条件だった。それがまだ続いているならば、明らかな背信行為である。それを今まで隠していたというなら、重大な問題だ。伊達はこういうことには人一倍うるさい。
そのことは龍田もよく理解していた。だからすぐに伊達の目を見て、はっきり否定した。
「そんなことはありません。入門させていただく時にお話したように、もう関係はありません。きちんとしてきました」
この言葉に嘘はなさそうである。
「では、何だ?」
関係ないと言いながら、昔の暴走族時代の話が出てきたことに、それはどういうことなのかということを、しっかり聞いておかなければならないと、伊達は思ったのだ。
「俺が頭やっていたチームは、結構イケイケで、他からも恐がられていました。それだけ派手なことをやっていたんです。そんな形を作って後輩に譲ってきたんですが、その時よく喧嘩していた連中のことなんです」
少し話の流れが変わってきた。昔の仲間というより、相手方との関係での悩みだったのだ。
「なるほど。もし、以前の仲間とまだ関係があるようだったら即、破門だったが、そういうわけではないようだな。しかし、その時の相手が何で今頃、関係してくるんだ?」
伊達の表情は和らいだが、質問はさらに続いた。
龍田も続けて話した。
「俺は20歳になった時、族をやめましたが、他のいくつかのチームのOBが集まって新しいチームを作り、つるんでいるみたいなんです。しかも、その時のライバル同士だったところの連中とも…」
「それで?」
なかなか話が核心に入っていかない。煮え切らない話に伊達は、龍田の悩みの種を早く聞き出したかった。
「そいつらが俺にちょっかいをかけてくるんです、最近。…俺が辞めた後、後輩に譲ったチームもだんだん力を無くしていって、その新しいチームの連中が力をつけてきてるんです。それで俺にも仲間にならないかとか、ならないなら俺がいたチームをつぶすぞ、とか言ってきました。俺はここに来ているので喧嘩はできないし、また暴走族に戻るのも嫌です。最近そういう電話が立て続けに入ってきて、それで悩んでたんです」
やっと理由が分かった。しかもそれは、悪いほうに引っ張ろうとする誘いへの反発による悩みだったのだ。
そうなると龍田に対して全面的に応援できる。
「…そうか、分かった。全員に集まるよう、伝えてくれ」
伊達は龍田の説明に納得した。そしてこのことは、内弟子みんなにも関係するので、全員に事情を説明することにしたのだ。