龍田以外の内弟子は、全員外で待っていた。そこに龍田が伊達からの伝言として、事務所に集まるよう声をかけた。伊達に相談した分、いくらか龍田の表情は変わっていたが、問題が解決したわけではない。まだ険しさを残したままの龍田の呼びかけに、その理由がはっきり示されるものと期待し、内弟子たちは事務所に入った。
伊達を中心に、その横に龍田が座った。他の内弟子もテーブルの周りの椅子に座っている。具体的な内容が分からないので、みんなの表情は固い。場の雰囲気も同様だ。
「…みんな。今、龍田君と話して、彼が悩んでいる理由が分かった。…御岳君のような病気のことではないので安心してほしい。しかし、場合によっては面倒なことになるかもしれない。…だがそこは、全員で協力して事に当たってもらいたい」
伊達は全員を見渡した上で、話を切り出した。詳細については伊達にも分からない部分があるので、一言一言区切りながら話した。
ここは詳細について龍田からの話が必要になるが、その空気を感じ、続いて龍田が話し始めた。
「俺のことで心配かけてすみません。もっと早く相談していれば、何日も暗くならずに済んだんだけど、雰囲気悪くしてごめんなさい」
最初に出てきたのは、みんなに対する謝りの言葉だった。龍田も自分の様子が周りに影響していたことを知っていたのだ。もちろん、他の内弟子は心配こそすれ、それに対して不満を持っているわけではない。むしろ、龍田の悩みについて、最初に伊達が言った『全員で協力して』という言葉の意味が何なのかを知りたかった。
「その心配事って何ですか?」
堀田が尋ねた。
「俺が昔、暴走族の頭だったことは知っているよね。実はその頃の連中から、とは言っても自分のチームからじゃないけど、ライバルだったところの連中が何人かで新しいチーム作って、俺を引っ張り込もうとしているんだ。…大体俺と同じ位の年だけど、まだ族みたいなこと、やっているやつらなんだ。もちろん、俺は仲間になる気はまったくない。だけど、ならなければ後輩たちに危害を加えるとか、…こっちに押し寄せるとかも言っている。そうなるとみんなにも迷惑かけると思って、それで悩んでいたんだ」
やっと悩みを打ち明けた龍田は、胸の閊えが下りたような感じだった。
「なんだ、そんなことか。だったらもっと早く言ってくれればいいのに。もしやってきたら、みんなでやっちゃいましょうよ」
龍田と同じくらい血の気が多い堀田は、みんなの顔を見ながらすぐに戦うことを口走った。
だが、伊達がそんなことを許すはずがない。
「またそんなことを言うか。喧嘩はどんな理由でも駄目だと言ってあるだろう。だから龍田君も悩んだんじゃないか。そこを考えなさい」
強い口調で叱った。