その後、組み合わせを変え、総当たりの形で組手が行われた。いずれも最初の戦いに勝るとも劣らない熱戦が続き、黒田たちに対するアピール効果は絶大だった。明らかに戦う意欲を失ったことが顔に現れている者もいる。
伊達はさらに心理的に有利に運ぶため、黒田たちが勝っていると考えている武器のことでも優劣を明確にしておこうと、組手に続いて武器術の稽古に移った。もともとそのつもりで用意していたが、組手だけで恐れをなして引き揚げれば、そこまで行わないという選択肢もあった。だが、まだ解散するまでにはなっていないので、さらに差を見せるため、武器術の稽古も見せることにしたのだ。
「では次、各自が持ってきた武器の稽古を行なう。まず各自、手に馴染むよう、基本稽古を行ないなさい」
伊達がそう言うと、各々武器を取り、稽古を始めた。
棒を持っている松池は、その長さを十分活かして振っている。基本的な棒の持ち方はちょうど3等分するような形にするが、その持ち方を変えて近間・遠間に対応する。相手との間合いや、どんな武器を使っているかで変化できることが特徴だ。瞬時に変化する様子は、素人が力任せに棒を振ることとわけが違う。スピード・パワーと共に、素人では予測不能の動きが展開され、その部分でも黒田たちの度肝を抜いた。黒田の仲間の中にも棒を持っている者がいるが、松池の動きは同じような武器を持っている者に一番ショックを与えたようだ。
また、棒を振る時、きちんとした使い方をすれば風を切る音が出せる。松池もしっかり稽古しているので、その動きは鋭く、近くにいるとその音が耳に入る。黒田たちのところまでは聞こえないが、遠目に見てもその鋭さだけは分かるくらいのレベルで行なっている。そのスピードで攻撃されたら、といったことをしっかり心に刻み込ませれば成功だが、松池の動きは黒田たちを畏怖させるのに十分なものだった。
龍田はトンファーの稽古だ。両手に持ち、回転させて打つところでは、やはり風を切る音が聞こえる。前腕より少し長くなっているので、実際の射程距離は腕の長さの5割増しといった感じになる。操作の方法によっていろいろな角度から出てくるため、避けたと思っても入ってしまう事が多い。しかもそれを両手で行なわれては、多少武術の心得があったとしてもなかなか防げるものではない。それを自在に操る龍田の姿は、黒田たちにとっては大変な驚異になっているはずだ。
暴走族時代、喧嘩の道具としてトンファーを使っている者もいた。たぶん映画などで見て、喧嘩にも使えると思っていたのだろう。だから、見よう見まねでやっている者もいた。黒田の仲間の中にもいるかもしれないが、素人が持った場合と、きちんとした武術的稽古がベースになっている場合とでは全く動きが違う。その点は龍田のトンファーの扱い方を見て感じているはずだ。
おそらく黒田たちに馴染みがないであろう釵は、堀田が使っている。4人の中では地味な感じの武器だが、唯一の金属製だ。表面にはメッキが施してあり、銀色に光っている。そのため、見た目には刃物のイメージがあり、ある意味これを持たれると、他の武器とは異なった緊張感が湧いてくる。光物の怖さ、ということだ。